「少尉は少しだけ違うのかな。少尉から直接聞いたわけじゃなくて、私の印象だけれどもね」
「違うってどう違うんですか?」
「ルーシャがさっきも言っていたように、少尉も仲間や部下の死を何度も見てきたのよね。何十回と戦闘に参加して、その度に仲間や部下が死んでしまって自分だけが残される。そのことに多分、疲れてしまったのだと思う」
「疲れたって……じゃあ、もう疲れたから死にたいってことですか?」
意識しないまま自分の口調が強くなってしまうのをルーシャは感じる。
「そうね……生きることを選択できないあなたたちには失礼な話よね。生きるのが辛いからもう死にたいだなんてね。でも多分、ボルド少尉は自分だけが生き残っていることが申しわけないと思っているのよね」
死ぬためだけに死ぬまでその身を戦場に置く。それは意味があることだとは思えないし、そんな思いは凄く悲しいことなのではないだろうか。
死んでしまったボルドの仲間や部下たちも、決してそんなことを彼に望んでいないはずだとルーシャは思う。
少なくとも第四特別小隊の死んでいったセシリアたちは、ボルドに生きていてほしいと望んでいるはずだと断言できる。
「死ななければならない。そんな一番辛いはずのあなたたちを無視して言えば、残される方だってやっぱり辛いのよ……」
ハンナの言葉にルーシャは黙って頷いた。それはルーシャ自身もよく分かっていた。現に今がそうなのだ。そして、残してきた父や母、妹や弟たち。あの時の様子を思い返せばよく分かる。
「ボルド少尉が辛いことは分かります。でも、死んでしまった人たちや、死んでしまう私たちに引きずられる必要なんてないんです」
「……そうね。そんな必要はないわよね。そんなことは誰も望んではいないもの」
ハンナはそう言うと優しくルーシャに微笑んだ。
「ルーシャ、あなたからそう言ってあげたら? そうすれば少しは少尉の心も軽くなるかもしれないわね」
ハンナの言葉にルーシャは頷いた。自分であればそれを言う資格があるのかもしれないと思う。
……恥ずかしくてそんなことはとても言えそうにないのだけれども。
そんなルーシャを見て、ハンナは再び微笑を浮かべた。
「優しい少尉さんだものね。だからこそ苦しんでいるのだと思う。あなたや私たちにこれから死んでこいと言うことにね……」
「はい……」
ルーシャは遠くに見える一つだけ浮かんでいる小さな雲に再び視線を向けた。風の精霊ならばあの雲まで簡単に飛んで行けるのだろう。雲どころかもっと遠くまで飛んで行けるに違いない。
そうすれば、少しは心も軽くなってこんな悩みや悲しみなど忘れることができるのかもしれない……。
ルーシャはふとそんなことを思った。
「お久しぶりです、閣下」
カイネルはそう言って一礼をした。カイネルの前で座っているのは、ガジール帝国軍部の最高位に位置するウィルクス元帥だった。
「たまに帰ってきた自宅だ。閣下は止めろ」
ウィルクスは我が子のカイネルに渋い顔をして見せた。
「明日、発つのか?」
ウィルクスが唐突に言う。
それを知っていたからこそ、カイネルを見送るためにわざわざウィルクスは帰って来たはずなのにとカイネルは思う。同時に、こんな言い方しかできない不器用な父親が少しだけおかしかった。
「そうですね。いよいよ城塞都市グリビアの奪還戦です」
「幕僚本部の人間が最前線に行く必要はないだろうに」
ウィルクスは再び渋い顔を息子に見せた。
「最前線と言っても司令部は後方ですからね。大丈夫ですよ、父上。それに最前線にはボルドもいます。彼を守るのも私の役目ですから」
カイネルはそう言って、父親であるウィルクスの言葉をやんわりと否定した。
「ボルドか……片腕を失くしてしまったというのに、あの子を再び最前線に送ったこと、私はまだ許していないぞ」
……あの子ねとカイネルは思う。
生まれた時からボルドのことを知っているウィルクスにとっては、例えボルドがいくつになっても子供扱いをしてしまうようだった。
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