「もしソレであの魔物みたく住み着いたらどうするんだ…」

「周りに迷惑かけないならソレでいいじゃん」

「…正に平和的思考だな…」

これ以上の追求は諦めたのか二人は立ち上がる。

「今日の夕飯はなんだ？」

「焼肉丼…スルヴーダかな？」

「スル…？初めて聞く料理だ」

男と青年は夕飯の料理名を聞くとそれぞれシンクと洗面所で手を洗ってからまた椅子に座った。

「そろそろかなー？」

彼女は外の様子を気にすると大きな鍋を持って外に出る。

「良くもまああんな華奢な身体であんな大きな鍋を持てるもんだ…」

手伝おうかどうか迷って腰を浮かしていた青年は結局椅子に座って呟く。

「どうやら料理スキルの付与効果で『腕力強化』とやらをやってるらしい」

何回も手伝おうとしたがその都度突っぱねられた…と男はスプーンで焼肉丼を掻き込みながら言う。

「腕力強化…か…それにしてもこの料理の美味さはなんだ」

「肉は柔らかくてペイと合うし、タレも絶妙なんだよな…」

彼女を心配しながらも青年が焼肉丼を一口食べて嬉しそうに言うと、既に食べ終わってる男が解説した。

「…んあ？もう食べたの？」

「ああ、かなり美味しかった」

彼女が空になった綺麗な鍋を持って戻って来ると男がシンクにお椀を片付けながら感想を言った。

「まだおかわり残ってるけど…」

「いただこう！」

彼女の発言に男は即答してお椀に溜めた水を流す。

「…はいよ、あ…コレをかけても美味いよ？」

「ドールを…？」

男にご飯をよそいで肉を乗せてタレをかけたお椀を渡しながら彼女はお茶を指差す。

「ん、お茶漬けってやつ？」

「おちゃ…？…とりあえずやってみよう」

「半分より少なめでね」

急須を手に取った男に助言しつつ彼女は自分の分の料理をお椀に盛る。

「…おお！コレは…！さっきと味が変わって新鮮な味だ！しかも食べ易い！」

「お…おか、わり…！」

男の反応に青年は心が逸ったのか焼肉丼を掻き込んでモグモグと口を動かしながら彼女にお椀を差し出した。

「そんなに慌てて食べなくても…もっと味わえよ」

彼女は青年の行動に呆れてため息を吐きながらもお椀に料理を盛って手渡す。

「…これくらいか……っ！美味い！ドールをかける事によって、さっきとはまた違った味わいが…！」

「うるさいよ、黙って食べろ」

男と似たようなリアクションをする青年を見て彼女は不快そうに睨む。

「…すまない、つい…」

「ご馳走様…と…中々斬新な料理だな」

青年が謝ると男が空になったお椀をシンクに持って行って意外そうに呟く。

「まさかこんな山奥でこんな斬新な料理が出てくるとは…居着いて正解だったな」

「私としては鬱陶しいからさっさと出て行ってほしいけどね」

男がお茶を飲みながら言うと彼女は冷たい声で拒絶する。

「はっはっは！それが先ほど聞いたツンデレ成分ってやつか、拒絶してるようで実は歓迎してるんだろ？」

だが男はその言葉を別の意味で捉えたようでご機嫌そうに笑う。

「…あんまり調子に乗ってると、状態異常を付与した料理を食わせるぞ？」

「…じょ、冗談だ、冗談…どうやらこういうジョークはお気に召さないようで…」

彼女の睨みと脅し？に負けたのか男は冷や汗をかいて逃げるように外に出て行った。

「…因みに、どんな状態異常を…？」

内容が気になったのか青年が彼女の顔色を伺いながら恐る恐る聞く。

「解除しないと自然回復に一週間はかかる視覚麻痺と脱力」

「……すみません…今後気をつけます…」

内容を聞いて戦慄した男は手を震わせながらボソッと謝る。