ワールドコントラクター

~辺境育ちの転生者、精霊使いの王となる~
日之影ソラ@二作書籍化予定
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2.精霊がいる世界

公開日時: 2020年11月20日(金) 18:15
文字数:2,170

 この世界には精霊がいる。

 精霊は、大自然から生まれた霊的存在。

 僕たち人間とは根本的に異なり、肉体は霊力で出来ている。

 炎の精霊、水の精霊、風の精霊、大地の精霊……。

 精霊の種類は、世界を形作る元素と、自然界に存在する物や現象の数だけあると言われていた。


「精霊さんってホントにいるのかな~ 私いーっかいも見たことないよ」

「僕もないけど、きっといると思う」

「どこにいるのかな?」

「どこなんだろう。昔は一緒に暮らしてたって、この本にも書いてあったよ」


 昔も昔、一万年以上前の話だ。

 世界には人間と精霊がいて、一緒に仲良く暮らしていたらしい。

 他にもいろんな種族がいたとか、この本には書いてあった。

 でも今は、そんなに身近な存在じゃなくなっている。

 精霊が見れるのは、素質のある限られた人間だけになってしまった。


「ねぇねぇ! この精霊使いってなに?」

「精霊使いはね? 精霊さんと契約して、その力を使えるようになった人のことだよ」


 精霊使いという言葉は、ファンタジー世界ではよく耳にする。

 僕が知っている精霊使いと、この世界における精霊使いは大体同じだった。

 精霊が見える素質のある者は、精霊と契約を結ぶことで、その力を使役することが出来る。

 炎の精霊と契約すれば、炎を操ることが出来るし、水の精霊と契約すれば、汚い水を綺麗にしたりも出来るみたいだ。


「う~ん、つまりどんな人なの?」

「精霊さんと仲良くなれるくらい、すごい人ってこと!」

「そっか!」


 契約には細かい制約があるらしいけど、まず精霊を見れないと話にならない。

 まだ精霊を見たことはないし、自分に素質があるのかもわからない。

 だけどせっかく新しい世界で生まれたんだ。

 もしも自分に素質があるのなら……


「僕もいつか、精霊使いになってみたいな」

「エルがなるなら私もなる!」

「そうだね! 一緒になろう!」

「うん!」


 そんな微笑ましい会話をしながら、ふと思い出す。

 この世界に生まれる前、僕と会話をした不思議な少女のことを……。

 もしかすると、彼女も精霊の一人なのかもしれない。


 そして月日は流れ――

 十年後。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 ドンドンドン。

 森の中を走る一匹のイノシシがいる。


「エル! そっちに行ったわよ!」

「わかってる」


 俺は弓矢を構えて狙いを定める。

 イノシシはまっすぐこちらへ向かってきていた。


「そこだ!」


 矢を射る。

 真っすぐ飛んで行った矢は空気を貫き、そのままイノシシの脳天に突き刺さった。

 俺は嬉しさにガッツポーズをとる。


「よし! ってあれ?」


 全然スピードが落ちない。

 頭に矢が刺さっているのに、イノシシは俺目掛けて突進してきていた。

 

 う、嘘でしょ? 

 頭射抜かれて死なないイノシシって何?


「ちょっ――」

「はぁ。仕方ないわね」


 トンと地面を踏みつける音がする。

 その音の直後、イノシシが踏みしめた地面が盛り上がり、岩の柱が飛び出す。

 イノシシは岩の柱に突き上げられ宙を舞い、俺の横にボトンと落ちる。

 さすがに今の衝撃で終わってくれたようだ。

 俺はほっと胸をなでおろす。


「ありがとう。助かったよ、リル」

「はぁ……ホント、エルは駄目駄目ね。私がいないとすぐこれなんだから」

「あはははは……面目ない」


 助けられたのは一度目じゃないし、返す言葉もない。

 彼女は幼馴染のリルカ。

 俺と同じ十五歳になり、女の子っぽさが増して、スカートもよく似合う。

 

「どこ見てるのよ、変態エル」

「へ、変態じゃないから! それよりイノシシを持ち帰ろうか」

「そうね。よろしく」

「え?」

「何よ」

「もしかして俺が運ぶの?」

「当たり前でしょ」


 リルは即答した。

 倒れているイノシシの大きさに目を向ける。

 めちゃめちゃ重そうだ。


「リルがゴーレムを作ってくれた方が楽だと思うんだけど……」

「は? それじゃ私が疲れるだけでしょ? 戦闘では全然役に立ってなかったんだから、エルが運ぶべきだと思うけど?」

「うっ……それを言われると言い返せないな」


 俺は小さくため息をこぼし、イノシシを担ぐために準備を始める。


 はぁ……小さい頃のリルはもっと素直で優しかったのに……。

 今では毒舌ツンツンキャラになってしまった。

 一体どこで間違ってしまったのだろう?


「ねぇ、今失礼なこと考えてなかった?」

「か、考えてないです!」

「そう? ならさっさと運んで」

「はい!」


 あの頃のリルが戻ってきてくれないかな……。


 そんなことを思っていると、彼女から別の声が聞こえてくる。


「まぁまぁお嬢、そんなにエル坊を虐めちゃダメですよ」

「ドカドカ……」


 リルの右肩にひょっこり顔を出したのは、彼女と契約している土属性の精霊ドカドカだ。

 見た目は茶色いぬいぐるみで、ぱっと見はクマっぽいけど惜しい。

 本人曰く、世界一格好良いフォルムだそうだ。

 俺には一切わからない。


「なぁお嬢、手伝ってやってもいいんじゃないか?」

「ふんっ」

「いいよドカドカ。これくらいなら何とかなるし、戦闘で役に立てなかったのも事実だから」

「そうか? あんま気を落とすなよエル坊。お嬢もあー言ってるが、本当はエル坊が無事で心底安心――ぶっ!」

「それ以上言ったら潰すわよ」

「も、もう潰れてるっ」


 そんな二人を見つめながら、俺は羨ましいと思っている。

 リルは縁あって、ドカドカと契約することで精霊使いになった。

 でも俺は……


 カンカンカン――


「この音……リル!」

「ええ、また来たのね――穢れが」


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