夏休み二日目。
今日もアルバイトの為、私の楽園へ。
間違えた…ケーキ屋へ。
「おはよー!里中さん!」
「おはよ」
「今日も暑いねー!」
「そだね」
いつも通り無表情の里中さん。
だけど、私は知っている。
笑ったり、照れたりすることを。
また、笑ったところみたいなぁ。
そう思い、あれこれ話しかける。
「ねー!ねー!里中さんは好きなものってなにー?」
「ケーキ」
「私と一緒だぁ!」
「作る方ね」
「私と違ったぁ…」
「食べるのも好きだけどね」
「やっぱり私と一緒だぁ!」
「先輩には負けるよ」
昨日のことを思い出したのか、少し笑う里中さん。
「お?今…」
「笑ってない」
食いぎみにそう言うと、すぐに無表情に戻る。
んー!
これは手強い!
でも、諦めない!
私はさらに話しかける。
「里中さん、今日もケーキ作りの練習はするの?」
「するよ」
「じゃあ、また見学してもいいかな!?」
「いいけど」
「やったー!見学楽しみー!」
「楽しみなのは見学だけ?」
「ほんとは食べるのも楽しみ…です…」
照れながら言う私を見て、顔を背けながらクスクス笑う里中さん。
なんとか、里中さんが笑うところを見ようとするけど、またすぐに無表情に戻る。
ぐぬぬ。
そんなやりとりをしていると、お店の入口を開く音が。
私は来店の挨拶をし、お辞儀をする。
そして、頭を上げた瞬間凍りついた。
「かーずき!きーたよ!」
ニコニコしながら歩いてくる朝日。
「かずっちー!会いたかったよー!」
元気よく手を振る夏海。
「あらあら。そんなに騒いだら迷惑よ」
二人に注意すると、私を見て微笑む楓さん。
「王子様…。今日も素敵です…」
照れながらもそう言う雪。
私は顔がひきつりながらも、笑顔で質問をする。
「な、なにしにきたのかなー?」
「えー!かずきが頑張ってるから応援しにきたのにー!なにしにきたのってひどいよー!ねー!」
朝日が他の三人に同意を求めると、うんうんとうなずく。
まぁ、アルバイトすることは事前に伝えていたから、きっと来るとは思ってたけど…。
「本音は?」
「かずっちのメイド姿見に来ました!」
私の質問に正直に答える、夏海。
「でしょうね!」
なんで、メイド姿だってことを知っているかは質問しないことにした。
どうせ、お母さんから聞いてるんだとわかってるから。
「王子様のメイド姿…。とてもかわいいです…」
私の姿をじっと見つめながら褒めてくれる雪。
「恥ずかしいからそんな見ないで…」
「このメイドはいくらで雇えるのかしら?」
ボケとかじゃなく本気で言ってそうな目をする楓さん。
「このお店限定です…」
四人の対応をしていると、ずっと黙っていた里中さんが、この人達は?と質問をする。
すると、四人が自己紹介をした。
恋人であることも。
「恋人いたんだ…しかも四人も…」
里中さんがなにかをボソッ呟いた。
「ん?里中さんなにか言った?」
「なにも」
んー?なにか聞こえたんだけどなぁ。
とりあえず今は四人に里中さんを紹介する。
名前と綺麗な子だよね!と付け足して。
四人も、ほんと綺麗な子だね!と褒める。
すると里中さんが
「せ、先輩なにいってんの」
と、少し怒った表情になったので謝るとなんとか許してもらえた。
その後はなぜか私の話で盛り上がる五人。
会話に参加出来ず、ひたすら照れるしかない私。
相変わらず無表情だったけど楽しそうだった里中さん。
一通り話が終わると四人が持ち帰りでケーキを購入し、私と里中さんに頑張ってね!と言い帰っていく。
そして、ついに里中さんのケーキ作りのお時間がやってくる。
今日は苺のホールケーキ作りを見せてくれる。
それを昨日以上に目を輝かせて見る私。
なぜなら大好きなケーキの中でも特に苺のケーキが大好きだからである!
そんな私に里中さんが言う。
「ねぇ先輩」
「ん?どしたの?」
「普通のホールケーキなんだけど見てて楽しいの?」
「うん!すごい綺麗だし!それに私苺大好きだもん!」
私がそう言うと急にケーキ作りの手を止める里中さん。
「ん?どしたの?」
「な、なんでもない!うん!苺を使ったケーキ!が好きなんだよね」
「うん。そうだけど…?」
「な、なら大丈夫!」
里中さんはそう言うとまたケーキ作りを再開する。
なんだか少し顔が赤くどうしたんだろと思ったけど、邪魔したら悪いと思い、それ以上は聞かないことにした。
そして、綺麗な苺のホールケーキを完成させると、さらに次のケーキを作ろうとする里中さん。
「あれ?今日はまだ作るの?」
「うん。少し落ち込んでたけど、良いことあったからね」
「なにがあったの?」
「内緒」
「えー!教えてよー!」
「いいからそのケーキ食べながら見てて」
「はい…」
私はケーキを食べながら綺麗なケーキが出来上がっていく、二重の幸せを味わうことにした。
そして、里中さんが10種類のケーキを完成させた時、私を見て質問する。
「せ、先輩…?ちょっと聞いていい?」
「どしたの?」
「あのさ…」
なかなかその先を言ってもらえず、なにか言いづらいことでもあるのかなと、考えていると続きを話してくれる。
「さっきのホールケーキどうしたの…?」
「え?全部食べちゃったけど…」
「嘘…でしょ…」
「もしかして駄目だったの!?」
「う、ううん。いいんだけど…」
そこまで言うと急にお腹を抱えぷるぷると震える里中さん。
「え?え!?どしたの!?」
私は心配になり側に駆け寄る。
「せ、先輩食べすぎ!」
笑いながらそう言う里中さん。
「だ、だって…美味しかったんだもん…」
里中さんが笑っているところを見たかったけど、それ以上にケーキを全部食べたことが恥ずかしくなり直視できないでいた。
そして、里中さんの笑いが収まってくると私に言う。
「私が作ったケーキそんな美味しかったの?」
「う、うん…すっごく美味しかったよ…」
相変わらず恥ずかしくて里中さんを見ることができない。
「昨日のと、今日のどっちが美味しかった?」
「うーん。今日のほうが美味しかったかも?もちろん昨日のも美味しかったけどね!」
「きっと先輩を思って作ったからかな…」
なにか呟いていた里中さん。
「え?なに?」
よく聞こえなかったので質問をした。
「違いがわかるなんて先輩すごいなって言ったの!」
また里中さんが笑いながらそう言った。
「あー!それ絶対バカにしてるでしょ!」
「バカにしてないよ!」
「してるよー!もー!こうなったら残りも全部食べてやる!」
私は他のケーキに手をつけ始める。
「ほんと先輩面白い!」
「またバカにするー!」
「してないってー!」
そんなやりとりをしながら全部のケーキを食べ終わる。
「美味しかったー!」
「ほんとに美味しそうに食べてたよね!」
相変わらず笑っている里中さん。
「もー!まだ笑ってるー!」
「ごめんごめん!もう笑わないから!」
そう言いなんとかいつもの無表情に戻る里中さん。
「あー!もっと笑った顔見ればよかったぁ!」
「もう遅いよ」
「失敗したー!」
「残念でした」
「もう一回だけ…」
「だめ」
「そっかぁ…」
私が落ち込んでいると里中さんが言う。
「それにしても、こんなに笑ったのって先輩が初めてかも」
「そうなの?」
「うん」
なんだかその言葉がすごく嬉しかった。
そう考えていると里中さんが提案する。
「ねぇ先輩」
「うん?」
「私と友達になってくれない?」
「いいよ!というかもう友達だと思ってたけど!」
「そっか。ありがと」
「こちらこそ!それじゃあ仕事戻ろっか!」
「そだね」
こうして、私にケーキ屋の娘で、パティシエを目指す、いつもは無表情だけど、笑ったり照れたりもする綺麗でかわいい後輩の友達ができた。
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