魚は泳ぐ、鳥は飛ぶ、だから僕は描いている

失恋から始まる、高校生の恋愛のお話
至ッ亭浮道
至ッ亭浮道

第12話

公開日時: 2021年10月9日(土) 19:30
文字数:1,665

「じゃあ、おねがい!」

「うん。それじゃあ、板書ばんしょはおねがい」

「わかった~」


 日直にっちょく相方あいかた板書ばんしょたくして、ぼくはゴミぶくろって教室きょうしつた。

 かうのは、体育館たいいくかんうらにあるゴミだ。

 本当ほんとうは、昨日きのう日直にっちょくてておくべきなんだけど、わすれてしまったらしい。

 昨日きのうのゴミがずっと教室きょうしつすみいてあるのは、なんとなく気分きぶんわるいということで、ぼくてにくことにした。

 ゴミはあさ回収かいしゅうされるから、ぼくはゴミヘといそいでいる。

 校舎こうしゃて、体育館たいいくかんかう。

 そしてそのうらのゴミに――と、体育館たいいくかんがりかどがろうとしたとき

 体育館たいいくかんうらだれかがいることにがついた。

 ぼくおもわず、かくれてしまった。

 体育館たいいくかんかど背中せなかをぴったりとつけて、みみをそばだてて、様子ようすをうかがう。


木戸口きどぐちさんって……に……てるよね」

べつに……、そうじゃ……です」

「でも……てる、そっくり」

いろんなひとに、……って……われます」

おれ友達ともだちも……、……って」

「……そうですか」


 体育館たいいくかんうらにいるのは木戸口きどぐちさんだ。

 ぼくはそのことを察知さっちすると、なぜかドクンと心臓しんぞうねて、血液けつえき活発かっぱつはこびだそうとしはじめた。

 木戸口きどぐちさんは、だれおとこといるらしい。

 それがわかると、二人ふたり会話かいわがよりになった。


「マジ、木戸口きどぐちさんてるよ、アイドルの下関しものせきゆまに」

「アイドルですか……?」

「ゆわれない?」

われない、です。自分がアイドルなんて……」


 より集中しゅうちゅうしてはなしぬすきしようとすると、鮮明せんめい会話かいわこえてくる。


「そのさ、自分じぶんってうのなんなん?」

「え?」

普通ふつうは、おんな自分じぶんって、ゆわんくね?」

「ああ……、そうですね」

「じゃあ、なんでなん?」


 たしかにそうだ。

 木戸口きどぐちさんの一人称いちにんしょうが自分なのは、木戸口きどぐちさんのにも性格せいかくにも、っているようにはおもえない。

 とっても、ぼくから木戸口きどぐちさんは村口むらぐちさんにているから、本当ほんとう木戸口きどぐちさんはどんなふうなのかはわからないけど。

 でも、とにかく、っていないがした。

 二人ふたり会話かいわは、おとこ7:木戸口きどぐちさん3の配分はいぶんすすむ。


「わかりません。でも、自分じぶんってうのは大事だいじがして」

「そうなんや。でも、ギャップがいいんじゃない。なんかキャラが立ってていいってか、面白おもしろいし」

「……そうですか」


 そう木戸口きどぐちさんがこたえてから、ほんの一瞬いっしゅんだけ、みょうがあった。

 ぼくになって、その一瞬いっしゅん使つかって、体育館たいいくかんかどからかおして、二人ふたり様子ようす垣間見かいまみる。

 それからおとこがとある提案ていあんけた。


「でさ、もしよかったらわない?」

「……なににですか?」


 したおとこはもうもどることはできない。

 おとこくちから桃色ももいろ吐息といきこぼしている。

 そののうしょくうごせんとなって、木戸口きどぐちさんへとすすむ。


おれってくれない?」


 おとこ提案ていあんには傲慢ごうまんがあった。

 こえ調子ちょうしから言葉ことばおもみをかんじなかった。


「……え?」


 やっと、おとこ意味いみづいた木戸口きどぐちさんは、ありえないというふうに、くちてる。

 そのあしふるえていた。

 木戸口きどぐちさんは明確めいかくおびえていた。


「どう?」


 そうおとこは、品定しなさだめしているかのような、ベタついていとでもきそうなせん


「……ちょっと、いまは、その」


 木戸口きどぐちさんはそうのがれる。

 くるまぎれだ。

 でも、げの口実こうじつには十分じゅうぶんだ。


「そっか。じゃあ、いつまでてばいい?」

「えっと……」

「じゃあ、来週らいしゅうまでには、こたえをおしえて?」

「……はい」


 おとこはもっと上手うわてだった。

 木戸口きどぐちさんは来週らいしゅうまでにこたえをさなければならない。

 そうなれば、自然しぜんと、木戸口きどぐちさんがおとこについてかんがえる時間じかんえる。

 そうって、おとこ用事ようじんだらしい。


「じゃあね。また、来週らいしゅう、ここで」


 おとこはどんどんこっちへかってくる。

 やばい!

 ぼくはとっさに体育館たいいくかんぐちへといた。

 そこはすこくぼみになっていた。

 ここならバレないかもしれない。

 ぼくいきをひそめる。

 おとこかどからてきた。

 おとこ軽薄けいはくさが顔面がんめんていた。

 瞬間しゅんかん感覚かんかくでしかきていないかおつきだった。

 おとこぼくづかずに校舎こうしゃほうへと、をポケットにんだまま、小走こばしりでっていった。

 ぼくはほっと、いきいた。

 そして、おとこてきた体育館たいいくかんうらへといそぐ。

 そこでは、木戸口きどぐちさんが、ひざかかえていていた。

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