上から見るとやっぱり苦戦してるように見える。
壊れかけた柵を守りながら、そこを更に壊して入り込もうとするゴブリンと戦っている人達。柵の壊されていない場所では近づけないように矢を射たり、あの爆発が魔法なのかな? ひっきりなしに土煙が広がり火花が散る。
そのまま大きく周辺を回る。あたし達が来た方向に目を移すとかなりのスピードでこちらに向かってくる一団が見えた。
「きっとあれが増援の人達だよね」
『そのようだな』
「ちょっと近くに行って」
ボルドールは、すうっと降下しながら彼らに近づいていく。先頭で馬を走らせている人が手を振っているのが見えてきた。あれは確か蓮と話していた人じゃないかな。
あたし達は彼の横にピタリと並んで飛ぶ。
「勇者様とご一緒に来られた方ですね」
「はい! つかさと呼んでください……あの! 急いでもらえますか」
「どうしました」
「こちらから見て右手側が柵を越えて入り込もうとするゴブリンをなんとか止めてるところなんです。入り込まれたら危ないと思うんです」
頷いた先頭の人は後ろの騎馬隊に向かって叫んだ。
「急ぎます! 着き次第、二小隊は北の集落に近い方の援護に行ってください」
後ろから応、と声が上がる。
「ありがとうございます。申し遅れました。私はラウールと申します。陣にいるトゥロという者にもうすぐ我々が到着するのでそれまで持ち堪えてほしいとお伝えください」
「わかりました」
馬を走らせるラウールさんは騎馬隊のスピードを上げる。
それに手を振って、あたしとボルドールは高度を上げると自陣へ直行した。
「トゥロさんはいらっしゃいますか! 増援のラウールさんからの伝言です」
陣のほぼ中央で指揮を取る人が振り向いて手を挙げた。
遠目からでもわかるがっしりした体つきを頼もしく感じる。あたしは状況を伝えるために走った。
「もうすぐ到着するのでそれまで持ち堪えてほしいとのことです。今、森を抜けたところを走っています。それと少し前ですけど戦ってる人達、柵が壊れてるところの右側のほうなんですが危なそうに感じました」
「ありがとうございます。助かります。おい、みんな! もうすぐ増援が到着するそうだ! 踏ん張りどころだぞ!」
おお! と声が上がって皆の戦いにも熱がこもる。伝令が数人、トゥロさんの言葉を伝えに走っていく。
「あの……っ!」
「何でしょう?」
「蓮は大丈夫でしょうか」
トゥロさんは難しい顔で太い腕を組んだ。
「勇者様のことですから大丈夫だと思います。飛んでいるところは見えますでしょう?」
「はい」
「ふむ……この感じならもうすぐ決着はつきそうですね」
「そう、なんですか」
トゥロさんは豪快に笑うとあたしに向かって大きく頷いた。
「なあに、そこまで心配なさらなくても大丈夫ですよ。ご無事で戻られますとも」
「ええ」
無理矢理笑ってその場を離れたけど……
トゥロさんの気遣いはありがたいよ。でも、さっき見た時あちこち飛び回ってたのは向こうの指揮官ってのを探してるんだよね。だからまだ決定打が打てないのかもって思うし……ああ、本当に一人で大丈夫なのかな。
ほとんど無意識だった。
あれ? なんであたしここにいるの?
「蓮?」
「つかさ!? 何やってんだ、戻れ!」
怒鳴られて首をすくめる。
「ごめん! 待ってたつもりだったけど」
「とにかく上あがれ! やつら弓持ってる」
気がつくとすぐそこに彼が見える位置までボルドールを駆っていた。
「どうしたんだ、何かあったのか?」
「本当にごめん。あんたが一人で戦ってると思ったら、気がついたらここにいた」
あたしがそう言うと、彼は一瞬ポカンと口を開けて、それから困ったように笑った。
「お前、しょうがないやつだなあ」
「何よそれ! 心配したのに」
「わかってる。ありがとな」
「もうすぐ増援が到着するし、それ聞いて士気が上がったの。それだけでも伝えとく」
「わかった」
「戻るよ。ちゃんと向こうで待ってる」
その時ヒュッと矢が上空に向かってきた。
どう考えても下に落ちるだけだから空にいるあたし達に矢を射ても無駄になると思うんだけどな。ああ、やっぱり矢は途中で失速して地上に落ちていく。でも、その中の一本があたしのドラゴンの足にコツンと当たった。
「ひっ!?」
「くそ、強弓か。そんなのも持ってたのか」
『ご主人には当たっていないし、私にはちょっと触っただけだ』
慌てたような口調でボルドールに言われたけど、あたしは目の前が真っ暗になった。
怒りで。
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