ワールドコントラクター

~辺境育ちの転生者、精霊使いの王となる~
日之影ソラ@二作書籍化予定
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14.出発の宴

公開日時: 2020年11月24日(火) 07:01
文字数:2,610

 カンカンカン――


 警戒の鐘が鳴り響く。

 湖の辺で訓練をしていた俺とリルにも、その音はよく聞こえた。


「エル、呼ばれてるわよ」

「そうみたいだね」

「行きましょう」

「うん」


 この鐘の音は、村の近くに穢れが現れたという知らせだ。

 普通の人間には、穢れを祓う力がない。

 穢れを祓う力を持つ者は精霊使いと呼ばれている。

 この小さな村では、俺とリルだけだ。


「クマの穢れね。それも二体」

「うん。いける?」

「誰に言っているの? エルこそやれる? 私一人でもなんとかなるわ」

「大丈夫! 今の俺は――精霊使いだから」


 剣を抜き、霊力を開放する。

 オーロラのような光を全身に纏い、瞳と髪の色が変化した。

 これが世界の精霊ミラと契約した者の証。

 彼女を通じて、世界から与えられた霊力を解放した姿だ。


「いくよリル、ドカドカ!」

「ええ」

「おう!」


 リルが足元を踏みつける。

 地面に亀裂が走り、その亀裂がクマの穢れの足元へ届く。

 揺れと亀裂に態勢を崩したクマは、よろめきながら膝をついた。

 さらに周囲の地形が変化し、大地の柱がクマを吹き飛ばす。

 

「一匹躱したぜ!」

「エル!」

「任せて!」


 リルの攻撃を回避したクマがこちらへ向かっている。

 俺は力を足元に集中させ、一瞬で地を駆けクマの懐に潜り込む。

 クマも反応するが、それよりも速く剣を振り抜き、胴体を斬り裂いた。


「よし!」

「ナイスだエル坊!」

 

 剣には世界から得た霊力が流れている。

 この剣で斬り裂くことで、穢れは祓われ、元の正常な霊力に回帰する。

 俺は剣を鞘に納め、リルの元へ歩く。


「いい感じね」

「うん。時間はかかったけど、ようやくコントロールできるようになったよ」


 世界の精霊の力は、俺が想像していた以上に強力なものだった。

 扱うだけでも難しいのに、戦いながらなんて最初は途方もなく感じたよ。

 リルとドカドカにも協力してもらいながら、何とか今みたいに戦えるようになった。

 それも一月前くらいなんだけど。


「それにしても、二日連続で穢れが現れたのって初めてじゃないかな?」

「そうね。昨日もクマだったし」

「要するにそんだけ、穢れの勢いが強くなってるってことだな~ エル坊も感じてんだろ?」

「うん」


 世界に蔓延る穢れ。

 ミラが頑張ってくれているけど、徐々に強くなっている。

 穢れが出現する頻度が増え、個体としての強さも増してきているようだ。


「じゃあそろそろ行く?」

「そうだね。時期も近づいてるし、出発の準備を始めよう」

「うん。お父さんとお母さんにも話さないとね」


 話しながら家に戻る。

 俺たちはエリア学園からの推薦状を貰っていた。

 そこに記載されていた入学の日まで、残り二か月となっている。

 ここは大陸の東の果てにある小さな村だ。

 馬を借りても、一か月半はかかる。

 要するに、この村を旅立つ日が近づいてきたということだ。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「そうか。もうそんな時期か」

「早かったわね」


 近いうちに出発するという話をした。

 二人の反応は、思っていたよりも普通だった。

 以前からわかっていたことだし、今さら驚くようなことでもないか。

 帝国から送られてきた結界のお陰で、村の中に穢れは入り込めない。

 一番の懸念事項も解消している。


「道中何が起こるかわからない。行くと決めたなら早い方が良いだろう」

「馬車の準備は私たちがしておくわ」

「ありがとうございます」

「ありがとう。お父さん、お母さん」

「いいや、これくらいしか出来ないだけだ。よーし! みんなにも伝えて、今夜は宴会にしよう!」

「え?」

「いいわね。ならお料理の準備をするわ」


 ノリノリになるドレガさんとミシェルさん。

 そこまでしなくても……と言える雰囲気ではなくなって、俺とリルは顔を見合わせて笑った。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「かんぱーい!」


 宴会の準備早すぎるだろ……

 と思う勢いで、本当に夜は宴会が開かれた。

 明らかに異常な速度で準備が進んでいたが、前々から計画していたのか?

 

「エルクトとリルカが帝国にか~」

「俺はそうなるってわかってたぞ! お前らが生まれた時からな!」

「それは大げさなんじゃ……」


 お酒も入っている所為で、みんな楽しそうに騒いでいる。

 小さな村だから、人同士の距離も近い。

 自然と顔見知りになって、仲良くなって、家族みたいになっていく。

 とても良い村だ。


「よーし! 二人とも真ん中に立ちなさい!」

「え?」

「何でよ」

「出発する前にあいさつをしておきなさい。この村の代表として行くみたいなものだからね!」


 そう言った村長さんだ。

 普段は寡黙な人だけど、お酒が入ると人格が変わる。

 これはかなり酔っているな。


「ほら行きなさい!」

「あぁ……これは断れねーやつだな。エル坊、お嬢、前出てやれよ」

「そうみたいだね」

「はぁ、仕方ないわね」


 俺とリルは渋々、宴の中心に立つ。

 期待の視線が集まって、緊張でフラフラしそうだ。


「エル、頼むわ」

「え、俺が言うの?」

「そうよ」


 リルは大勢の前で話すのが苦手だ。

 こうして堂々と立っているだけでも、実はかなり恥ずかしいはず。

 ここは彼女の気持ちを察し、俺が頑張るところだな。


「えーっと、今日は俺たちのために宴を開いてくれてありがとうございます。知っての通り、俺とリルは近いうちに帝都へ行きます。エリア学園っていう学び舎で、精霊について学ぶために。正直、こんな日が来るなんて思っていませんでした。すごく嬉しいです。でも……やっぱり寂しいです」


 話しながら、俺はリルに視線を向ける。

 きっと彼女も、今の俺と同じ気持ちだと思う。


「この村で生まれて、十五年過ごして……色々なことがありました。全部が全部楽しかったとは言えないけど、この村で生まれて良かったと心から思います。温かくて、優しくて……感謝しかありません」


 特に感謝したいのは――


「ドレガさん、ミシェルさん」


 二人が反応する。


「両親を亡くした俺を、引き取ってくれて、ここまで育ててくれて……ありがとうございます」

「エルクト……」

「こっちこそよ」


 二人がいなかったら、俺はきっと今まで生きてこれなかった。

 本当の家族みたいに接してくれたことを、俺は生涯忘れないだろう。

 そして――


「リル。今までずっと、俺の傍にいてくれてありがとう」

「エル……」

「君がいてくれてたから俺は幸せだった。これからも一緒いてくれるなら、俺は幸せだ」

「馬鹿ね。一緒にいるわ……私も幸せだから」


 今ここにある全てに感謝を。

 そして、これから訪れる未来に祝福を。

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