魚は泳ぐ、鳥は飛ぶ、だから僕は描いている

失恋から始まる、高校生の恋愛のお話
至ッ亭浮道
至ッ亭浮道

第5話

公開日時: 2021年10月2日(土) 19:30
文字数:1,772

 生徒会室せいとかいしつくと、大園おおぞの先輩せんぱいはいなかった。

 役員やくいんほかひとくと、せい委員会いいんかい備品びひん点検てんけん校舎内こうしゃないのどこかにいる、とだけおしえてもらった。

 僕は、さがしにこうか、それともかえってしまおうかと、まよっていた。

 すると、ほか役員やくいんひとから、生徒会室せいとかいしつってるといいよ、とわれた。

 らないひと一緒いっしょにいるのはいやだな、とおもっていると、そのひとはすぐに教室きょうしつていってしまった。

 つまり、ぼく都合つごうよく留守番るすばんをさせられたのだった。

 最初さいしょ物珍ものめずらしさから、生徒会室せいとかいしつかざってある賞状しょうじょうながめていた。

 けれど、どれもるにらないものだと分かってからは、することもなくて、ただ椅子いすすわってボーっとしていた。

 そして生徒会室せいとかいしつつことやく10ぷん

 生徒会室せいとかいしつとびらがコンコンとたたかれた。

 だれかが、たらしい。

 さっきていった生徒せいともどってきたのか、それとも大園おおぞの先輩せんぱいか、とおもってとびらけると、そこには女子じょし生徒せいとがいた。

 らない女子生徒じょしせいとだった。


「あの、ここって生徒会室せいとかいしつってますか?」


 女子じょし生徒せいとは、そんなことを、った。

 けれど、ぼくなにうことができなかった。

 返事へんじかえってこないことを不審ふしんがった女子じょし生徒せいとが、心配しんぱいそうにせわしなくうごかしながら、ぼくを、る。



 ――その女子じょし生徒せいとはあまりにもていた。



 ぼくが、決死けっし告白こくはくをして、無事ぶじにフラれたおんな

 ――村口むらぐち美音子みねこに。



 かみいろも、いろも、まるみをびたおおまぶたに、かえった立派りっぱなまつげをつけているのも。

 ているところをあげれば、きりがない。

 ただ、一点いってんだけちがうところとえば、こまりがちなかおをすることだった。

 あかをチラチラとうごかすのをると、彼女かのじょ不安ふあんがよくあらわれていた。

 不安ふあんそうな表情ひょうじょうを、村口むらぐちさんは、一度いちどもしなかった。


「あの、どうしました?」

「え? ああ」


 と、ぼくわれかえると、おんなはこうつづけた。


「ここで生徒せいと手帳てちょういただけると、いたんですけど……」

生徒せいと手帳てちょう?」

自分じぶんは、転校生てんこうせいなんです。今日きょうが、この学校がっこうはじめてで」

「なるほど」

「それで、先生せんせいくと、生徒せいと手帳てちょう生徒会室せいとかいしつあまりがあるとのことだったので」

「ああ……」


 そうわれてはじめて、ぼくは、おんな制服せいふくちがうのに、づいた。

 おんなもブレザーにシャツだった。

 しかし首元くびもとには、ネクタイではなくて、リボンがむすばれていた。

 ブレザーのいろちがって、苔黄緑色モスグリーンだ。

 胸元むなもとには、まえ学校がっこうこうしょうらしきワッペンが、けてあった。


「あの、生徒せいと手帳てちょう、ないんですか?」


 おんなは、ぼくうごきに、おびえていた。

 ぼくは、おんな様子ようすて、われかえった。


「えっと」


 ぼくは、かえって生徒会せいとかいしつ見渡みわたした。

 けれど、生徒せいと手帳てちょうがどこにあるかなんて、当然とうぜんらない。


「えっと、ぼく生徒会せいとかい役員やくいんじゃないので、わかんないんです」


 ぼくがそううと、おんな怪訝けげんそうなかおをした。


「じゃあ、なんで、あなたが生徒会室せいとかいしつに?」

「えっと、それは、ひとっていたからで」

部外者ぶがいしゃのあなたが? 生徒会せいとかい役員やくいんじゃないのに、生徒会室せいとかいしつで?」


 おんなは、一言ひとことかさねながら、一歩いっぽずつ、ぼくからとおざかっていく。


「いや、最初さいしょはいたんですよ? でも、途中とちゅうで、どこかにっちゃって」


 ぼく弁明べんめいなん効果こうかもなく。

 おんなは、もう3mぐらいはなれている。


「えっと、その、失礼しつれいしましたっ」


 そうって、おんなは、両手りょうてひざまえそろえて、とう頂部ちょうぶえるぐらいふかれいをすると、クルッといて、足早あしばやろうとする。


「ちょっと――」


 と、ぼくめようとして、廊下ろうかとき


「あれ? 峯村みねむらクン?」


 大園おおぞの先輩せんぱい廊下ろうかこうからあらわれた。

 先輩せんぱいは、プリントをはさんだバインダーファイルを、片手かたてっている。


大園おおぞの先輩せんぱい! こまってたんですよ!」

「どうしたの?」


 大園おおぞの先輩せんぱいくびかしげる。

 黒髪くろかみがサラッとがった。


「そのひと生徒せいと手帳てちょうしいみたいなんですけど、どこにあるかわからなくて」

「ああー! 峯村みねむらクン、くしちゃったの?」

「いや、ぼくじゃなくて」


 とって、ぼくおんな指差ゆびさした。


「この?」


 大園おおぞの先輩せんぱいも、ぼく視線しせんしたがって、おんなた。


転校生てんこうせいらしいんです」

「あー! なんかいたかも。この時期じき転校てんこうせいってめずらしい、って話題わだいになってたから」


 そういながら、大園おおぞの先輩せんぱい生徒会室せいとかいしつはいっていく。


「それじゃ、生徒せいと手帳てちょうあげるからなかってて!」


 その言葉ことばいて、おんなかおあおくした。

 ぼくは、その変化へんかて、自分じぶんってそんなに不審者ふしんしゃなんだ、とおもった。

 かなしくなった。

 こころなか一人ひとりいた。

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