ワールドコントラクター

~辺境育ちの転生者、精霊使いの王となる~
日之影ソラ@二作書籍化予定
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22.炎の精霊と水の精霊

公開日時: 2020年12月1日(火) 17:20
文字数:2,040

「馬車はどうするの?」

「幅的には通れそうだけど危険だし、ここへ停めておこう」

「そうね」


 こんな状況だし、他に通行人はいないだろう。

 馬が逃げないようにだけ注意しないと。


「おい大丈夫かよ。ここから穢れが出てくるっていうのは予想だろ? 他から出てきて、馬車が襲われるかもしれないぜ?」

「一人は最低でもここに残ったほうがよくありませんか?」

 

 ロエナの質問に俺は首を振る。


「それこそ危険だよ」

「心配いらないわ。エル、お願い」

「うん」


 俺は馬車に手を触れる。

 そのまま集中するため瞑想し、自身に流れる霊力をコントロールする。

 手のひらに集まった霊力が馬車の表面を覆っていく。


「何だよこれ!」

「綺麗……」


 霊力が馬車を完全に覆いつくしたことを確認して、俺は手を離す。


「これで穢れに襲われる心配はないよ」

「何したんだ?」

「結界を張っただけだよ」

「結界?」

「うん。まぁ結界といっても、ただ霊力を纏わせただけなんだけどね」

 

 ミラと契約した俺には、世界から霊力が流れ込んでくる。

 この霊力は人間が内に秘めている霊力とは違うものだ。

 具体的に何が違うか聞かれると、上手く説明できないのだが……ミラ曰く、穢れを祓うことに特化した霊力らしい。

 俺は彼女と契約することで、特殊な霊力を自在に操れるようになった。


「霊力を直接放出できるのかよ。そんなの聞いたことないな」

「ええ。もし差支えなければ、エルクトさんの契約している精霊を教えてもらえませんか?」

 

 ロエナが丁寧な言い回しで尋ねてきた。

 別に隠しているわけじゃないし、俺は快く返答する。


「俺の契約精霊は世界の精霊、名前はミラだよ」

「世界の精霊?」

「ミラ?」


 二人ともキョトンとした顔になる。

 予想はしていたけど、こういう反応になるよね。


「まっ、わかんねーだろな~ エル坊の話じゃ、可愛い女の子らしいぜ」

「お、女の子!?」

「ドカドカ、うるさいわよ」

「うっ、まだ何もしてねぇって」

「はははは、そろそろ先へ進もうか」

「おう!」

「ええ」


 俺とリルが壁の穴に先行する。

 後ろから続く二人から、小さな声で聞こえてくる。


「女の子ってそれ、人型ってことか」

「それが本当なら……彼の契約している精霊は上級精霊?」


 ものすごく注目されているな。

 無容易にミラのことは話すべきじゃなかったか。


「気にしすぎじゃねーか」

「そうよ。どうせ学園で生活していればバレることだわ」

「まぁうん、そうだね」


 そう言う意味では、先に二人へ教えたのは正解だったかもしれない。

 ちゃんと理解してもらえているかは別として。


 しばらく進み、洞窟の穴が広くなった。

 さっきまで足元にはゴロゴロと石が転がっていたが、それもなくなっている。

 俺たちは立ち止まり振り返る。

 穴の大きさが変わっている区切りを見て、アルマが言う。


「なぁこれ、穢れが掘り進めた穴だったんじゃないのか?」

「そうみたいだね」

「ここから先が天然の洞窟というところかしら」


 穴の幅ささっきまでの倍くらいか。

 これならクマを超えるサイズの穢れだって行動できる。

 

「注意して進もう」


 三人が頷き、先へ進む。

 奥へ進むにつれて、穢れがさらに濃くなっていった。

 そして――


「何か来るわ」


 いち早く気付いたリル。

 俺も同じタイミングで気付き、警戒を強める。

 立ち止まり、身構えた俺たちにパタパタと羽を羽ばたく音が聞こえてきた。


「この音……コウモリ?」

「見えてきたぜ!」


 予想通り、現れたのはコウモリの姿をした穢れだ。

 それも大量に群れをつくって、俺たちの頭上を通り、あっという間に囲まれてしまう。


「かなりの数だな。それにマトが小さい」


 俺とリルには戦いにくい相手だ。


「オレに任せな!」


 そう言ってアルマが手を叩く。

 すると、彼を中心に炎が猛々しく燃え上がる。

 彼の右肩には、長い尻尾の先が燃えている赤いサルが乗っていた。


「オレは炎の精霊の契約者だ! まとめて焼き払ってやるよ」

「皆さんは私のところへ!」


 俺とリルはロエナの近くへ移動する。

 彼女の契約精霊は水の精霊だ。

 鮮やかな水色の毛並みをした動物で、見た目はフェネックに近い。

 水を生成して自在に操れる彼女は、俺たちの周囲に水の膜を展開した。


「準備できましたよ」

「おう! そんじゃいくぜ!」 


 アルマの炎がさらに燃え上がり、天井に届くほど巨大になる。

 そのまま渦を巻くように広がり、飛び交うコウモリの穢れを燃やしていく。

 全ての穢れを祓うのに、十秒もかからなかった。


「よーし! 終わったぜ」

「凄い威力だったね」

「ええ。それに熱いわ」

「もう、やりすぎだっていつも言ってるでしょ?」

「いいじゃねーか! 倒せたんだからな」


 とか言った矢先に、一匹のコウモリがアルマの背後へ。


「後ろ!」


 まだ一匹残っていたのか。

 距離的に間に合わない。

 焦る俺に対して、アルマは落ち着いている。


「心配ない」

「それは私のセリフでしょ」


 アルマの背中から水の刃が伸びる。

 刃に突き刺さったコウモリの穢れは、今度こそ消滅した。


「アルマは詰めが甘いから、いつも保険をかけているんですよ」

「な、なるほど?」


 アルマとロエナ。

 この二人、中々の名コンビだな。

 

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