「タロちゃん、帰ろー」
放課後、HR(ホームルーム)が終わった後。
佐藤さんは、一目散に僕と川上さんの元に来てから、そう言った。
はいはい、と川上さんはカバンを取った。
けれど僕は、座ったままでいる。
「どうしたの?」
川上さんは振り返りつつ、そう言った。
「ごめん、今日は予定があって。二人とも先に帰ってて」
僕は、川上さんを見上げた。
川上さんと眼が合う。
川上さんの緑玉色の眼が、ギラッと光った気がした。
「……なんで?」
「木戸口さんと約束があるんだ」
川上さんは一瞬、眼を外して、また僕に視線を戻した。
戻ってきた時には、緑玉色のギラツキは消えていた。
「描くんだ」
「……うん」
どうしてわかったのか、わからない。
川上さんは、僕の態度や雰囲気から、僕が木戸口さんを描こうとしているのを予測したらしい。
「どこで描くの?」
「大園先輩に、生徒会の倉庫を使わせて貰ってる」
「前から準備してたんだ?」
「うん。一週間前から」
「タロちゃんってば、用意周到だにゃあ」
佐藤さんはそう言って、僕の肩を突っついた。
「春奈、私たちも行こう」
「「え?」」
僕と佐藤さんは同じ反応をした。
「それはちょっとぉ……」
「いや、行こう。峯村の描いてるのを見よう」
「見てどうするの?」
「確かめるの。私たちに、木戸口さんがどう見えるか」
「何を?」
と僕が聞いた。
けれど、黙殺れた。
そうして、僕を置き去りにして、会話は流れていく。
「瑠美さ、見えなくなったの?」
「いいや。でも、見えなくなった方がいいのかも知れない」
「それは、遠慮? 決別?」
「それを決めるために行こ」
会話は終着点に着いたようで、佐藤さんは川上さんに同意したらしい。
「瑠美は真面目すぎるにゃあ」
「でも、これが私だから」
そう言って、川上さんと佐藤さんが目配せをした。
「じゃあ、行こう」
「う、うん」
川上さんに促されて、僕は、画材でいっぱいのカバンを取って立ち上がった。
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