ワールドコントラクター

~辺境育ちの転生者、精霊使いの王となる~
日之影ソラ@二作書籍化予定
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21.推薦組

公開日時: 2020年11月30日(月) 12:05
文字数:1,987

 洞窟道の奥から淀んだ空気が漂っている。

 俺の眼は霊力の流れだけでなく、穢れの流れもハッキリと見えるようになっていた。

 ただでさえ暗い道に、黒く淀んだ霧がかかっているみたいだ。

 しかし幸いなのか不自然なのか、穢れに襲われることもなかった。

 俺たちは順調に馬車を進ませ、道中に会話を弾ませる。


「へぇ、じゃあ二人とも推薦を貰っているんだね」

「おう。そっちと同じでな」

「そうなんだ。ん、あれ? 俺たちも推薦状をもってる話ってしたっけ?」

「いやいや、そんなもん聞かなくてもわかるだろ? 精霊と契約してて、この時期に帝都へ向かってるんだから、推薦組以外ありえないって」

「え、どういうこと?」

「どういうって……」


 アルマとロエナが互いの顔を見合う。

 

「まさか何も知らずに帝都へ向かってるのか?」

「あ、えっと……たぶんそうなのかな」


 アルマが言っている意味がわからなくて、俺はきょとんと首を傾げる。

 チラッとリルのほうを見たけど、彼女も話についていけなない様子だった。

 すると、アルマが言う。


「推薦状が送られてくるのは、入学前から精霊と契約している奴だけなんだよ」

「そうだったの?」

「ああ。普通、学園の設備なしに相性の良い精霊と出会える機会なんてないからな。俺とロエナは貴族の家系で、代々受け継がれている精霊がいたからよかったけど。貴族でもないのに精霊と契約できてるなんてめちゃくちゃレアだぞ」

「そ、そうだったんだ」


 どっちも初耳だった。

 俺たちってかなりレアケースだったのか。


「じゃ、じゃあ普通はどうするの? 精霊と契約してない人たちは」

「推薦組以外か?」

「うん」

「入学式の半年前に適性試験があるんだよ。それに合格すると、学園の設備を使って精霊を呼び出す機会がもらえる。そこで初めて契約ってことだ。そんで合格者は入学の三か月前から学園で過ごすんだぜ」

「どうして?」

「精霊と契約した直後は、霊力が不安定になるからな。身体に異常がないか確かめたり、精霊の力を身体になじませる時間が必要なんだよ。俺も最初はきつかったな~ 三日ぐらい熱が出っぱなしだった」


 契約後は霊力が不安定になるのか。

 そういう経験はない……いや、もしかして五日間寝込んでいた原因ってそれなのか?

 急に力を行使した所為だと思っていたけど、違うのかもしれないな。


「リルはそういうのなかったよね」

「そうね」

「へぇ~ んじゃ相当相性が良かったってことだな」

「あったり前だぞ! 俺とお嬢は心も身体も相性バッチリだ」

「その言い方やめて。潰すわよ」

「ひぃ! 何でだよ!」


 たぶん照れ隠しだと思うよ。

 それを言うと俺まで怒られそうだから、後でこっそりドカドカに教えよう。


「ホントに何も知らず推薦状を受け取ったんだな。精霊契約してるってだけでも珍しいのに」

「ルート村は帝都から離れているし、村から出たのも初めてだから」

「それだけ期待をされている、ということだと思いますよ? エルクトさんも、リルカさんも」


 ロエナはニコッと微笑みながらそう言った。

 彼女が笑顔を見せた後は、リルが決まって不機嫌な表情を見せる。

 さすがの俺もリルの表情の意味を理解した。

 

「大丈夫だよ、リル」

「何のことかしら?」


 俺が他の女の子になびかないか心配なのだろう。

 俗にいう嫉妬だな。

 そうだとわかった途端に、俺は何だか嬉しくなって、自然と表情が崩れる。


「何笑ってるのよ」

「ううん、何でもない」


 嫉妬しているリルが可愛くて、思わず口角が緩んだ。

 なんて正直に言ったら、きっと怒られる。

 ドカドカみたいに馬鹿なこと言って、彼の二の舞にはなりたくないよ。


「おいエル坊、今ぜったい失礼なこと考えたろ」


 こういうときの彼は鋭かった。

 するとここで、俺は穢れの流れが濃く、方向が変化したことに気付く。

 馬車を停めた俺に、ドカドカが尋ねる。


「どうしたんだよ」

「穢れが濃くなったんだ。それに流れも……」

「は? 穢れの流れなんてわかるのかよ」

「うん」


 実体化する前の穢れは、精霊使いにも視認できない。

 それが出来るのは、世界の精霊と契約している俺だけらしい。

 地面を這う黒く淀んだ穢れ。

 川の水のように流れているそれは、洞窟道の左壁がより濃く見える。


「あそこだ」

 

 指をさし伝える。

 俺が示した先の壁には、大きな穴が開いていた。


「側道? んなわけないよな」

「ええ。洞窟道は一本道のはずよ」


 アルマとロエナの言う通りだ。

 近くまで馬車を走らせ確認すると、大きな穴の先に道が続いている。

 地面は整備されておらず、馬車がギリギリ通れる程度の大きさだ。

 中を覗き込み、リルが言う。


「自然の洞窟みたいね」

「まだ新しいぜこれ。たぶん塞がってたんじゃねーかな。崩れた跡があるぜ」

「本当だ」


 穴の下が石や土で盛り上がっている。

 ドカドカの言うように、元は塞がっていた穴のようだ。


「ここから穢れが出てきているだと思う」

「なるほどな。じゃあこの先に進めば……穢れを一掃できる」

「うん」


 俺たちは馬車を降りる。

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