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真っ白な世界。
言葉で表すなら、その一言に尽きる。
右を見ても白、左を見ても白。
上下はもちろん、自分の目が見えているのか疑問になる。
いや、そもそも自分の身体も見えないな。
感覚はあるけど、視線を下げた所で真っ白で何も見えない。
そこに一人、女の子が座っていた。
「こんにちは」
彼女はニコリと微笑みながら挨拶を口にした。
すると途端に、真っ白だった世界に風景が広がった。
草原に一本の木が立っている。
青い空は明るいのに、太陽の姿は見当たらない。
風が吹いている感覚はあるのに、木の葉っぱは揺れていない。
不思議がいっぱいだったけど、そんなことはどうでも良くて、俺は彼女に問いかける。
「君は……ひょっとして神様?」
彼女の髪はオーロラみたいに色が変わっていた。
瞳の色もそうだ。
とても綺麗で、可愛い女の子に見えるけど、不思議な気配を醸し出している。
まるで、人間じゃないみたいだ。
だから俺は、神様じゃなないかと思ったんだ。
こんな場所に一人でいることも、神様だからなのかと。
しかし彼女は首を振る。
「だったら誰なの?」
「ごめんなさい。まだ……教えられないの」
彼女は申し訳なさそうにそう言った。
名前を尋ねてみたけど、教えられないと断られてしまう。
「ごめんなさい。でも、いつか教える日が来ると思うから」
「本当に?」
「うん。その時が来るまで、待っていてくれる?」
「わかった」
俺がそう答えると、彼女は嬉しそうにほほ笑んだ。
すると、世界が泡のように消えていく。
草原が崩れ去り、一本の木は光の粒子となって消滅してしまう。
「え、な、何!?」
理解できないことが起こって慌てる俺に、彼女は落ち着いた様子のまま告げる。
「また会いましょう」
その言葉を最後に、世界は再び真っ白になった。
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これはあくまで持論だけど、自分が死んだ理由なんてあまり重要じゃないと思う。
大切なのはその後、自分ってやつがどうなったのかだ。
俺の場合は幸運だったのか、死んだ後が用意されていた。
目覚めた俺は、見知らぬ誰かの声を聞く。
「……――エルクトだ!」
「えぇ、そ――と、もうわ」
男と女の声が一つずつ。
意識はハッキリしているけど、視界はぼやけて良く見えない。
俺を見下ろす様にして、二人が何かを話している。
どうやら日本語ではないようだ。
言葉の意味は理解できなかった。
だけど一つだけ、ハッキリと聞こえたことがある。
エルクト――
それが俺の名前らしい。
ここが異世界だと気づくのに、そう時間はかからなかった。
三歳になる頃には言語の違いにも慣れ、この世界での一通りの常識は覚えた。
前世の記憶が残っていたことが上手く作用してくれたらしい。
ただ、前世の自分がそのまま転生した、というわけでもないみたいだ。
三歳の俺は、三歳らしい感性を持っている。
一度は成人して、大人として生きた記憶もあるのに、何だか不思議な感覚だ。
これも俺が大人になれば、自然と馴染んでくることなのだろうか。
「エルは凄いな! 三歳でもう文字が書けるようになったのか」
「えっへへ~」
僕の頭をニコニコしながら撫でてくれるこの人は、僕の父親……ではない。
この男の人はドレガさんだ。
「あなたー、エル君! お昼ご飯が出来たわよ」
「わかった! 今行く」
一階から女性の声が聞こえた。
僕たちを呼ぶ声の主は、ドレガさんの妻ミシェルさん。
ここは二人の家だ。
そしてもう一人――
「あっ! エルー!」
「リルカちゃん!」
鮮やかな黄色い髪と黄緑色のリボンで一つ結びにしたサイドテール。
純白という言葉がぴったりな白い肌。
透き通るような青い瞳が僕を見つめている。
彼女の名前はリルカ。
ドレガさんとミシェルさんの娘で、僕と同じ三歳の女の子だ。
「はやくー! 冷めちゃうよ!」
「わかってるって。じゃあいただきます!」
「「いただきます」」
四人で食卓を囲む。
この家で暮らしているのは、今いる四人だ。
三人家族と、他一名。
僕の両親は……もういない。
二人は僕が物心つく前に病気でなくなったそうだ。
ドレガさん夫婦は、僕の両親とは古い付き合いだったらしく、二人が亡くなった後、僕を引き取ってくれた。
以来、僕はこの家で一緒に暮らしている。
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五歳になった僕は、難しい言葉も読めるようになっていた。
少しずつだけど、前世の自分に近づうているような気がする。
色々と深く考えられるようになった僕は、この世界について調べ始めていた。
エレメタリア。
それがこの世界の名前らしい。
地球みたいに海があって、大きく広い大陸が一つと、その上下に二回りほど小さな大陸が一つずつ存在している。
僕が生まれたルート村は、中央大陸の東の果てにあるとても小さな村だ。
人口は約三百人で、大きな街からも離れている。
「エルー! 一緒に遊ぼー」
部屋で本を読んでいる僕に、リルカちゃんが遊びの誘いをしに来てくれた。
嬉しいけど、今は本を読んでいたい気分だ。
「ごめんリルカちゃん、僕はまだ本を読んでるよ」
「えーまたー? エルいっつも本ばっかり読んでるね」
「うん」
「そんなに面白いの?」
「面白いよ。リルカちゃんも一緒に読んでみる?」
「うぅ~ わたしまだ文字苦手だもん」
リルカちゃんは嫌そうな顔をした。
彼女は勉強とかが嫌いで、外で遊ぶ方が好きなんだ。
「じゃあ僕が読んであげるよ!」
「本当? じゃあ一緒に読む!」
「うん! 何から読もうかな~」
どれにしようか悩む僕。
リルカちゃんが一冊の本を見つける。
「これが良い! 精霊さんのことが書いてある本!」
「うん、いいよ」
僕は本を開く。
何度も読み返した本を。
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