風の歌は雲の彼方に

片腕を失った兵士と少女が紡ぐ物語
yaasan y
yaasan

不愛想と照れ屋

公開日時: 2021年5月20日(木) 13:00
更新日時: 2023年8月31日(木) 12:00
文字数:2,095

「ルーシャちゃん、大丈夫だった?」

 

 ルーシャがそこまで考えた時、ラルクを伴って姿を見せたセシリアが半分泣きながら駆け寄ってきた。

 

「お、おい、セシリア、静かにしないと」

 

 ラルクが声をかける。

 

「ごめんね、ルーシャちゃん。すぐに見つけてあげられなくて。痛かったでしょう? もの凄く怖かったよね」

 

 セシリアはそう言って、しゃくりあげ始めた。ルーシャはそんなセシリアの黒い髪を優しく撫でる。

 

「助けてくれてありがとう。見つけてくれてありがとう。セシリア、私は大丈夫だよ」

 

 ルーシャがそう言うとセシリアはしゃくり上げながら二度、三度と頷いた。

 

「無事でよかった。皆、心配したんだぜ」

 

 ラルクはそう言って安堵の表情を浮かべている。

 

「そうね。皆、心配したわよね。少尉なんてルーシャがいないことを知ったら、鬼みたいな顔をして探しに行くって言い出して」

 

 ハンナが呆れた顔をして見せた。

 

「そうだよ、ルーシャちゃん。ボルド少尉、志願兵に関しては生死を確認するまで、俺は諦めないって言い張っちゃって」

 

 セシリアはまるで幼い子供のように、ベッドの上で上半身を起こしているルーシャに抱きついていた。

 セシリアとは似ている所などないはずなのだが、ルーシャはふと妹のアナリナを思い出した。

 アナリナは元気だろうか? また無理をしてはいないだろうか? 

 

 セシリアはルーシャが自分を無言で見つめる意味が分からないようで、小首を傾げるとふにゃっと笑った。

 

「ルーシャちゃん、どうしたの? 急に私の顔を見つめて」

「何でもないよ。でも本当にありがとう。私を見つけてくれて」

 

 ルーシャがそう言うとセシリアは首を振った。

 

「当たり前だよ、だって友達なんだから」

「友達って、お前……。学校じゃあるまいし。戦友とか言い方があるだろう」

 

 ラルクの言葉にセシリアは頬を膨らます。

 

「えー、だって戦友なんて言い方、何か怖いし可愛くないもん」

「はあ? 可愛い可愛くないの話じゃないだろう」

「えー? だってさあ……」

 

 更に反論しようとするセシリアにハンナが割って入ってきた。

 

「さあ、今日はもうここまでよ。目を覚ましたばかりなのだから、ルーシャにはもう少し休んでもらわないとね」

 

 ハンナにそう言われて、セシリアは如何にも渋々といった感じで抱きついていたルーシャから離れる。

 

「ラルク、セシリア、本当にありがとう」

「馬鹿、気にするな」

「ルーシャちゃん。またね」

 

 そんな言葉を残して、ラルクとセシリアはルーシャのベッドから離れて行った。

 

「いい友達ね」

 

 ラルクとセシリアの姿が見えなくなった後、ハンナがルーシャにそう声をかけた。

 ルーシャは頷く。ハンナの言う通りだと思う。ラルクもセシリアも本当によい子たちだ。こんな状況で出会ったことが少しだけ残念なのだけれども、それでも出会えたことにルーシャは感謝している。

 

「あの、皆も無事だったんですよね?」

 

 そう言えばと思い、ルーシャは自分の中に浮かび上がった疑問を口にした。自分のことで精一杯だったのだが、気持ちが落ち着いてくると急に皆のことが気になってきた。

 

「安心なさい。皆、無事よ。少尉も、あの時に残った皆も大した怪我もなくて無事に私たちと合流できたわ。ボルド少尉の指揮がよかったみたいね」

「そうですか。ならよかった。じゃあ、私だけが皆に迷惑をかけちゃったんですね」

「ふふっ。そうね。そういう言い方もできるわね」

 

 ハンナはそう言って少しだけ笑う。

 その時、ベッドに近づいてくる影にルーシャは気がついた。ルーシャが視線を向けると視線の先には近づいてくるボルドの姿があった。

 

「ルーシャ三等陸兵、具合はどうだ?」

 

 ボルドはベッドの傍に立つとそう口を開いた。

 

「あ、はい、もう大丈夫です」

 

 ルーシャはボルドの黒い瞳を受け止めながら頷いた。その黒色の瞳を見ながら、やはり少尉は人族の血を濃く受け継いでいるのだろうかとルーシャは思う。

 

「そうか」

 

 ボルドは軽く頷いた。それに合わせて明るい灰色の髪が揺れる。

 

「無事で良かったが、気をつけてくれ。あんな所で死ぬために、お前はここに来たんじゃない」

「は、はい……すいません……」

「いや、別に謝って欲しいわけじゃない」

 

 そう言うボルドの顔に少しだけ困った表情が浮かんだような気がした。

 

「少尉、もう少し優しい言葉をかけたらどうなんですか?」

 

 ボルドの隣りで二人の会話を聞きながら、ハンナが苦笑する。

 

「……俺はこの小隊を預かっているんだ。だとしたら、これ以上もこれ以下の言葉もない」

 

 そう言い切るボルドにハンナが軽く肩をすくめて見せた。

 

「以上だ。折角の機会だから少し休んでいろ」

 

 そう言った後でハンナを軽く睨むと、ボルドは踵を返した。ルーシャはその背に向かって、思い切って声をかけた。

 

「あ、あの、少尉!」

 

 ボルドが振り返らずに足を止めた。

 

「あ、ありがとうございました。助けて頂いて」

「……気にするな。それにお前を助けたのは俺だけじゃない。小隊の皆もだ」

 

 ボルドは振り返らずにそう言って再び歩き出す。

 その後ろ姿を見ながらルーシャは小さく溜息を吐き出した。

 

「やれやれね。無愛想なんだか、照れ屋なんだか……ね」

 

 ハンナはそう言って、溜息をついたルーシャに片目を瞑って見せるのだった。

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