魚は泳ぐ、鳥は飛ぶ、だから僕は描いている

失恋から始まる、高校生の恋愛のお話
至ッ亭浮道
至ッ亭浮道

第6話

公開日時: 2021年10月3日(日) 19:30
文字数:2,452

木戸口奈きどぐちなちゃんだね!」

「はい」


 大園おおぞの先輩せんぱいが、彼女かのじょ申請書しんせいしょいた名前なまえながら、そうう。

 すると、村口むらぐちさんに女子じょし生徒せいと――木戸口きどぐちさんはうなずいた。


「こんな時期じき転校てんこうなんて、めずらしいね」

「はい」


 木戸口きどぐちさんは、普通ふつうこたえたようにおもえた。

 けど、大園おおぞの先輩せんぱいは、いてはいけないことをいたかとおもったようで、咄嗟とっさに、つくろ言葉ことばつづけた。


「あ! でも、事情じじょうは人それぞれだよね!」

「いえ、両親りょうしん喧嘩けんかするたびに、どちらかにられて転校するのは、むかしからなので」



 ――れてます。

 


 と、木戸口きどぐちさんはった。

 そのかたがとても無機むきしつかんじられた。

 だから、大園おおぞの先輩せんぱいは、もうれないほうがいいと判断はんだんしたらしい。


「そうなんだねー」

「はい」


 そうって会話かいわ途切とぎれる。

 大園おおぞの先輩せんぱいは、申請書しんせいしょって、つくえかった。

 なにかをいているようで、ペンがかみをこするおとだけが室内しつないひびいている。

 そのあいだぼくは、ちつかなかった。

 木戸口きどぐちさんをぬするようにして、チラッと視界しかいはしとらえる。

 ……やっぱり、ている。

 村口むらぐちさんに。

 ぼくが好きになってしまって、ぼくがフラれてしまったおんな

 そのひとに、木戸口きどぐちさんは、あまりにも、ていた。


「……あの、さっきから、どうしてそんなにるんですか」

「え?」


 ぼくは、木戸口きどぐちさんにそうわれてキョドってしまう。


「いや、その」

自分じぶんなにかおかしいですか?」

「……そういうわけじゃ、ないんだけど」

「じゃあ、どうしてですか?」


 木戸口きどぐちさんは、あくまでも不思議ふしぎだからいている。

 そんなかんじだった。

 それなら、とおもって、ぼくは、おもっていることを包み隠しながら、うことにした。


木戸口きどぐちさんが、ぼくっているひとに、てて」


 と、ぼくうと、つくえかっている大園おおぞの先輩せんぱいかおをあげた。


「え! 峯村みねむらクンも?」

「え? 大園おおぞの先輩せんぱいもですか?」

「うん。最初さいしょ廊下ろうかときからおもってたんだよね」

「そうだったんですか」


 ぼく大園おおぞの先輩せんぱいがる。

 けれど、ぼく対面たいめんにいる木戸口きどぐちさんは、かないかおだ。


「……やっぱりそうですよね」

「やっぱり?」


 ぼく先輩せんぱいこえかぶる。


「やっぱりって、どういうことですか?」

自分じぶん、よく言われるんです。だれかにているって。どこにいっても」

「……へぇー」


 と、ぼくけた返事へんじをする。

 すると大園おおぞの先輩せんぱい生徒せいと手帳てちょうってきた。

 先輩せんぱいは、木戸口きどぐちさんに生徒せいと手帳てちょうわたすと、椅子いすせて、ぼくとなりすわった。


「それが生徒せいと手帳てちょうだよ! 初回しょかい発行はっこう学費がくひふくまれてるから無料むりょうだよ!

 くしたりすると、つぎからは330えんかかるから、をつけてね!

 風紀ふうき検査けんさとかでも、チェック項目こうもくだから、学校がっこうではいつもってるようにね!

 たまに、シャツのポッケにれたままにして洗濯せんたくしちゃうことがあるから、あらものすときは、ポッケのなかそらになってるか、るようにね!」

「ありがとうございます」


 木戸口きどぐちさんは、生徒せいと手帳てちょうると、カバンのポケットに生徒せいと手帳てちょうをしまった。


「それで、さっきのはなしだけど! 峯村みねむらクンは、だれてるとおもったの?」

「え?」


 まさか、そんな急転回きゅうてんかいしてはなしもどってくるとは、おもってなくて、ぼくは、おおげさに反応はんのうしてしまった。


「あたしは、峯村みねむらクンに、てるとおもったんだけど」

「ええ! ぼくにですか⁉」

てない? ぎゃくに、峯村みねむらクンはだれおもったの?」

「……その、村口むらぐちさんにてるな、おもって」

「……村口むらぐちさんかぁ」


 大園おおぞの先輩せんぱいは、そうってうでんで、あたまをひねった。

 ぼくも、まゆせて、大園おおぞの先輩せんぱいったことを、なんとか理解りかいしようとする。

 けれど、木戸口きどぐちさんのどこを見ても、ぼくているところは、つけられなかった。


大園おおぞの先輩せんぱいは、木戸口きどぐちさんの、どこがぼくているとおもったんですか」

「え? そうだなぁ……。どこって、われるとむずかしいけど……。雰囲気ふんいきだよ! 雰囲気ふんいきがそっくり!」

「どんな雰囲気ふんいきですか」

「それも説明せつめいできないけど! とにかくてるの!」


 そうおおきなこえ誤魔化ごまかして、大園おおぞの先輩せんぱいは、ぼくおな質問しつもんかえしてくる。


峯村みねむらクンはどこをて、村口むらぐちさんにてるとおもったの?」


 とわれて、ぼくすこしだけ自信じしんってこたえた。


「まずです」

?」

じりが、さっとよこ一線いっせんいたようになってるのが、てます。まつげがながいのもてる。あとはかみながさとか、艶感つやかんとかも、村口むらぐちさんのかみえたみたいにてます」


 ぼくは、自分じぶん観察かんさつ結果けっかを、ありのままにった。

 ……のだけど、いすぎてしまったらしい。

 木戸口きどぐちさんは、生徒会室せいとかいしつはいるときよりも、かお不健康ふけんこういろになっていた。

 大園おおぞの先輩せんぱいも、ウーとくちをとんがらせて、おどろきをかくせない様子ようすだった。


「……まぁ、なんとなく、ですけど」

「……よくてるんですね」


 といったのは、木戸口きどぐちさんだった。


「いや、その、ついというか」

「……つい⁉ つい、でめるように観察かんさつをしてるんですか⁉」


 また余計よけいなことをってしまったと、後悔こうかいしても、もうおそかった。

 木戸口きどぐちさんは、いよいよふるえだしてしまっている。

 その木戸口きどぐちさんの様子ようすて、大園おおぞの先輩せんぱいなんとか弁明べんめいこころみる。


「ごめんね! 峯村みねむらクンも、悪気わるぎがあったわけじゃないんだよ!」

「……そう、ですか」


 それでも、木戸口きどぐちさんはしまもない対応たいおうだ。


峯村みねむらクンはね、くのがじょう手だから、こんな風に、よく誤解ごかいされちゃうんだよ!」

「よく!? よくしてるんですか! こんなことを⁉」


 木戸口きどぐちさんがしんじられないものをるようなぼくる。

 ぼくは、なんとか弁解べんかいしようと、


「いや、その……。た、たまに! たまにだよ!?」


 と、ったけれど、大園先輩おおぞのせんぱいが、


「そうだよ! たまに変人へんじんだとおもわれたり、ナンパだとおもわれちゃうこともあるけど、いいおとこなんだよ!」

「ナンパぐせのあるおとこ……⁉」

先輩せんぱい、ちょっとしずかに!」

 

 大園おおぞの先輩せんぱい暴走ぼうそうはじめた。

 あわてて、ぼくめにはいったけれど、もうおそかった。


「……じ、自分じぶん、もう、かえりますね!」


 とのこして、木戸口きどぐちさんは、生徒会せいとかいしつからげるように、ていった。


「あ、ちょっと!」


 ガンッととびらが、おとててじられた。


「なんだか……ごめんね……?」

最悪さいあくだあああ!」


 ぼくは、自分じぶん不運ふうんなげいていた。

 変態へんたい汚名おめいかぶされたことをなげいて一晩ひとばんじゅういた。

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