「さてと…始めるか」
家に着いて食材の仕分けや仕込みを終わらせた彼女がエプロンを着ける。
「…ポニーテール、似合うな」
「確か、魚の生臭さがダメだって言ってたよね?」
青年の褒め言葉をスルーして彼女は確認するように聞く。
「…ああ、だが食べれない事は無い」
「…じゃあコイツのだけ刺身にしますかね…スキル『料理』」
彼女は料理の方向性を決めて呟くとスキルを使う。
「コンロスキル『発火』」
コンロがあるのにも関わらず彼女はわざわざスキルを使って火をつけ、キノコと魚を一つずつ網に乗せて焼き始めた。
パラパラ…と上から塩をふりながらキノコと魚をひっくり返して両面焼いていく。
「…フライパンスキル『瞬間加熱』」
酒を少し入れたフライパンに網を移して蓋を閉め今度は蒸し始める。
「…?何を…?」
「………よし」
青年の呟きを無視して時間を計るかのように指折り数えてた彼女が、急に蓋を開けて網を取り出しキノコと魚を皿に移す。
「おお!美味そうだな!…もしかして俺のためにわざわざ…?」
「は?何言ってんの?」
期待を込めたような青年の言葉を一蹴した彼女は皿を持って外に出た。
「…俺のための料理じゃなかったのか…」
「アレは『網焼きの酒蒸し』って言って、あのキノコと魚でやったら『意思疎通』の付与効果があるんだよ」
テーブルに突っ伏して落ち込んでいる青年に戻って来た彼女が説明する。
「…意思、疎通…?」
「ん、ボスの魔物が人間の言葉を聞けて喋るようになる」
あんたが来なけりゃあんなん必要無かったのに…と彼女は愚痴りながらコンロに火をつけた。
「…どういう事だ?」
「魔物達が山から出なけりゃ退治する必要は無いんっしょ?だったら出ないように言えば良い」
彼女はコンロに大きな網を敷いて魚を並べながら説明する。
「なるほど…そのためにわざわざ魚とキノコを?」
「…せっかく環境を整えた山から出るのは嫌だし」
手袋を着けて網を動かしながら魚をくるくる回し、彼女が呟く。
「…そうか、だが…魔物退治は俺の一存でどうこう出来る問題では…」
あの魔物にやられた負傷者も多数出てるからな、納得させるのは難しいかもしれない…と言って青年は腕を組む。
「どうせあんた達が喧嘩売ったんだろ?」
「…人を襲っていると報告があったから仕方なく、だ」
「魔物もきっと同じだっただろうよ…人間が喧嘩を売って来たから買っただけ、ってな」
ソレを魔物の所為にして退治ってのも大分自己中心的だねぇ?と青年に対して皮肉で返した。
「…君は魔物の味方なのか?」
「これでも中立で平等のつもりだけど?人間と魔物…立場を同じに思ってるだけだ」
「平等…立場を同じに、か…」
彼女の言葉を聞いて青年は腕組みを解き顎に手を当てる。
「魔物や動物側には妥協させるけど、人間側は妥協しない…おかしいなぁ?」
「…住処や食料の問題か?」
イジワルそうに言った彼女の発言の意図を察した青年は顎に手を当てたまま問う。
「人間なら、いきなり家を壊されて畑を潰されたら人権侵害だ!と訴えるか過激な行動に出るだろう?魔物や動物だって一緒だと思わないか?」
「…だがそれは…」
「人間が先住民の魔物や動物を追い出して森を開発するのと、魔物が街を占拠するの、やってる事は似たようなもの…で?人間ならどうする?」
言い淀む青年に対して彼女は振り返りもせずに追い討ちをかけた。
「街を取り返すために魔物を駆逐するよな?ソレって共存する気無くない?」
「人間の生活が第一だから…」
「その考えって人間側は妥協してるの?」
だんだん声が小さくなっていく青年に彼女は攻めるように言葉を続ける。
「…じゃあどうしろと?」
「街を壊して植樹して魔物に譲る」
「!?そんな事したら街に住んでた人達はどうなるんだ!」
せっかく手に入れた住居や仕事を放棄しろと!?と青年は立ち上がった。
「うん、ソレが魔物達の考えと同じだよ」
「!?…!住処…食料…!」
「漫画やアニメ風に言うならば正義と正義のぶつかり合いってやつ?」
妥協しないで妥協させてる側が折れるのが一番の最善手でハッピーエンドなんだろうけど、と言葉を残して彼女は網を持って外に出た。
「…そうか…これは、理不尽な戦争と同じか…」
彼女が戻って来るとテーブルに握り拳を置いてる青年が意味不明な結論に至ったらしい事を呟く。
「…俺は、間違っていたのか…?」
「さあ?あんたの正義や正しさなんてあんたにしか分からないし?」
青年の真顔での問いに彼女は軽いノリで返して魚をまな板に乗せる。
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