ワールドコントラクター

~辺境育ちの転生者、精霊使いの王となる~
日之影ソラ@二作書籍化予定
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6.精霊使い来襲

公開日時: 2020年11月21日(土) 08:45
文字数:2,005

 テーブルの上には、帝都からの手紙が置いてある。

 封は開いていて、中身の三枚の紙も見えるように並んでいた。

 一枚目は推薦状、二枚目は学園についての概要が簡単に書かれたもの、三枚目は注意書きだ。

 最近、精霊使いや素質のある者が誘拐される事件が多発しているらしい。

 とても重要なことが書かれているが、今の俺の頭には入ってこない。


「馬鹿……か」

 

 リルにそう言って出て行ってしまった。

 俺は部屋に残って俯いている。

 ドレガさんとミシェルさんも思う所はあったみたいだが、それぞれの仕事に戻っていった。

 一人になった部屋は、嫌なくらい静かだ。


「エル坊~ さすがにあれはねぇーよぉ~」

「ドカドカ」


 いや、一人ではなかった。

 リルと契約している精霊のドカドカも一緒に残っている。


「いくらなんでも鈍感が過ぎるぜ。お嬢がどうして帝都行きを嫌がったのか、本当にわからねぇーのか?」

「それは……」

「エル坊と離れたくなかったからだぞ? 地位がどうとかチャンスだとか、そんなもんはお嬢にとってどうでも良い。大事なのは、エル坊と一緒にいること」

「わかってるよ。それくらい」


 ああ、わかっている。

 十五年も一緒にいれるんだから、リルのことはよく知っている。

 彼女の思いも理解しているつもりだ。


「だったら何で引き留めなかったんだ? エル坊だって、お嬢と離れ離れは嫌だろ?」

「ああ、嫌だよ」


 本心を口にしながら、それを自分で押し殺して続ける。


「それでもリルには……才能がある。俺にはなかった凄い才能があるんだ。彼女には、俺が選べない道を選ぶ資格がある。リルならこんな小さな村だけじゃなくて、世界で活躍できると思うんだ。きっとそれは未来の……リルの幸せにつながると思うから」

「お前と離れることになってもか?」

「うん。でもほら、離れるって言っても今生の別れじゃないんだしさ。会おうと思えばいつだって会えるよ。俺も王都には行きたいと思っていた。リルとは違う理由になるけど」


 未開拓領域を除く大陸の全土を統治するエスタニカ帝国。

 その帝都ザーフェスには、エリア学園以外にも様々な施設がある。

 この世界について調べるなら、一度は行ってみたい場所だと思っていた。


「エル坊……何でそれさっき言わなかったんだ?」

「まだ決まったことじゃないし、不確定なことを簡単に言えないよ」

「……はぁ~ この真面目君が! これだから人間は面倒くせぇ」

「ごめん」


 呆れているドカドカは、もう一回大きなため息をこぼす。


「お嬢んところ行くぞ。今の話すりゃー機嫌も直るだろ」

「そうかな?」

「おう! まぁいつも通り、ボロカスに怒られるとは思うけどよ」

「ははは……」


 それはちょっと怖いな。

 でもリルらしい。


「んじゃ行――」

「ドカドカ?」


 急にドカドカがピタリと止まる。


「悪いなエル坊、俺は先にお嬢のところへ飛ぶぜ」

「どうしたの?」

「お嬢がやべぇ! 何かに襲われてやがる!」

「なっ……」


 襲われている?

 穢れの出現を知らせる鐘は鳴っていない。

 一体何が――


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 家を出たリルが向かったのは湖の辺だった。

 彼女は湖が見えるように腰掛け、小さな声でぼそりと呟く。


「馬鹿エル」


 彼なら引き留めてくれると思っていた。

 きっと同じ気持ちだからと。

 しかし結果は違った。

 そのことにショックを受けて、小さく丸まるように膝をかかえ顔を伏せている。

 エルの言葉が、自分の将来を思ってのことだということは理解できる。

 ただ、彼女にとってそれはどうでも良いことだった。

 ドカドカの言う通り、彼女にとって大事なのは……


 しばらく一人で湖を見ていたリル。

 少しずつ落ち着いてきた様子。

 徐に立ち上がり、村に戻ろうとした。

 そこへ足音が届く。


「エル?」


 彼が来てくれたのかと思ったリルは振り返る。

 しかし、残念ながらエルではない。

 彼女の前に現れたのは、黒い怪しいローブに身を包んだ男たちだった。


「こんにちは~ 君が噂の精霊使いちゃんかな? 思ってたより可愛いね~」

「……気持ち悪い」

「おっと傷つくな~ 初対面でいきなりそれはひどくないか?」

「別に、ホントのことを言っただけ」

「かぁー、そうかい。生意気だが、そんくらいの方が俺好みだね。攫いがいがあるって――」


 リルは地面を踏みしめる。

 男の前の地面がぼこっと盛り上がり、腹を穿つように土の柱を伸ばす。

 彼女は男の話など聞きもせず、問答無用で攻撃を仕掛けた。

 見るからに怪しい人物の集団だ。

 咄嗟の判断は間違っていない。

 だが……


「こりゃすげえな」


 男は正面に土の壁を生み出し、彼女の攻撃を相殺していた。


「同じ力がなかったら危なかったな~」

「こいつも……」


 大地の精霊使い。

 茶色ツンツン頭の男の背後には、オレンジ色をした四本足の精霊がいる。

 見た目はハイエナにそっくりだ。

 そして男の後ろには七人、同じ格好をした男たちがいる。

 彼らの背後にも、ふわふわと色とりどりな光が浮かんでいた。


「いやー驚いた! これは久々に俺も楽しめそうだ」

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