ワールドコントラクター

~辺境育ちの転生者、精霊使いの王となる~
日之影ソラ@二作書籍化予定
日之影ソラ@二作書籍化予定

3.穢れ

公開日時: 2020年11月20日(金) 18:31
文字数:2,027

 村中に響き渡る鐘の音。

 綺麗な音だが、祝福の金ではなく、警告の音だ。

 村に迫る脅威を知らせている。

 村人に、そして……その脅威を退けられる力を持つ者に。


「いくわよ、ドカドカ」

「あいよ!」


 リルの後を俺も追う。

 鐘の音とは別に、荒々しい音が聞こえてきた。

 ルート村は森に囲まれていて、様々生き物が暮らしている。

 イノシシを超える動物も当然いるが、これだけ大きな音をまき散らすような生き物はいない。

 そう、穢れは生き物ではない。


「お嬢!」

「ええ、いたわね」


 それは木々をなぎ倒し、地面にひびを入れている。

 姿形は大きなクマだ。

 しかしクマではないことは、纏っているどす黒いオーラを見れば明白。

 目は血走ったように赤く、凶暴性はクマと比較にならない。

 

「来るわ!」

「リル!」

「エルは下がってて! あなたじゃ穢れは祓えないんだから!」

「っ……わかった」


 リルは穢れに向っていく。

 あの恐ろしい穢れが何なのか、どこで生まれたのかはわかっていない。

 ただハッキリしているのは、穢れが人類を害なす存在であるということ。

 姿形は動物や昆虫、時には人の形にすら見せることもあるが、穢れは生物ではない。

 よくない力の塊とでもいうべきだろうか。

 そして、穢れを祓うことが出来るのは、精霊使いだけだ。


「ドカドカ!」

「任せとけお嬢!」


 リルが地面を強く踏みしめると、クマの穢れの地面が盛り上がり、岩の柱が伸びて吹き飛ばす。

 イノシシの時と同じだ。

 大地の精霊と契約したリルは、周囲の地形を操って戦うことが出来る。

 続けて左右の地面から棘のような岩が伸び、クマの穢れの両腹を突きさす。


「グオオオオオオオオオオオオオオ」


 悲鳴をあげる穢れの頭上に、リルは移動していた。


「終わりね」


 最後は思いっきり頭を踏んで、クマの穢れは倒れる。

 倒れた穢れは黒い霧状になって消えていった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「今日も助かったよ、リルカ。怪我はなかったか?」

「大丈夫。全然余裕だったから」

「はははっ、頼もしいな」


 豪快に笑うのはドレガさん。

 その隣に座っているのは妻のミシェルさん。

 二人は変わらず優しくて仲の良い夫婦だ。


「エル君もありがとう。リルカと一緒にいてくれて」

「いや俺は一緒にいただけで、何もしてませんから」

「本当に何もしてなかったわね」

「うっ……」


 自分で言っておいてあれだけど、改めて言われるとやっぱり傷つくな。


「まぁいいじゃないか! 村も二人も無事でよかった」

「そうね。さぁ食べましょう」


 夕食にはさっき狩ったイノシシ肉の料理が並んでいる。

 肉厚でとても美味しそうだ。


「いただきます」


 四人で食卓を囲む風景も見慣れてきた。

 十年以上経っても、この時間の穏やかさは変わらない。

 やっぱりこの家は居心地がいい。

 でも……


 俺はリルを見つめながら思う。

 彼女は精霊使いになった。

 その力で何度も村を救っているし、俺も助けられている。

 対して俺は……何もできていない。

 何だか自分だけが取り残されている気分で……歯がゆかった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 村の外れには湖がある。

 動物たちが水のみに訪れる様子が見えて、とてものどかな場所だ。

 そこで棒を振り回すのは、少し無粋かもしれない。


「よし! これで素振り千回終わりっ!」

「やっぱりここにいたのね」

「ようエル坊! 今日も精が出るな!」

「リル、ドカドカも」


 素振りを終えたところで、ちょうど二人がやってきた。

 リルは呆れ顔で、ドカドカは彼女の右からの上をふわふわ浮かんでいる。


「また特訓?」

「ああ。日課だからね」

「はぁ、そんなに毎日続けて飽きないの?」

「飽きるとかじゃないからな~ 強くなるためには、ちゃんと身体を鍛えないと」

「ふぅ~ん」


 素振り二セット目を開始した俺を、リルはじっと見つめる。

 

「ねぇエル、別にあなたが頑張らなくてもいいんじゃない?」

「え?」

「だってそうでしょ? 穢れもイノシシ狩りも、私がいれば何とかなるわ。エルが身体を鍛えなくたって平気だと思うけど」

「それはまぁ……そうだけど。リルだけ危険な目に合って、俺だけ安全な場所から見ているなんて出来ないよ」

「心配いらないわよ。私、強いから」


 リルは堂々と答えた。

 確かにリルは強い。

 彼女が苦戦しているところなんて見たことがない。

 助けなんて不要と言われれば、そうなのだと思う。


「……でも駄目だ。やっぱり何も出来ないなんて嫌だよ。リルが強いことも、俺が弱いことも知っている。だけどそれは、何もしなくて良い理由にはならないから」

「エル……」


 大切な幼馴染が傷つくのは見たくない。

 あとはそう……ただの意地だ。


「それにほら! 体力と頑丈さが俺の取り柄だからさ。そこを磨いておいても損はないと思うんだよ」

「……そんなだから心配なのよ」

「え、何か言った?」

「何でもないわ。ほら、素振りの手が止まってるわよ? 罰として千回追加ね」

「えっ……」

「もう千回足して――」

「やります!」


 なぜかリルに指導されながら、俺は特訓を続けていた。

読み終わったら、ポイントを付けましょう!

ツイート