ワールドコントラクター

~辺境育ちの転生者、精霊使いの王となる~
日之影ソラ@二作書籍化予定
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4.精霊使いの素質

公開日時: 2020年11月20日(金) 19:53
文字数:2,006

「はぁ……はぁ……もう無理」

「だらしないわね」


 素振り一万回に湖の周り十周。

 さらに筋トレメニューを休憩もなしでやられたら、誰でもこうなるでしょ。

 むしろ最後まで倒れなかったことを褒めてほしい。


「ふぅ、休憩」

「仕方ないわね」


 俺が湖の辺で座り込むと、その隣にリルが座った。

 吹き抜ける風が心地いい。

 汗もたくさんかいたし、風がより冷たく感じられる。


「これで少しは強くなれたかな?」

「どうかしら? まだまだじゃないの?」

「うっ、手厳しいなリルは」


 俺は大きくため息をこぼす。


「はぁ……俺にもリルみたいな精霊使いの素質があれば……」


 こんな方法じゃなくて、堂々とリルと一緒に戦えるのに。

 精霊使いは誰にでもなれるほどお手軽じゃない。

 素質があってスタートライン。

 そこから相性の良い精霊と出会えるかは運だ。

 帝国に精霊を呼び出す装置があるって聞いたけど、こんな田舎にそんな便利なものがあるはずもない。

 考えるだけ無駄だとわかっているから、余計に虚しい。


 すると、ドカドカが口を開く。


「う~ん、エル坊に素質はあると思うんだけどな~」

「本当?」

「おう。だってエル坊、お嬢との契約前から俺のこと見えてただろ? ってことはよぉ~ 精霊と契約できるだけの霊力は持ってるってことじゃねーか」


 普通の人間に精霊を見ることはできない。

 人間の内にある霊力。

 それの力が一定以上ないと、精霊を知覚することは出来ない。

 ドカドカのように契約した精霊は周囲にも見えるようになるが、それ以外の自然にいる精霊は見えない。

 本来精霊はどこにでもいるけど、見えないからいないように感じる。

 精霊を知覚するだけ霊力を保持していることこそ、精霊使いになる最低条件だ。

 ドカドカの言う通り、俺にはそれがあるらしい。


「でもな~ 前々から思ってたんだが、エル坊って変なんだよ」

「え、変?」

「変態ってことかしら」

「違うと思うよ! リル」

 

 違うよね?

 変態的なことなんてした記憶ないんだけど……


「エル坊さ~ 何かもう他の精霊と契約してたりしないか?」

「え?」

「どういうことよ」

「いやな? エル坊って俺が見た時点で、相当な霊力は持ってるはずなんだよ。それなのに~」


 ドカドカはリルの方から浮かび上がり、俺の周りをぐるっと飛び回る。

 

「こんなに近くで見てるのに、ほとんど感じねーんだよな」

「そ、そうなの?」

「おう。何なら精霊が見えない奴のほうがまだ感じ取れるってレベルだぜ」


 そ、それは……話だけ聞くとショックだな。


「でもそれがどうして、さっきの質問につながるんだ?」

「そいつはな~ 精霊使いの霊力は、契約した精霊の属性に寄るからだよ」

「属性に寄る? どういう意味?」

「う~ん、簡単に言うとな? 例えば炎の精霊と契約したとする。すると契約した奴の霊力は、炎みたいに熱く感じるんだよ」

「そうなの?」


 精霊と精霊使いについては本で調べたけど、そんなことは書かれていなかった。

 村にあった古い本だし、その辺りの情報がなかったかもしれない。

 真実を知って少しワクワクしている。


「ん? ってことはリルの霊力もドカドカに似てるってこと?」

「おう! そうなるな」

「ドカドカって大地の精霊だよね? じゃあリルの霊力は今、土とか石に近いってこと?」

「そういうこったな」


 隣から怒りを感じてビクッと身震いする俺とドカドカ。

 恐る恐る視線を向けると、リルはとても怒っている様子だった。


「ちょっと、誰が土と一緒ですって?」

「な、何でもないです」

「お嬢大丈夫だ! 土にまみれてんのは俺だけだからな」


 目が怖いです、目が。


「で、結局何で俺が他の精霊とって話になったの?」

「だからな。お前の霊力が感知できないのも、俺が知らねー精霊と契約済みなのかなって思ったんだよ」

「ああ、なるほど。でも生憎、そんな相手の心当たりは――」


 ふと、一人の少女を思い出す。

 この世界に生まれる直前に会話した彼女を。


「もしかしてあの子が?」

「んお? 何だよ心当たりあんのか?」

「いや心当たりって言うか……夢でさ、よく不思議な女の子と会うんだ」


 実はあれ以来、何度か彼女と夢の中で会っている。

 場所は同じ一本木の下。

 色々と話しているはずなのに、目が覚めると話の内容は大抵忘れてしまう。

 楽しい時間だったという感覚だけは覚えているけどね。


「へぇ~ 不思議な女の子ね~ どんな奴なんだ?」

「どんなって言われてもなぁ。歳はたぶん十二、三くらいで、髪はリルと同じくらいかな。あとは普通の人と雰囲気が違って……あっ! それにすごくかわいいんだよ」

「うっ」


 ドカドカが慌てた様子を見せる。


「おい馬鹿! 下手なこと言うんじゃねえよ!」

「まだ名前も知らないんだけど」

「くっそ、小声すぎて聞こえてねえ!」


 ドカドカの焦りの方向は、リルに向いていた。

 俺はそれに気づかないまま、彼女について話し続ける。

 

「そういえばあの子、雰囲気は違うけど、リルに似てたな」

「……え?」

「お? そいつはつまり、お嬢が可愛――ぐっ!」

「潰すわよ」

「だからもう潰れてるってお嬢!」


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