「駄目だった?」
今回の絵は、僕の中では自信作だった。
深い海底に宮殿があって、その奥に鏡がある。
その鏡は装飾が少ないけれど、綺麗な縁取りがついている。
その鏡台の下に、小さな赤い石が落ちている。
赤い石が、鏡に当たって鏡に小さなヒビが入っている。
文字にしてしまうと、それだけの絵だった。
「駄目というか、自分の想像と違っていて。……肖像画かと思ってたので」
「あれ? 言ってなかった? ごめんね!」
「いや、でも――」
そうやって木戸口さんは、まじまじと絵を眺めている。
「やっぱり……駄目かな?」
「いや……、いいです。見れば見るほどいいです。好きです」
「本当?」
「なんだか、予想外でしたけど、見れば見るほど、自分のことが描いてある気がしてきます」
「よかったぁ。僕のイメージを詰め込んでみたんだ」
僕がそう言うと、木戸口さんは、絵から眼を離した。
「描いてもらってよかった……」
「え?」
「……なんでもないです」
「ええ? そう言われると、気になるよ」
それでも木戸口さんは教えてくれない。
木戸口さんはしばらく悩んでいるようだった。
そして、最後にこう言った。
「――魚は泳いでる時が一番活き活きとしてるし、鳥は飛んでる時が一番美しいんです」
「え?」
僕は木戸口さんを見た。
日が暮れかけだから、木戸口さんの表情は見えない。
でも、そこに村口さんに似た女の子はいなかった。
……ような気が、した。
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