ルート村を出発して二十日間が経過した。
帝都までの旅路も、いよいと半分が過ぎようとしている。
俺たちはブタベスという街にたどり着いていた。
「先に宿探しだな」
「そうね」
「なぁお二人さん、今夜はお楽し――ぶっ!」
「もう簀巻きにされたいの? 殊勝な心掛けね」
「やめろお嬢! というかいい加減俺に見られるくらい慣れ――っ」
ぶちっという音がして、ドカドカは静かになった。
「これで安心ね」
断っておくが別に死んではいない。
そう言う意味では安心だが、さすがに不憫だな。
ドカドカの言い分も尤もなんだけど……
「見られるのは恥ずかしいよね」
「……そうね」
なんて会話が出来るくらいには、少し慣れてきているのだろう。
幼馴染とはなく、恋人同士という関係に。
そんなこんなで宿屋を見つけ、馬車を預けて街を巡る。
大きな街に立ち寄るのは四回目だが、人混みや賑やかな街の雰囲気にはまだ慣れない。
「またぐるっと回る?」
「その前に明日の確認を済ませておこう」
「それもそうね」
この街へ立ち寄ったのは休息のためだけど、他にも理由がある。
俺たちが今進んでいる街道は、直接帝国まで続いている。
分かれ道なく、道なりに進めば良いだけ。
ただ道中に、いくつか超えなければ難所がある。
そのうちの一つが、ここブタベスを超えた先にある洞窟道だ。
「昔の人はすごいよね。洞窟をそのまま道にしちゃうなんてさ。お陰で険しい山を簡単に超えられるよ」
「でもよ~ なんかトラブって通れないって噂じゃなかったか?」
「それを確かめに行くのよ。ちゃんと話聞いてた?」
「お嬢が何回も潰すから記憶をとんじまうんだよ」
「は? 私のせいにする気?」
リルがギロっとドカドカを睨む。
「い、いや何でもないぜ。おっ、何か人だかりが出来てるな!」
露骨に話題を逸らされたな。
ドカドカも逃げるのが上手くなっているみたいだ。
「本当だ。たくさん人がいるね」
「見た感じ商人が多いな。積み荷も一緒だし」
「あの噂は本当だったのかもしれないわね」
ブダベスの洞窟道。
その昔、ただの洞窟だったところを整備して、山脈を通り抜けられる道に変えた。
地面は整備されているけど、壁や天井は洞窟だった頃のまま。
電気も通っていないから、通るときは明かり必須だと聞いている。
抜けるのに半日以上かかる長さと、照明のない真っ暗さ、あとは閉鎖感もあり、一部の人たちからは怖がられているそうだ。
気にしなければただの道、だったのだが……
「洞窟道は今、穢れだらけで通れない……か。噂であってほしかったな」
「残念だけど事実みたいね。通り過ぎた人が話してたわ」
「うん」
どうやら数日前から、洞窟道の中に穢れが発生してしまったらしい。
今は帝国に知らせを送って、精霊使いが対処してくれるのを待っているそうだ。
いつになったら解決するか未定で、商人たちは困っている。
「別ルートで行くか?」
「何言ってるんだ。他の道を通ったら二十日も増えるんだぞ?」
「しかしだ。このまま待っていても解決まで時間がかかるだろう? それこそいつになるかわからないじゃないか」
「う~ん……この街にも国の精霊使いがいてくれれば良かったが……」
そんな商人たちの話が聞こえてきた。
「どうする? エル」
「うーん、危険だけど穢れは放っておけないよね」
「そうね。二十日も待っていたら入学に間に合わないわ」
「だね。それじゃ明日の朝に出発しよう」
「ええ」
「今夜もお楽し――ぶへっ!」
ドカドカは懲りないな……
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
翌朝。
宿屋を出た俺たちは馬車に乗り、洞窟道へ続く街の出口へ向かっていた。
「穢れは今も増え続けてるみたいね」
「うん」
出発する前、宿屋の人から聞いた話だ。
このまま増え続けて、洞窟道からあふれ出ないか心配だという。
「そうなる前に何とかしたいね」
「ええ」
道中、リルが何かに気付いた。
「エル、あれ見て」
「ん?」
指をさしたのは、馬車を貸し出す業者の建物だ。
そこで赤髪の男性と水色の髪の女性が、業者の人ともめている。
「何で貸してくれねないんだよ!」
「だから言ってるでしょ? 洞窟道は今、穢ればっかりなんだよ。そこを通るっていう人たちに、うちの大事な馬車は貸せないよ」
「いやオレたち精霊使いなんだって! 穢れとも戦えるから大丈夫だ!」
「精霊使いだとしてもまだ子供だろう? 国から派遣された精霊使いでもない限り認められないよ。わかったらさっさと行きな」
「もう止めましょうアルマ。これ以上は他の人にも迷惑だわ」
「いやでも、ここで立ち往生してたら入学式に間に合わないかもしれないんだぞ?」
精霊使いと聞こえたな。
それに入学ってことは、彼らもエリア学園に向う途中なのか。
でも危険だからと馬車を貸してもらえないでいる……
「ねぇリル」
「エルの好きにしていいわ」
「ありがとう」
聞くまでもなかったな。
「なぁおっちゃん! 何とか貸して」
「あのー、もしよかったら一緒に行きませんか?」
馬車で近づき俺が声をかけると、二人が勢いよく振り返った。
「お二人ともエリア学園を目指してるんですよね? 俺たちもうそうなので」
「マジか! いいのか?」
「はい。穢れがいるなら尚更、精霊使いは多いほうがいいでしょうし」
「とか言って、困ってる人を見捨てられないだけだろ」
「エルらしいわ」
リルとドカドカが小声で呟いた。
「なら頼むよ! オレはアルマ・ボーティス!」
「私はロエナ・フレイマンです」
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