ワールドコントラクター

~辺境育ちの転生者、精霊使いの王となる~
日之影ソラ@二作書籍化予定
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7.大地の精霊使い

公開日時: 2020年11月21日(土) 12:00
文字数:2,054

「ルブラン様」

「お前らは手ぇ出すな。今でも二等クラスはある。こんな片田舎でよく育ったもんだぜ」


 リーダー格の名前はルブラン。

 彼はコキコキと指を鳴らし、部下たちに命令して前に出る。


「お嬢!」

「ドカドカ」


 そこへドカドカが現れた。

 契約精霊は、離れた契約者の元に瞬間移動できる者もいる。

 異変を感じたドカドカは、エルの元からリルへと飛んだ。


「大丈夫か? お嬢」

「ええ。でも……」


 ドカドカはリルの視線に合わせて前を向く。


「こいつら何者だ?」

「わからない。だけど、私を狙ってるみたい」

「お嬢を? そういやさっきの手紙の中に、人さらいに注意しろとか書いてあったな。まさかこいつらがその……」


 ドカドカは男たちを注視する。

 ルブランの背後にいる精霊、その後ろにいる部下たちの精霊を確認した。


「こいつら全員精霊使いかよ」

「そうみたい」

「やべぇぜお嬢……後ろの奴らは下級精霊だが、一番前のあのツンツン頭。あれが契約してんのは俺と同じ中級精霊だ」

「わかってるわよ」

「人数差もある。ここは逃げたほうが良い」


 ドカドカの進言にリルは首を振る。


「何でだよ! こいつらの狙いはお嬢なんだろ?」

「そうだけど、もし逃げて村のほうへ行かれたらみんなが……エルが危ない」


 こんな時までエル坊の心配かよ。

 と心の中で思うドカドカ。

 リルは決意したような強い目でルブランを睨む。


「だからここで、私がこいつらを倒す」

「ったく……こうなったら聞かねぇんだよなお嬢は……。しゃーない! 俺も腹くくるぜ!」

「うん」


 ドカドカも覚悟を決め、ルブランに視線を向ける。


「作戦会議は終わったかよ? 契約精霊もきたみてーだし。んじゃそろそろ……」

「……」

「いくぞ」


 殺気と敵意。

 極限まで込められた視線が二人を震わせる。

 その恐怖に駆られるように、リルは足元の地面を力強く踏みしめた。

 初撃と同様にルブラン周辺の地面を操作し、大地の柱で攻撃する。


「はっは!」


 しかし柱は届かず、すべてルブランに砕かれてしまった。

 そのままルブランが走り出す。

 狂気のような笑顔を見せながら、リルへと迫る。

 リルは拒むように攻撃を続けるが、悉く相殺されてしまう。


 大地の精霊と契約した者は、周囲の地形を操ることが出来る。

 二人は同じ大地の精霊使い。

 互いに地形を操ることが出来る。

 今はお互いが地形を操り、その支配権を取り合っている状態だ。

 一瞬でも集中を乱せば、たちまち大地は敵に回ってしまうだろう。


 リルの攻撃を掻い潜りながら接近するルブラン。

 距離が近づき、飛び上がって拳をリルに叩きつける。

 リルは後方に跳んで避け、ルブランの拳は大地を砕き割った。


「こんなもんかよ!」

「っ……」


 格闘と精霊の力を掛け合わせる。

 それが彼の戦闘スタイルであり、彼のこぶしも精霊の力で強化されている。

 硬い地面を一撃で砕くほどの威力だ。

 もしも食らえば一たまりもないだろう。


「まだまだ行くぜ!」


 ルブランは攻め続ける。

 対するリルは防戦を強いられていた。

 精霊の力だけならそん色はない。

 如実に表れているのは戦闘経験の差だった。

 リルは徐々に追い詰められいく。


「オラッ!」


 至近距離まで近づいたルブランが、正面からリルを殴る。

 跳び避けれなかったリルは、自分の彼の間に壁を生成して防御した。

 彼の拳を止められるように強化した壁だ。


「よく止めた。だが、いいのかよ?」


 リルの足元に亀裂が入る。


「前にばっか集中しすぎて、足元がお留守だぜ?」

「しまっ――」


 リルの足元が盛り上がり、柱となって上へ押し上げる。

 正面のルブランに集中しすぎたリルは、足元の地形から意識が逸れてしまっていた。

 吹き飛ばされたリルは、そのまま倒れ込んでしまう。


「っ……」

「お嬢!」

「まだ青いな」


 無造作に近づくルブラン。

 リルは吹き飛ばされた衝撃で足を痛め、立ち上がれなくなっていた。


「しかし思った通り中々やる。これは精霊引っこ抜いて殺すのは勿体ねぇな。ボスに進言して、俺専用の下僕にしてやるか。良かったな~ 俺の物としてまだ生きていられるぜ」

「誰が……」

「いいねその目。だったら教えてやるよ。俺に逆らうとどうなるか……その身体にな!」


 ルブランが腕を振り上げ、拳を振るう。


「っ――」

「リル!」


 そこへ俺は飛び出し、彼女を抱えて避ける。

 ルブランの拳は地面に当たり、その隙に距離をとる。


「は?」

「エル!?」

「間に合ったかエル坊!」


 ギリギリだったけど、何とか彼女を庇うことが出来た。

 リルは傷を負っている。

 俺がもっと早く来ていれば……口惜しさと同時に、目の前の男への怒りが湧く。


「お前がやったのか?」

「あ?」

「お前が彼女を傷つけたのか!」

「っち、うるせぇな」


 俺はリルを抱きかかえたまま徐々に下がる。


「エル坊! こいつらお嬢を狙ってきた精霊使いだ。特にあの男はやべぇぞ」

「ああ」


 立ち姿からすでに伝わる。

 他の男たちとは比較にならない霊力だ。


「リル、立って逃げられる?」

「無理よ」

「もうお嬢の霊力は限界だ。これ以上は戦えねぇ」

「そうか……」


 彼女を抱きかかえて逃げることは……難しそうだ。

 つまり今、この場で――


「エル!」

「俺が何とかするしかない」

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