「ルブラン様」
「お前らは手ぇ出すな。今でも二等クラスはある。こんな片田舎でよく育ったもんだぜ」
リーダー格の名前はルブラン。
彼はコキコキと指を鳴らし、部下たちに命令して前に出る。
「お嬢!」
「ドカドカ」
そこへドカドカが現れた。
契約精霊は、離れた契約者の元に瞬間移動できる者もいる。
異変を感じたドカドカは、エルの元からリルへと飛んだ。
「大丈夫か? お嬢」
「ええ。でも……」
ドカドカはリルの視線に合わせて前を向く。
「こいつら何者だ?」
「わからない。だけど、私を狙ってるみたい」
「お嬢を? そういやさっきの手紙の中に、人さらいに注意しろとか書いてあったな。まさかこいつらがその……」
ドカドカは男たちを注視する。
ルブランの背後にいる精霊、その後ろにいる部下たちの精霊を確認した。
「こいつら全員精霊使いかよ」
「そうみたい」
「やべぇぜお嬢……後ろの奴らは下級精霊だが、一番前のあのツンツン頭。あれが契約してんのは俺と同じ中級精霊だ」
「わかってるわよ」
「人数差もある。ここは逃げたほうが良い」
ドカドカの進言にリルは首を振る。
「何でだよ! こいつらの狙いはお嬢なんだろ?」
「そうだけど、もし逃げて村のほうへ行かれたらみんなが……エルが危ない」
こんな時までエル坊の心配かよ。
と心の中で思うドカドカ。
リルは決意したような強い目でルブランを睨む。
「だからここで、私がこいつらを倒す」
「ったく……こうなったら聞かねぇんだよなお嬢は……。しゃーない! 俺も腹くくるぜ!」
「うん」
ドカドカも覚悟を決め、ルブランに視線を向ける。
「作戦会議は終わったかよ? 契約精霊もきたみてーだし。んじゃそろそろ……」
「……」
「いくぞ」
殺気と敵意。
極限まで込められた視線が二人を震わせる。
その恐怖に駆られるように、リルは足元の地面を力強く踏みしめた。
初撃と同様にルブラン周辺の地面を操作し、大地の柱で攻撃する。
「はっは!」
しかし柱は届かず、すべてルブランに砕かれてしまった。
そのままルブランが走り出す。
狂気のような笑顔を見せながら、リルへと迫る。
リルは拒むように攻撃を続けるが、悉く相殺されてしまう。
大地の精霊と契約した者は、周囲の地形を操ることが出来る。
二人は同じ大地の精霊使い。
互いに地形を操ることが出来る。
今はお互いが地形を操り、その支配権を取り合っている状態だ。
一瞬でも集中を乱せば、たちまち大地は敵に回ってしまうだろう。
リルの攻撃を掻い潜りながら接近するルブラン。
距離が近づき、飛び上がって拳をリルに叩きつける。
リルは後方に跳んで避け、ルブランの拳は大地を砕き割った。
「こんなもんかよ!」
「っ……」
格闘と精霊の力を掛け合わせる。
それが彼の戦闘スタイルであり、彼のこぶしも精霊の力で強化されている。
硬い地面を一撃で砕くほどの威力だ。
もしも食らえば一たまりもないだろう。
「まだまだ行くぜ!」
ルブランは攻め続ける。
対するリルは防戦を強いられていた。
精霊の力だけならそん色はない。
如実に表れているのは戦闘経験の差だった。
リルは徐々に追い詰められいく。
「オラッ!」
至近距離まで近づいたルブランが、正面からリルを殴る。
跳び避けれなかったリルは、自分の彼の間に壁を生成して防御した。
彼の拳を止められるように強化した壁だ。
「よく止めた。だが、いいのかよ?」
リルの足元に亀裂が入る。
「前にばっか集中しすぎて、足元がお留守だぜ?」
「しまっ――」
リルの足元が盛り上がり、柱となって上へ押し上げる。
正面のルブランに集中しすぎたリルは、足元の地形から意識が逸れてしまっていた。
吹き飛ばされたリルは、そのまま倒れ込んでしまう。
「っ……」
「お嬢!」
「まだ青いな」
無造作に近づくルブラン。
リルは吹き飛ばされた衝撃で足を痛め、立ち上がれなくなっていた。
「しかし思った通り中々やる。これは精霊引っこ抜いて殺すのは勿体ねぇな。ボスに進言して、俺専用の下僕にしてやるか。良かったな~ 俺の物としてまだ生きていられるぜ」
「誰が……」
「いいねその目。だったら教えてやるよ。俺に逆らうとどうなるか……その身体にな!」
ルブランが腕を振り上げ、拳を振るう。
「っ――」
「リル!」
そこへ俺は飛び出し、彼女を抱えて避ける。
ルブランの拳は地面に当たり、その隙に距離をとる。
「は?」
「エル!?」
「間に合ったかエル坊!」
ギリギリだったけど、何とか彼女を庇うことが出来た。
リルは傷を負っている。
俺がもっと早く来ていれば……口惜しさと同時に、目の前の男への怒りが湧く。
「お前がやったのか?」
「あ?」
「お前が彼女を傷つけたのか!」
「っち、うるせぇな」
俺はリルを抱きかかえたまま徐々に下がる。
「エル坊! こいつらお嬢を狙ってきた精霊使いだ。特にあの男はやべぇぞ」
「ああ」
立ち姿からすでに伝わる。
他の男たちとは比較にならない霊力だ。
「リル、立って逃げられる?」
「無理よ」
「もうお嬢の霊力は限界だ。これ以上は戦えねぇ」
「そうか……」
彼女を抱きかかえて逃げることは……難しそうだ。
つまり今、この場で――
「エル!」
「俺が何とかするしかない」
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