ワールドコントラクター

~辺境育ちの転生者、精霊使いの王となる~
日之影ソラ@二作書籍化予定
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5.帝都からの招待状

公開日時: 2020年11月20日(金) 20:08
文字数:2,002

 真っ白な世界。

 ここまでくると懐かしさすら感じられる。

 何も場所に、彼女の存在がぽつりと現れて、辺り一面に緑が広がる。


「こんにちは、エルクト」

「ああ」


 相変わらず、彼女名前を俺は知らない。

 ここで聞いたことも、たぶん目を覚ませば忘れてしまうのだろう。

 そうだとわかっていても、知りたいことを隠すことはできない。


「ねぇ、もしかして君は精霊なのかい?」

「……はい」


 俺は素直に驚いた。

 まさか答えてくれると思わなかったから。


「じゃ、じゃあ何の精霊なの? ドカドカみたいに土の精霊には見えないし、他の三元素とも違う気がするんだけど」

「……ごめんなさい」


 彼女は首を横に振り、謝罪を口にした。

 名前を聞いたときと同じだ。

 何か話せない理由があるのだろうと、俺もここから聞かない。

 いつか話せる日が来た時に、ちゃんと聞かせてもらおうと思っている。


「わかった。ありがとう」


 彼女が精霊だとわかっただけでも良しとしよう。

 まぁ起きたらどうせ忘れているんだけど。


「こんな所に一人でいて寂しくないの?」

「寂しくはありません。あなたも一緒にいます」

「それは今だけじゃないの?」

「いいえ。あなたはいつでも、わたしと一緒にいてくれる。だから寂しくはないの」


 そう言って彼女は微笑む。

 彼女の笑顔からは、寂しさなんて感じない。

 ただ少しだけ、辛そうな気もする。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 う、うん?

 何だ?

 身体が自由に動かない。

 というか……


「ぅ……重い」

「は? 誰が重いって?」

「へ?」


 リルの声を聞いて、パチッと目が開く。

 自室のベッドで眠る俺の上に、なぜかリルが乗っていた。


「な、何でリルが俺の部屋に?」

「起こしに来たのよ。エルがいつまでたっても起きないから」

「え、もうそんな時間?」


 リルがクイっと首を時計のほうへ向ける。

 八時五分前。

 いつもより一時間くらい遅い。


「エル坊が寝坊なんてめずらしいな~」

「ホントにね」

「あーたぶん、久しぶりに彼女と会ったらかも」


 相変わらず何を話したのかは覚えていないけどね。

 何か大事なことを聞いた気がするのに、どう頑張っても思い出せない。


「それっていつもの?」

「ああ」

「私に似てるっていう子?」

「え? まぁそうだね」

「そう」


 リルは俺の上から降りて、部屋を出て行こうとする。

 何だか一瞬、彼女が笑ったように見えたけど、気のせいだろうか。

 首を傾げている俺に、ドカドカが小さな声で言う。


「おいエル坊、あんま野暮なこと聞くんじゃねーぞ?」

「何が?」

「聞こえてるわよ。ドカドカ」

「ひぃっ、何でもねーっす!」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 朝食の後。

 俺はいつものように湖の辺で訓練をしていた。

 それをリルが座って眺めている。

 するとそこへ、ドレガさんが一人でやってくる。


「ここにいたか、リルカ」

「お父さん? どうしたの?」


 二人の声が聞こえて、俺も訓練の手を止めた。

 チラッと見えたドレガさんの右手には、白い封筒が握られている。


「それは?」

「帝国からリルカ宛の手紙だよ」

「帝国から?」


 リルは俺のほうを一回見て、ドレガさんの手紙を受け取る。

 封筒を閉じているシーリングは、確かに帝国の紋章が刻まれていた。

 彼女はゆっくり封筒を開ける。

 そして、書かれてたい大きな一文を読み上げる。


「エリア学園……入学推薦状?」


 その言葉に、俺もドレガさんも目を丸くして驚いた。

 エリア学園は、帝都にある大きな学校で、世界で唯一……精霊使いを育てるための機関だ。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 俺たちは湖から場所を移し、自分たちの家に来ていた。

 ミシェルさんも交えて手紙に目を通し、間違いがないかと確かめる。


「凄いじゃないかリルカ! あのエリア学園から推薦状が届くなんて!」

「ええ。この村でが初めてのことよ」


 エリア学園は優れた精霊使いの素質を持つ者を求めている。

 おそらく彼女の噂が、遠い帝都まで届いたのだろう。

 二人の言う通り凄いことだと俺も思う。

 ただ、当の本人はあまり浮かない表情だった。


「……私はいかないから」

「「えっ?」」


 彼女の返答に、二人とも一瞬固まっていた。


「い、いかないって本気か? せっかく帝国公認の精霊使いになれるチャンスだぞ?」

「そんなの興味ない」

「帝都はみんなが憧れるくらい大きな街よ」

「帝都もどうだっていい。知らない街に私一人で行くなんて嫌だから」


 そう言って彼女は俺のほうへ目を向けた。

 俺も何か言って、自分に助太刀してほしいという表情だ。

 どうやら本気で、彼女は受けるつもりもないらしい。

 でも俺は……


「俺も、せっかくのチャンスなら受けたほうが良いんじゃないかって思う」

「エル?」

「こんな遠い村まで推薦状を送ってくるんだよ? きっと期待されてるんだ」

「……だから、私一人で行けっていうの?」

「……」

「もう良い」


 リルは席を立ち、部屋を出て行く。


「エルの馬鹿」


 去り際、小さな声でそう聞こえた。

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