「…いや、止めておく」
「なんで?」
「…すまなかった、忘れてくれ」
彼女の追求に男は答えきれずに謝る。
「…だったら最初から言うなよ…」
男の謝罪に彼女は呆れたようにため息混じりで呟いて外に出て行った。
「さーて…夕飯は何にしようかなー?」
彼女は洞窟方面に向かって歩きながら夕飯の献立を考える。
「ボルシチ、パエリア、ドリア…茶碗蒸しなんかも良いかもなー」
頭の中に湧いてきた料理を呟きながら山を進む。
「ビーフンソテーとか春雨サラダとか…意表を突いてのカレーパンとか…」
彼女は次々に料理名を呟いては選択肢に迷う。
「…よし、魚とキノコの茶碗蒸しにしよう、そうと決まれば魚魚魚~♪」
夕飯の献立を決めると彼女はご機嫌そうに口ずさみ始めた。
「…ふーむ、こうなってくると魚介の旨味を凝縮した茶碗蒸しを作りたくなってくるけど…川では海産物の一部しか養殖できないからなー…」
洞窟で魚を網で掬いながら彼女はブツブツと独り言を呟いている。
「…流石にそれは贅沢か」
彼女は最終的に悟ったのかボソッと呟くと鼻歌混じりで別の洞窟へと歩いて行った。
そしてキノコやら山菜やらと食材を採ってから彼女は家である小屋へと帰宅する。
「ふーんふふーん…♪」
家に着くや否や彼女は休みもしないでエプロンを手に取り夕飯の準備を始めた。
その頃、青年はと言うと…
「あ~…う~」「う~…あ~」
「あ~…う~」「う~…あ~」
「くっ…!どこにいるんだ…!」
ゾンビと化した民衆から逃げ回りながら魔物を探していた。
「邪魔、だが倒すワケにもいかないし…」
次々と群がってくるゾンビに囲まれないように…と周りを確認しながら青年は走り続ける。
「…探すまでがこんなに大変だとは…甘く見ていたな…」
弱気な発言をするも青年は立ち止まらずに魔物を探す。
「…ただいま、今日の夕飯はなんだ?」
青年が必死に街を駆けずり回ってる最中に男が家に帰ってきた。
「茶碗蒸し」
「ちゃわ…?」
「…ココでは珍しい料理かもね」
聞き取れなかったのか不思議そうに首を傾げた男に彼女が告げる。
「そうなのか?」
「多分ね」
男が問うと彼女はどうでも良さげに適当に返す。
「…アイツは今どうなってると思う?」
「…さあ?まだ探し回ってるんじゃない?見つけてからも大変だと思うよ」
男は少し心配そうに聞くも彼女は特に気にしてない感じで言う。
「…確かに、周りにはゾンビ、目の前には敵対心むき出しの魔物…交渉は一筋縄ではいかないかもな」
男は彼女の言葉に頷いて呟く。
「私の予想では魔物の毒にやられると思ってるけどねー」
彼女が手を全く止めずに心配した様子も見せずに笑いながら話した。
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