「これでしょ、貴方達が探している剣」
指差された先にあるのは古ぼけた木の箱だった。根が抱え込むように纏わりついている。取り出すのはなかなかに大変そう。
「この剣が刀箱に入っているうちに取り出して欲しいのよ。これ以上ここにあったら根が絡みすぎて取り出しにくくなるし、箱が朽ちたら抜身を抱えることになるもの」
そういえば布都御魂って物凄く斬れ味のいい剣っていう意味だって言ってたよね。斬れる威力そのものを体現してるって。
それを抜き身で持たされたらって考えたら……確かに怖いかも。
「箱が脆くなって力が溢れてきてるみたいなの。なんていうか棘が刺さったみたいで気分が悪いって感じ。だから早く取って」
「わかったわかった、大人しくそっちで待ってろよ」
あたし達は少しずつ根を避けて箱を引っ張り出していく。時間はかかったけどなんとかいけそう。
「これだけ動かせるようになったから、後、何本か避ければいいと思うんだけど」
「そうだな。ここと……ここ、それとこの辺」
蓮はそこまで言ってその先の言葉を飲み込む。あたしも蓮も考えてることは同じだと思う。でも、それはユグドラシルを傷つけるってことで……
「ゆーぐ、根を切らせてもらえないか」
「いいわよ、切らなきゃ無理なんでしょ。気持ちは伝わったからかまわないわ」
ユグドラシルは軽い口調でいいって言ってるけど、これ麻酔が効かないまま歯科治療するみたいなもんじゃないの? あたしはユグドラシルの手を握った。
「ありがと、つかさちゃん。わたしの全体からみればほんの一部分だから、そんなに痛くはないわよ。まあ、多分タンスの角に小指をぶつけたくらいね」
それ結構痛いやつだって!
「すまない」
蓮が根に刃を立てる度に空気が軋む。
痛くはないなんていいながら、それでも根が断たれる度にギュッと目を閉じるユグドラシルの手を握る。
「大丈夫、手握ってるからね」
「つかさちゃん……うん! がんばる」
……可愛い……けなげにがんばる女の子は可愛いじゃないか! でも笑った顔のほうがもっと可愛いんだから早く終わって!
ばさりと根を落としていた蓮が終わったぞと振り向いたのを見て、ユグドラシルはほうっと息を吐いた。
「……結構痛かったのね。ごめんなさい」
「うふっ、紙で手を切ったくらいの感じだったわ」
それも結構痛いやつだと思うんだけど。でもまあ、少しでも励ますことができたのならいいか。可愛いし。
「つかさ、反対側持ってくれ」
「うん」
これ思ったより大きい。根の間から箱を押し出してなんとか地面に降ろした。蓋を開けてみる。
「こうやって見ると意外と大きいね」
「ああ、それに剣っていうから両刃の直刀かと思ってたんだが」
「あたしもそう思ってた。これ、そこそこ反りもあるし、どっちかっていうと刀っぽいよね」
それにしても、どう見ても時代劇なんかで見るような刀よりだいぶ長い。
「どうやって持ってけばいいんだ?」
「そこで、わたしの出番よ! 喉に刺さった小骨が取れてすっきりした記念に、お礼として鞘を作ってあげるわね」
ユグドラシルが剣の上に手を翳すと、剣は光に包まれていく。聖樹の枝葉が刀身を包み込む。白鞘に収まり守るように塗りが重ねられる。柄が作られ糸がくるくると巻かれていった。
光が消えていくと、そこには鞘に納まった一本の刀剣が現れた。にしても長い刀だなあ。柄の部分も結構な長さになるんだね。
あれ? でもさ、こんなことができるんなら最初から刀箱動かせたんじゃないのかな。
チラッとユグドラシルを見ると、悪戯っぽい笑顔を返された。
「ほら、初めての共同作業ってやつよ」
「お、大人をからかうもんじゃないわよ!」
そう言ったら女神を侮るんじゃないわよとにっこり笑われた。
言われてみれば、あたしのほうこそ年下どころじゃない年下だった。はい、すみません。
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