ワールドコントラクター

~辺境育ちの転生者、精霊使いの王となる~
日之影ソラ@二作書籍化予定
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16.ハルネの街

公開日時: 2020年11月25日(水) 07:01
文字数:2,164

 馬車での旅路は、意外と快適だった。

 最初は揺れのせいで腰が痛くなったり、リルは酔ってしまう様子もあったけど、数日も過ぎれば慣れてしまったらしい。

 後ろの荷台には十分なスペースもあるから、野宿なっても困らない。

 とはいうものの……


「そろそろベッドで眠りたいわね」

「何言ってんだよお嬢。まだ出発して五日だぜ?」

「うるさいわよドカドカ……あなたを引き延ばしたらベッドに……」

「ならねぇから!」

「はははは……」


 ルート村を出発して五日が経過した。

 途中に小さな町や村はあって、立ち寄る機会はあったのだけど、今のところスルーしている。

 先を急いでいるからという理由もあるが、一番は資金的な問題だ。

 村を出るとき、馬車と一緒に村長からお金をもらえた。

 今までの手伝いや、穢れを追い払ってくれた分の報酬だという。

 帝都までの旅路や帝都での生活を考えると、お金は必要不可欠だ。

 だからありがたく受け取ったのだが、当たり前だけどお金も無限じゃない。

 使えばなくなってしまう。


 ゲームみたいに、敵を倒したらアイテムとかお金がドロップすれば良いんだけどな~


 残念ながらこの世界は現実だ。

 穢れを倒しても、お金が落ちるなんてことはない。

 お金がほしければ、ちゃんと働いて稼ぐしかないんだ。

 なくなるのは一瞬だけど、貯めるのは大変というのは、どの世界でも一緒らしい。

 そういうわけで、今後のためにもお金はあまり使いたくない。


「はぁ、帝都についたらアルバイト探さないとな~」

「アルバイト?」

「あーうん、学園に通いながらでも出来る仕事探さないとって。ほら、向こうでの宿代とか生活資金とかいろいろ必要でしょ?」

「確かにそうね」

「世知辛れーなー。学園が生活資金くらい援助してくれないのか?」

「さすがにそれはないと思うな。学園は学ぶ場所だから」


 そこまでしてくれるのなら有難い話だけどね。

 寮とかもあるか確認しておきたいな。

 宿代より安く済むなら、寮に住んだほうが良いし。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 しばらく進むと、分かれ道にさしかかった。

 俺たちが進んでいる街道は、基本的にどれも帝都に繋がるように出来ている。

 どっちの道へ進んでも、最終的に帝都へ到達できるだろう。


「左のほうが早くつくかな。右へ行くとハルネの街があるみたい」

「街があるのか!」

「うん。ハルネはこの辺りで一番大きな街だね。寄っていこうか?」

「別にいいわ」


 あれ?

 ベッドで寝たいと口にしていたし、てっきり喜ぶかと思ったんだけど……

 ああ、もしかしてお金の話をしたからかな。

 無駄遣いできないから、気を遣ってくれているのだろう。


「そう? じゃあ右で」

「え?」

「初めての旅で俺も疲れてるんだ。それに食料調達も必要だしね」

「……そう。なら仕方がないわね」


 リルは小さな声で「ありがとう」と口にした。

 ドカドカにも聞こえたらしく、ニヤニヤしながらリルを見ている。

 バレたらまた握りつぶされるぞ?


 馬車を走らせ、右の道へ進む。

 街道は森の中にあって、大きな木々で左右は視界が悪い。

 ずっと先まで進むと、正面にぼんやりと建物らしき影が見えてきた。


「お、あれじゃねーか!」

「うん」


 さらに近づくと、より鮮明に見えだす。

 二メートルくらいの石壁に囲まれて、薄い半透明の結界で覆われた街。

 石壁の奥から、背の高い建物が顔を出している。

 そのまま進み、石壁より一回り大きな門を潜ると――


「ここがハルネの街」

「うん」


 綺麗な街並みが顔を出す。

 ゲームとかよく見る街並みだ。

 石レンガで造られた建物が多く、三階建てもある。

 道もレンガで固めてあるし、街灯が一定間隔で立っていた。

 ルート村は小さくて、明かりも火とか原始的なものを使っていたけど、こういう大きな街での生活の基盤は電気で出来ている。

 さすがに家電とかはないけど、それなりに科学技術も発展しているらしい。

 大昔は、精霊の力を利用した道具があったそうだけど、今ではその技術も失われてしまった。


「すげぇー人だな~」

「そうだね。さすがに栄えてる街って感じだ」

「お店もたくさんある。ルート村とは全然違うわね」


 旅をするのは初めてだが、そもそもルート村から出るのも初めてだ。

 リルとドカドカは、興味津々に周囲を見回している。

 かくいう俺も、この世界で初となる大きな街にワクワクしていた。


「先に宿屋をみつけよう。馬車も預けたら、一緒に街を見て周ろうか」

「いいの?」

「うん。俺も見て周りたいし、リルもでしょ?」

「ええ」


 リルも素直に認めた。

 それだけ彼女もワクワクしているということだろう。

 馬車をゆっくり走らせ、宿屋を探す。

 大きな看板を見つけて、馬車も停められる設備もあったから、どこにするかはすぐ決まった。


「いらっしゃいませ。宿泊二名様ですね?」

「はい」

「お部屋は分けますか?」

「あー、どうする? リル」

「一緒でいいわよ」


 即答するリル。

 一緒に住んでいて、今さら躊躇しないか。


「そうだね。じゃあ一部屋でお願いします」

「ベッドがお一つの部屋と、二つの部屋がございますが」

「じゃあ二つ――」

「一つでいいわよ」


 俺の言葉を遮ってリルが言う。


「そっちの方が安いでしょう?」

「確かにそうだけど」

「何? 私と一緒のベッドは嫌なの? だったらエルは床で寝ればいいわ」

「い、嫌じゃないです!」


 というわけで、泊る宿は決まった。

 何かが起こりそうな予感が……するぞ。

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