ワールドコントラクター

~辺境育ちの転生者、精霊使いの王となる~
日之影ソラ@二作書籍化予定
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18.積極的な彼女

公開日時: 2020年11月26日(木) 07:01
文字数:2,071

 夕食を食べ終わり、俺たちは宿屋に戻る。

 すっかり夕日も沈んでしまって、街中は人工的な明かりに照らされていた。

 ルート村は火の明かりしかなかったから、この時間になると怖いくらい真っ暗だったけど、さすが夜でも明るいな。

 改めて電気の便利さに気付かされる。


「おかえりなさいませ。夕食はお済ですか?」

「はい。外で食べてきました」

「かしこまりました。明日の朝食はどうされますか? こちらで準備することも出来ますよ」

「そうなんですね。じゃあお願いします」

「かしこまりました。では準備させていただきます」


 何だかホテルみたいで、前の世界を思い出す。

 思い出すと言っても、記憶はおぼろげだし、あまりハッキリとは覚えていないけど。

 受付で預けていた鍵を受け取り、俺たちは階段を上がって部屋に入る。

 

「色々見られて楽しかったね」

「ええ。賑やかな街だったわ」

「本当に。ルート村とは全然違って驚いたよ。さすがに歩き疲れたし、今日も休も――」


 と、一つのベッドを見て思い出してしまった。

 そうだった。

 今夜は一つのベッドで、リルと一緒に寝る。

 思い出した途端急に意識してしまって、体温が上がっていくのを感じる。


「どうしたの? エル」

「何でもないよ」

「そう。私は先にシャワー浴びてくるわ」

「りょ、了解」


 リルはいつも通りみたいだ。

 ドキドキして慌てているのが自分だけだと思うと、さすがに恥ずかしいな。

 彼女がシャワーを浴びている間、俺は特にやることもなく待つ。

 せめて何かすることがあればよかったのに、ただ待っているだけだから、色々と考えてしまう。

 シャワーの音が聞こえてくるのも良くない。

 俺の脳内では、浮かんでくる某脳と激しい戦いを繰り広げていた。


 いやいや、何を緊張しているんだ。

 今までだって一つ屋根の下で暮らしてきたじゃないか。

 小さい頃はよく一緒に寝たり、水浴びだってしたこともあるぞ。

 それをただ一緒に寝るくらいなら……寝るだけで済むのかな?


「エル坊、今エロいこと考え――ぶっ!」

「うるさいドカドカ!」


 余計なことを言おうとしたドカドカを殴り飛ばした。

 駄目だ。

 これ以上は、考える程にそっち方面の妄想ばかりが頭に浮かぶ。

 だって仕方がないじゃないか。

 好きな女の子がすぐ横でシャワーを浴びている状況なんだぞ。

 男なら誰だって同じような妄想を――


「エル」

「はいっ!」


 声をかけてきたのはリルだった。

 俺の声にビックリして、彼女はびくっと身体を震わせる。


「り、リル」

「何よもう。ビックリさせないでよ」

「ご、ごめんなさい」


 謝ってから顔をあげる。

 そこには、シャワーから出てしっとりと髪が濡れている彼女が……


「次、エルも使う?」

「はい。使わせていただきます」

「なんで敬語なのよ」


 俺はシャワー前の脱衣室に入り、無言のまま服を脱いでシャワーを浴びた。

 丸い形をした蛇口がある。

 右回りが温水で、左回りは冷水のようだ。

 

 左へ回す。


 消え去れ煩悩おおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!


 冷たい水は全身に染み渡った。

 思った以上にスッキリして、理性が高ぶった感覚がある。

 これからきっと一夜だって耐えられるはず。

 と、鼻息荒くシャワー室を出た。


「暗っ、え?」


 なぜか部屋の電気が消されていた。

 シャワー室から漏れる明かりで、ベッド手前までは見えるけど、リルの姿がない。

 音もしないし、もう寝てしまったのだろうか。

 街巡りはそれだけ疲れていたのだろう。


「~ぅ……ぉ――」


 暗闇からなぜかうめき声が聞こえる。

 この声はドカドカだ。

 苦しそうにもがいているような……

 俺は暗闇に目を凝らす。

 すると――


 布と紐でグルグル巻きにされたドカドカがテーブルの上にいた。


「なっ、ドカドカ? 何でこんなっ!」


 テーブルに近づこうとした俺は、何かに首根っこを掴まれる。

 そのままベッドに倒れ込んだ俺に、彼女が圧し掛かる。


「リル!?」

「遅いわよ、エル」

「何で明かりを消してるの? というかドカドカは何であの状態?」

「明かりもドカドカも邪魔だったから消しただけよ」


 消したって物騒だな。


「じゃ、邪魔って何に?」

「わかるでしょ? お互いシャワーも浴びたし、ベッドは一つよ。村と違って誰の目も気にしなくて良い」


 丸められたドカドカの唸り声が聞こえる。

 さすがの俺も、この状況が理解できないほど鈍感ではない。

 つまり、リルもさっきまでの俺と同じ気持ちだったということだ。


「ほ、本気なの?」

「当たり前よ。じゃなかったらこんなことしないわ。エルは……嫌?」

「嫌じゃない。嫌じゃないけど……驚いてさ。まさかその、リルからなんて思わなくて」

「ぅ、そう」


 暗闇でも、リルが照れたのかわかる。

 自分から仕掛けてるくせに、彼女も恥ずかしいみたいだ。


「元はと言えばエルが意気地なしなのが悪いのよ」

「え、俺?」

「そうよ。私のこと好きって言った癖に、今までと何も変わらないし……」


 ああ、そうか。

 ようやくわかった。

 彼女も俺と同じように、どうすればいいのかわからなかったんだろう。

 悩んで、悩んで、こうして勇気を出したんだ。


 そう思うと愛おしくて、俺は彼女の唇を奪う。


「ごめん」

「足りないわよ」

「うん」


 積極的な彼女に、俺も精一杯応えることにした。


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