その日の昼休み。
僕たちは、木戸口さんのクラスに行った。
木戸口さん見るためだけに。
けれど、木戸口さんは、同じく野次馬に囲まれていて、とても話せる状況ではなかった。
なので、一旦、大園先輩に、昨日の話を聞きに行くことになった。
そして、大園先輩のいる二年生の教室に着いた。
「おー! みんな揃ってどうしたの? 川上ちゃんは今日もおっきいねー」
「まりあ先輩も、今日もかわいいですよ」
と、川上さんと先輩は恒例の会話を交わしている。
「せんぱーい。聞きたいことがあるんですけどいいですかぁ?」
「えっと?」
大園先輩は、佐藤さんとは初対面だから、困った顔をしている。
「佐藤春奈ですっ」
「春奈ちゃんね!」
二人の間で、激しいボディランゲージを伴った、初対面の挨拶が交わされた。
……今の一瞬で、二人は通じ合ったらしい。
「で、春奈ちゃん! どうしたの?」
「タロちゃんに聞いたんですけど、タロちゃんに似た転校生が来たってほんとですか?」
先輩は一瞬考える素振りをしてから、答える。
「うん! 木戸口菜緒ちゃん!」
「その子って、どこがタロちゃんに似てるって思ったんですか?」
「タロちゃん?」
「峯村太郎、略してタロちゃん」
「ああ! 峯村クンのことなんだね!」
先輩は左手の平を、右手の拳で叩いて、納得した様子だ。
「どこが似てたんですかぁ?」
「それがねぇ、よくわからないんだよね! でも似てたの!」
佐藤さんは、これは話にならないという表情を、僕と川上さんだけに見える角度でしている。
「強いて言えば、どこですか?」
と、川上さんが援護をする。
すると、大園先輩は、しばしの間をおいてから答えた。
「うーん、鼻かな? うん! 鼻がどことなく似てる気がする」
「どう?」
今度は、川上さんが僕の顔を見る。
僕は、頑張って村口さんの顔を思い出そうとする。
けれど、記憶の中の村口さんの鼻は、決して僕に似ていない。
村口さんの鼻は、高くはないが、潰れていなかった。
小さな鼻頭に、綺麗な鼻筋の通った鼻だった。
僕はそんなに綺麗な鼻筋をしていない。
僕は、黙って首を振って、否定の意を示した。
川上さんと佐藤さんは、それを見て、またも不思議そうな表情を浮かべる。
そうして僕たちが、思案顔をしていると、大園先輩が話し出した。
「でもさ、峯村クンとあたしの言ってることが違うのって、そんなにおかしいこと?」
「え?」
僕たちは、考えていたことを放り出して、先輩の方を向いた。
「あたし思ったんだけどね。世の中には似てる人が三人はいるっていうでしょ? それが、たまたま重なったんじゃないかな?」
「どういうことですか?」
川上さんが尋ねる。
先輩は、自分の考えていることを伝えようと、試み始めた。
「えっとね、世界には、自分に似てる人が3人は、いるって言うよね」
「言いますね」
「という事は、峯村クンと村口さんにも、それぞれ似てる人が3人いるんだよね」
川上さんは黙って、話を聞いている。
大園先輩はまだ説明を続ける。
「だから、峯村クンと村口さんに似てる人が、たまたま一緒になっちゃったんじゃないかなって」
「なるほど」
つまり、大園先輩の言いたいことは、こうだ。
世界には僕に似た人が3人いるとする。
僕をAとしたとき、僕に似ている人たちはA‘になる。
つまり、世の中にはA’が少なくとも3人いるということになる。
一方、それは村口さんにも言える。
だから、村口さんをBとすれば、村口さんに似た人はB‘となるわけだ。
で、ここからが、大園先輩の仮説だ。
先輩はそのA‘とB’の人の中に、僕にも似ていて、かつ、村口さんにも似ている人。
つまり、A‘かつB’の人がいるのではないかと言っているのだった。
なんだか、血液型の話みたいだけど、可能性としてはありえない話だった。
……可能性としては。
「まあ理論としては、おかしくはないですけど……」
と川上さんは、僕と同じく、一応の納得をしたらしい。
「そんなことがあったら凄いことですね」
「それは都合がよすぎるにゃぁ」
続いて、僕と佐藤さんも曖昧な反応。
それを見て大園先輩は、腰に手を当てて自信満々に、言った。
「そう言うことがあってもいいんじゃないかな? 現実は小説よりも奇なり! ってね!」
「「「う~~~~ん」」」
「あ、あれぇ?」
結局、僕らは、理解はできるけど納得は出来ないままで、昼休みを終えた。
そして昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴った時。
川上さんが、僕の方へ振り返って、
「やっぱさ、ありえなくない?」
と言った。
僕も同意見だった。
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