夏休み初日。
私は特に予定もなかった為、午前中は夏休みの宿題をしていた。
一息つくためにアイスでも食べようとリビングへ向かうと、なにやらお母さんが困った顔をしている。
私が、お母さんどうしたの?と質問をする。
私を見てなにやら閃いたようで手をポンと叩くと、私に頼み事をした。
内容はこう。
お母さんの後輩が自営しているケーキ屋。
そこのアルバイト店員がしばらく出れなくなった為、短期で働ける人を探している。
お母さんに働けないかという話がきたけど、とある理由で断る。
でも、かわいい後輩を助けたい為、私が代わりに働きに行ってもらえないかということだった。
私はとある理由が少し気になったけど、その頼み事を受けることにする。
なぜなら、お母さんの後輩といえば、よくお母さんがケーキを貰ったりしていた為、私も助けてあげたかったから。
そして、行ったことはないけど、そこのケーキが美味しいのを知っていた為!
私の返事を聞くと、お母さんが後輩に連絡をする。
すると、午後からさっそく来てほしいと言われる。
こうして、短期間ではあるけど、ケーキ屋でアルバイトをすることになった。
午後になり、お母さんが書いてくれたメモを頼りにケーキ屋に着く。
初めてのアルバイトだった為、少し緊張する。
軽く深呼吸をして、がんばるぞー!と心の中で覚悟を決めると店内へ入る。
店内見渡すと、綺麗な内装とテーブル席がいくつかあって、購入したケーキを食べれる場所があった。
そして、なによりも数々のケーキ!
おいしいケーキ!
うぅ…食べたいなぁ…。
そう思っているとカウンターの奥から一人の女性店員さんが、いらっしゃいませー!と言い出てくる。
私はその店員さんにアルバイトで来たことを伝える。
すると、店員さんが、あー!あなたが!と言うと自己紹介をしてくれる。
どうやらこの人がここの店長であり、お母さんの後輩のようで、私を上から下まで眺めると、うんうん!昔の先輩そっくりでかわいいわね!と褒めてくれた。
私は照れながら、謙遜する。
店長さんが、うちの子は無愛想なのよねぇ…。と言うと、奥の方へと声をかける。
すると奥から、お母さんなに。と言い一人の女の子が出てくる。
見た目は赤髪ショートカットでクール系で大人っぽい感じの美人の女の子が。
店長さんが、これがうちの娘なのよ。と紹介してくれる。
私はすぐにその子に自己紹介をする。
「今日から短期のアルバイトで働かせていただく、上田一樹です!高校2年生です!よろしくお願いします!」
「よろしく」
無表情でそう言い、奥へと戻ろうとする女の子を店長さんが止めると、自己紹介をさせる。
「里中苺。高1」
また無表情でそれだけ言い終わると、奥へと戻ろうとする里中さん。
それを今度は止めないで、私に少し待っててと伝えると一緒に中へと入っていく店長さん。
店長さんは気さくな良い人だったけど、娘の里中苺さんはちょっと怖い感じなのかなぁ…。
そう考えていると奥から少し声が聞こえてくる。
なにやら、話し合っていたようで二人で出てくる。
「ついてきて」
里中さんがそう言うと、また奥の方へと歩き出す。
状況が理解できていないけど、一緒についていくことに。
案内されたのは更衣室のようで、これに着替えて。と言い、制服を手渡してくれる。
里中さんも一緒に着替えるみたいで、私もさっそく制服に着替えるのだけど…。
最後にカチューシャを付けて気づく。
「あ、あの…これってもしかして…」
私は恐る恐る里中さんに聞いてみる。
「メイド服」
先に着替え終わってた里中さんがそう答える。
ですよねぇ…。
お母さんが断った、とある理由ってこれだったんだ…。
初めて着たけど少し恥ずかしいよぉ…。
私がそう考えていると里中さんが言う。
「行くよ」
「は、はい…」
里中さん無表情だけどやっぱ慣れてるのかなぁ…。
そう思いながら先に歩く里中さんについていく。
それから、里中さんにカウンターの仕事を教わっていく。
基本的に私はお客さんに注文されたケーキを取り出すのと、ドリンクの準備をする係みたい。
そして、ある程度仕事を教えてもらい覚えていくと、恐怖の時間がやってくる。
そう…。
無言タイムが…。
「あ、あの…里中さん…」
「なに」
「あ、あのですね…」
私は無言タイムに耐えられず、思わず話しかけたけどなにも思いつかないでいた。
すると、里中さんから話しかけてくれる。
「そういえば」
「は、はい」
「敬語いらないから」
「うん!」
「私も敬語使わないけど」
「いいよ!私後輩の子に対してそういうの気にしないから!友達感覚で話しかけてね!」
私は里中さんと会話が出来たことが嬉しく笑顔で答える。
「変な先輩」
そう言いまた無言になる里中さん。
その後、少し混んできた時だった。
お客さんにケーキのおすすめを聞かれる。
里中さんにお願いした方が良いかなと、思ったけどレジの方で忙しそうだった為、私は以前食べた記憶を頼りにおすすめを答える。
すると、さらにどんなケーキなのか聞かれる。
私が詳しく答えると、お客さんも気になったようで購入してくれる。
そして、食べ終えたお客さんが、あなたのおすすめしてくれたケーキ美味しかったわ!と喜んでくれた。
私はそれがすごく嬉しく笑顔になる。
それから、お客さんが減って落ち着いて来た時だった。
里中さんが話しかけてくれる。
「先輩ってさ」
「うん?」
「ケーキ好きなの?」
「うん!大好きだよ!」
「うちのケーキも?」
「もちろん!前に食べた時、あまりの美味しさに感動したもん!」
「そっか」
それだけ言うとまた無言になる里中さん。
なんだか少しだけ微笑んでたような気がするけど、気のせいかな。
そう考えていると、里中さんが奥の厨房でケーキのスポンジを焼いていた店長さんに呼ばれたため奥へと向かう。
すると、代わりに店長さんがカウンターのほうにやってくる。
私が、どうかしたんですか?と質問をすると、答えてくれた。
どうやら、里中さんはパティシエの勉強中らしくお客さんが少なくなって来た時は厨房で練習しているみたい。
それを聞き驚いていると、休憩がてら見学してきていいよ!と言われたので、見学させてもらうことにした。
厨房の中に入ると、ケーキ作成に取りかかっている里中さんが。
集中しているのか、私に気づいていなかったため、声をかけずに見守ることに。
そして、ケーキが完成すると、プロ顔負けの仕上がりに思わず、きれい…。と声を漏らしてしまう。
そんな私に気づくと、里中さんが話しかけてくる。
「なにしてんの」
「あ…ご、ごめんね!店長さんに里中さんがパティシエ目指してるって聞いて、見学させてもらってたんだ…」
私は邪魔してしまったことを怒られるかと思ったけど、違った。
「はぁ…内緒にしててほしかったのに…」
そう言うと、少し不機嫌になる里中さん。
「じゃ、邪魔しちゃってごめんね!」
私はすぐこの場を去ろうとした。
すると、里中さんが、ちょっと待って。と声をかけてくる。
そして、そのまま続けて言う。
「これ食べて良いよ」
そう言い完成したケーキを切り分けようとする。
「あ!ちょっと待って!」
私は切るのを止めると、もう一度見たいと思い里中さんに伝える。
「こんなの見ても」
「ううん!すっごいきれいなんだもん!」
「いいけど」
私は里中さんの許可をもらうともう一度ケーキを見てみる。
やっぱり、仕上がりはきれいで、すでに売り物に出来る仕上がりだった。
私が目を輝かせて見ていると、里中さんが、もう良いでしょ。と言うと、ケーキを離し切り分ける。
私が、あぁ…。と残念そうにしていると、どうせまた作るし。と言った。
そして、切り分けたケーキを私に。
私はさっそくケーキをいただくことに。
見た目もそうだったけど、味もすごく美味しい。
私は夢中になってケーキを食べる。
そんな、私を見て里中さんが言う。
「先輩ほんとケーキ好きなんだね」
「大好きだよ!」
私は即答する。
そんな、私に里中さんが
「先輩面白いね!」
と、笑っている。
ずっと無表情だった里中さんが。
「あ…里中さん笑った」
私は思わず声に出してしまった。
「笑ってないから」
それに気づき、すぐに無表情に戻す里中さん。
「えー!?笑ってたよ!かわいい笑顔だったよ!?」
「は、はあ?かわいくなんてないから!」
そう言い今度は照れる里中さん。
「あー!今度は照れてる!」
「て、照れてないから!」
さすがにすぐに無表情に戻せない里中さん。
「ば、馬鹿なこと言ってる先輩にはもう食べさせない」
代わりに私からケーキを取り上げる。
「ええええええええ!謝るからケーキ返してええええええ!」
私は里中さんにしがみつく。
「どんだけケーキ食べたいんだよ!」
「だってえええええええええ!」
さらにしがみつく。
「わ、わかったから離して!」
そう言い、ケーキを返してくれる。
私はもう奪わせないと、背を向けて食べる。
「せ、先輩ケーキ好きすぎ…」
里中さんが息を切らしながら、そう言った。
「だって、すごい美味しいから…」
「そ、そんなに気に入ったならまた今度作ってあげるよ…」
「ほんと!?」
「う、うん」
「やったー!」
私は喜びながらまたケーキを食べる。
「褒めてくれてありがと…先輩」
里中さんがなにか言っていたけど、私はケーキに夢中になりすぎて聞こえていなかった。
それから、ケーキを全部食べ終えると休憩を終えて、また仕事に戻る。
そして、本日の営業が終わると店長さんと里中さんに挨拶をして帰宅することに。
帰り道、私は思う。
ケーキ美味しかったなぁ!
ケーキ屋さんは私の楽園だね!
また、明日もがんばろ!
と。
こうして、夏休み一日目が終わる。
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