魚は泳ぐ、鳥は飛ぶ、だから僕は描いている

失恋から始まる、高校生の恋愛のお話
至ッ亭浮道
至ッ亭浮道

第16話

公開日時: 2021年10月13日(水) 19:30
文字数:1,436

 ぼくもどってきたとき、みんなのあいだには微妙びみょう空気くうきながれていた。


「どうしたの?」

「なんでもないよー。ささ! 早速さっそくはじめましょうぞ!」

「え? あ、うん」


 佐藤さとうさんにうながされるまま、ぼくは、大園おおぞの先輩せんぱい用意よういしてくれたカンバスのまえすわる。

 すると、大園おおぞの先輩せんぱいあわただしく部屋へやていく。


「ごめんね! わたし委員会いいんかい仕事しごとがあって!」

先輩せんぱい準備じゅんびありがとうございました」

「いいよー! 今度こんどなにかおごってね!」

学食がくしょくでいいですか」

「やだ! カフェで!」

「……かんがえときますね」

「よろしくね!」


 そうって、大園おおぞの先輩せんぱいは、バタバタと足音あしおとをさせながら、教室きょうしつからていった。

 ぼくはその足音あしおとこえなくなってから、木戸口きどぐちさんのほうなおった。


「じゃあはじめるね」

「は、はい」


 そうって木戸口きどぐちさんは、すわ姿勢しせいただした。

 けれど、くびみょうかたむいている。

 緊張きんちょうしているのか、木戸口きどぐちさんはゆかていた。

 すこがかりだったけど、ぼくにせずはじめることにした。

 最初さいしょはゆっくりと、手探てさぐりをするようにせんいてゆく。

 自分じぶんなかさぐるように、せんいてゆく。

 いてはし、してしまってはなおす。

 はじめは、川上かわかみさんたちにられているのが、になっていた。

 けれど、そのうちに川上かわかみさんたちが、ぼくまわりにいるのもわすれてしまうほどに、ぼく集中しゅうちゅうはじめた。

 そして、あらかた方向性ほうこうせいまって、ふでれようとしたとき

 川上かわかみさんが、ひさしぶりにこえした。


わたしかえる」


 室内しつない全員ぜんいん視線しせんが、川上かわかみさんにあつまる。

 ぼくは、そっかとも、じゃあねともわないで、なんえばいいのかまよっていた。

 すると、佐藤さとうさんが川上かわかみさんに、なにかをはじめた。


「もういいの?」

「うん」

「どうだった?」

「やっぱり、わたし間違まちがえてないとおもう」

えたんだね」

「うん」

「そっか」


 すると、佐藤さとうさんも川上かわかみさんとおなじようにかえるとはじめた。


「じゃあ、あたしも帰るー」

「いいの?」

「のめりまないだけで、春奈はるなおなじなのさー」

「そっか」


 そうって二人ふたりは、二人ふたりあいだだけでなっとくしたらしい。

 そして二人ふたりともカバンをって、部屋へやからていこうとする。


「それじゃねー」

頑張がんばってね、峯村みねむら


 最後さいご川上かわかみさんが、木戸口きどぐちさんにこうった。


るのは、自由じゆうだよ。こわくないことだから」

「……わかりました」


 ぼくにはなにからない。

 けれど、木戸口きどぐちさんにはなにかがつたわったようだった。

 ガラガラととびらまり、ぼく木戸口きどぐちさんだけが教室きょうしつのこされた。


つづけるね」

「はい」


 それからはおたがいに無言むごんだった。

 ふで水彩紙すいさいしうえはしおとだけが心地ここちよくひびく。

 そしてが7わりほど完成かんせいしたころ

 木戸口きどぐちさんが沈黙ちんもくやぶって、くちひらいた。


「……ことわりました、告白こくはく

「……そうなんだ」

こわかったですけど、ちゃんとしなきゃとおもって」

「……すごいよ」


 ぼくは、くちうごかしながらふでえて、木戸口きどぐちさんのほうた。

 いままでぼく足元あしもと彷徨さまよっていたせんが、一直線いっちょくせんぼくつめていた。

 木戸口きどぐちさんのあかが、ぼくつめていた。


「どうしたの?」

「いや、なんでも、ないです」


 木戸口きどぐちさんはそうったっきり、またせん彷徨さまよわせる。

 それからまた無言むごん時間じかんつづいた。

 はじめて、もうひかりしではくことが出来できないほど薄暗うすぐらころ

 そんな時間じかんに、やっと完成かんせいした。


出来できた……」


 ぼくがそううと、木戸口きどぐちさんはダラリと姿勢しせいくずした。


「ずっとおな姿勢しせいってやっぱりつかれるんですね」

姿勢しせいなんて、えてもよかったのに」

「え? でもくなら……」


 そうって、木戸口きどぐちさんががり、ぼくのぞむ。


「……なんですか、これ?」

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