二日後。
彼女が2日かけて完成させた『ゾンビ解除』の効果がある冷製スープの入った大釜を、山奥から跡地へと移動させた。
「…ふぅ…深夜の時間帯から行動に移して正解だったな」
「ええ、本当ですね」
街の入口で青年が息を吐きながら呟くと女の人が賛同する。
「まったく…なんで俺まで…俺は頭脳労働派だから肉体労働は苦手なのに…」
大釜に背を預けるように座り込んだ男はブツブツと文句を言う。
「仕方ないだろ?彼女以外の騎士団の生き残り達は俺たちの考えに反対したんだから」
「…ならソイツらも説得してくれば良かったんじゃないか?」
青年が今の状況になった事情を説明すると男が呆れたように聞く。
「立場の違う者への説得は時間がかかる…食べ物を与えれば話を聞いてくれる魔物とは違う」
「…はっ、だから人間に共存は難しいって言われるんだろう?」
青年の言葉に男は皮肉気に笑って聞き返しながら立ち上がった。
「…まあ何にせよ…街の中に入るのは彼女が来てからだな」
男は伸びをするように手を上に上げると魔除けの札が貼られてる壁を見て呟く。
「やーやー、ご苦労」
少しして魔物に乗った彼女がやって来る。
「はい、昼ご飯」
魔物から下りた彼女は袋から大きな葉っぱに包まれたおにぎりを取り出して渡す。
「おお!朝も食べてないから腹が減ってやる気がダウンしてたんだ!」
「昼ご飯はなんだ?」
男が真っ先に彼女から受け取ると青年が問う。
「おにぎり」
「おにぎり?…美味い!」
彼女の返答に首を傾げつつも男が一口食べて叫ぶ。
「はい、あんたの」
「え?あ、ああ…ありがとう…」
彼女が女の人に葉っぱに包まれたおにぎりを渡すと困惑したように受け取った。
「まあなんとか『抗ゾンビ』の効果を付与できたから、そのおにぎりの数…だいたい10回ぐらいなら噛まれても大丈夫だよ」
「…この料理にも付けられるのか…?」
彼女の説明に青年がおにぎりをもぐもぐ食べながら驚く。
「いやいや、結構大変だったよ?米は炊いた後に蒸したし、中に入れる具材の作り方や組み合わせとかで効果が変わるから…中々シビアだった」
狙った効果を付与するやり方を平然と告げる。
「…周りのペイに炊くと蒸すの二種類、中の具材はおそらく数十種類、そしてソレを合わせる…」
もしかしたら錬金術や魔法よりも難しいのではないか…?とおにぎりを見ながら男が零した。
「……!美味しい…!」
「コレを食べたら作戦決行だ、ゾンビ化した騎士団の連中は居場所の分かる俺がやる」
女の人がおにぎりを恐る恐る食べて意外そうに呟くと青年が自分の役割の説明を始める。
「…俺は陣地の確保だな、とりあえず安全そうで大きい建物に魔除けの札を貼る」
すでにおにぎりを食べ終わった男も役割を伝えた。
「あ、あの…私は…?」
「君は第二段階に移るまではココで待機しながら彼女の護衛と見張りを頼む」
女の人が役割を尋ねると青年が説明する。
「さて…俺は先に行くかな」
男は茂みに葉っぱを捨てて街の中に向かって歩く。
「…気をつけてな」
「なに、俺がゾンビになってもソレで戻れるさ」
青年が声をかけると男は手を振りながら走った。
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