魚は泳ぐ、鳥は飛ぶ、だから僕は描いている

失恋から始まる、高校生の恋愛のお話
至ッ亭浮道
至ッ亭浮道

第8話

公開日時: 2021年10月5日(火) 19:30
文字数:1,811

 その昼休ひるやすみ。

 ぼくたちは、木戸口きどぐちさんのクラスにった。

 木戸口きどぐちさんるためだけに。

 けれど、木戸口きどぐちさんは、おなじく野次馬やじうまかこまれていて、とてもはなせる状況じょうきょうではなかった。

 なので、一旦いったん大園おおぞの先輩せんぱいに、昨日きのうはなしきにくことになった。

 そして、大園おおぞの先輩せんぱいのいる二年生にねんせい教室きょうしついた。


「おー! みんなそろってどうしたの? 川上かわかみちゃんは今日きょうもおっきいねー」

「まりあ先輩せんぱいも、今日きょうもかわいいですよ」


 と、川上かわかみさんと先輩せんぱい恒例こうれい会話かいわわしている。


「せんぱーい。きたいことがあるんですけどいいですかぁ?」

「えっと?」


 大園おおぞの先輩せんぱいは、佐藤さとうさんとは初対面しょたいめんだから、こまったかおをしている。


佐藤春奈さとうはるなですっ」

春奈はるなちゃんね!」


 二人ふたりあいだで、はげしいボディランゲージをともなった、初対面しょたいめん挨拶あいさつわされた。

 ……いま一瞬いっしゅんで、二人ふたりつうったらしい。


「で、春奈はるなちゃん! どうしたの?」

「タロちゃんにいたんですけど、タロちゃんに転校生てんこうせいたってほんとですか?」


 先輩せんぱい一瞬いっしゅんかんがえる素振そぶりをしてから、こたえる。


「うん! 木戸口きどぐちちゃん!」

「そのって、どこがタロちゃんにてるっておもったんですか?」

「タロちゃん?」

峯村みねむら太郎たろうりゃくしてタロちゃん」

「ああ! 峯村みねむらクンのことなんだね!」


 先輩せんぱい左手ひだりてひらを、右手みぎてこぶしたたいて、納得なっとくした様子ようすだ。


「どこがてたんですかぁ?」

「それがねぇ、よくわからないんだよね! でもてたの!」


 佐藤さとうさんは、これははなしにならないという表情ひょうじょうを、ぼく川上かわかみさんだけにえる角度かくどでしている。


いてえば、どこですか?」


 と、川上かわかみさんが援護えんごをする。

 すると、大園おおぞの先輩せんぱいは、しばしのあいだをおいてからこたえた。


「うーん、はなかな? うん! はながどことなくてるがする」

「どう?」


 今度こんどは、川上かわかみさんがぼくかおる。

 ぼくは、頑張がんばって村口むらぐちさんのかおおもそうとする。

 けれど、記憶きおくなか村口むらぐちさんのはなは、けっしてぼくていない。

 村口むらぐちさんのはなは、たかくはないが、つぶれていなかった。

 ちいさな鼻頭はながしらに、綺麗きれい鼻筋はなすじかよったはなだった。

 ぼくはそんなに綺麗きれい鼻筋はなすじをしていない。

 ぼくは、だまってくびって、否定ひていしめした。

 川上かわかみさんと佐藤さとうさんは、それをて、またも不思議ふしぎそうな表情ひょうじょうかべる。

 そうしてぼくたちが、思案しあんがおをしていると、大園おおぞの先輩せんぱいはなした。


「でもさ、峯村みねむらクンとあたしのってることがちがうのって、そんなにおかしいこと?」

「え?」


 ぼくたちは、かんがえていたことをほうして、先輩せんぱいほういた。


「あたしおもったんだけどね。なかにはてるひと三人さんにんはいるっていうでしょ? それが、たまたまかさなったんじゃないかな?」

「どういうことですか?」


 川上かわかみさんがたずねる。

 先輩せんぱいは、自分じぶんかんがえていることをつたえようと、こころはじめた。


「えっとね、世界せかいには、自分じぶんてるひとが3にんは、いるってうよね」

いますね」

「ということは、峯村みねむらクンと村口むらぐちさんにも、それぞれてるひとが3にんいるんだよね」


 川上かわかみさんはだまって、はなしいている。

 大園おおぞの先輩せんぱいはまだ説明せつめいつづける。


「だから、峯村みねむらクンと村口むらぐちさんにてるひとが、たまたま一緒いっしょになっちゃったんじゃないかなって」

「なるほど」


 つまり、大園おおぞの先輩せんぱいいたいことは、こうだ。


 世界せかいにはぼくにんが3にんいるとする。



 ぼくをAとしたとき、ぼくているひとたちはA‘になる。

 つまり、なかにはA’がすくなくとも3にんいるということになる。



 一方いっぽう、それは村口むらぐちさんにもえる。

 だから、村口むらぐちさんをBとすれば、村口むらぐちさんにひとはB‘となるわけだ。



 で、ここからが、大園おおぞの先輩せんぱい仮説かせつだ。

 先輩せんぱいはそのA‘とB’のひとなかに、ぼくにもていて、かつ、村口むらぐちさんにもているひと

 つまり、A‘かつB’のひとがいるのではないかとっているのだった。



 なんだか、血液型けつえきがたはなしみたいだけど、可能性かのうせいとしてはありえないはなしだった。

 ……可能性かのうせいとしては。


「まあ理論りろんとしては、おかしくはないですけど……」


 と川上かわかみさんは、ぼくおなじく、一応いちおうなっとくをしたらしい。


「そんなことがあったらすごいことですね」

「それは都合つごうがよすぎるにゃぁ」


 つづいて、ぼく佐藤さとうさんも曖昧あいまい反応はんのう

 それを大園おおぞの先輩せんぱいは、こしてて自信満々じしんまんまんに、った。


「そううことがあってもいいんじゃないかな? 現実げんじつ小説しょうせつよりもなり! ってね!」

「「「う~~~~ん」」」

「あ、あれぇ?」


 結局けっきょくぼくらは、理解りかいはできるけど納得なっとく出来できないままで、ひるやすみをえた。

 そして昼休ひるやすみのわりをげるチャイムがったとき

 川上かわかみさんが、ぼくほうかえって、


「やっぱさ、ありえなくない?」


 とった。

 ぼく同意見どういけんだった。


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