コミカライズだけじゃなくて、ゲーム化してもええんやで?
はあ、もう疲れたよ。
年齢や能力値を決定した次は、スキルの習得らしい。
でも、次の人生が丸ごとかかっているんだ。
バラ色の転生人生を送るために頑張らないと。
文章力の怪しいヘルプを解読してみたが、スキルは、「基本パック」「ランダムパック」「セルフチョイス」の三通りを選択できるらしい。
試しに基本パックを見てみると、「戦士パック」「魔法使いパック」などがある。例えば戦士パックでは、「剣術」「槍術」「防御術」「耐久力強化」「筋力強化」の五つが入っており、このうち一つのスキルを「ランク2」に出来る。そしてその他に、取得できるスキルの内二つを任意に取得できるのだ。つまり、ランク1のスキルを六つ、ランク2のスキルを一つ得られるわけだ。
成程、堅実派向けだな……なお、ランクについての説明は無い。まあ、高い方がいいに決まっているのだろうが。
転生後にチュートリアルでもあるのかな?
……いや、無い方に夕食を賭けてもいい。
多分、当る。
セルフチョイスでは、合計八個のスキルを選べる。対象は約百個のスキルだ。これは、基本パックで選べる二つのスキルについても同じリストから選ぶことになる。選り取り見取りで目移りしてしまうが……。
中には「火魔法」や「時空魔法」といった魔法の類いも有るので、魔法も剣術と同じくスキルの範囲の中に収まるらしい。
選びようによっては魔法万能とか武術万能とかも出来るのであろうが、器用貧乏にもなりかねないと思う。
これはこだわり派向けだな。とは言え、システムや転生先の状況が分からない限りは当たり外れが有りそうだ。
ランダムパックはちょっと違う。さっきのランダムキャラメイクと同じように、十個のスキルが「全て」ランダムで決まる。
ただ、うち一つは武術から、もう一つは魔法の中からそれぞれ一つ、強制的に決定される。そりゃ、ランダムだからと言って全て知識系だったりしたら目も当てられないもんな。歴史学や雑学では狼やゴブリンを倒せない。
気になったのが、対象となるスキルが、セルフチョイスで見たスキルリストと少し違ったからだ。一番下に「ランクアップ」と「レア・ユニークスキル」という表記がある。
例によってそれがどういうモノかは分からない。
しかし……。
レアスキルが欲しければランダムパック一択っていう意味だよな?
ランダムパックの挑戦権は十回。
ここはやってみるべきではないだろうか!?
ランダムパックに挑戦したのを、俺は既に後悔している。
一回試行した所、「戻る」ボタンがなくなったのだ。
どうして!?
もう基本パックなどは選べないのである。
それにリアル運が無いのも忘れていた。
既に六回試行したが、碌な結果が得られていない。
「投擲」「水魔法」「触覚強化」「土耐性」「地理学」「幸運」「闇耐性」「採掘」「狩猟」「農業」
これが一番初めに得られた結果だ。
面白くないよね? 面白くないよね!?
田舎でスローライフしたいならこれでもいいけど!
……。
七回目。
「盾術」「生活魔法」「土耐性」「水耐性」「生物学」「社交術」「蝶回復」「法律学」「チャージ」「天文学」
やっぱり使い物にならない。
ちなみに七個目の「蝶回復」はやっと獲得できたレアスキルの一つナンだけど、「蝶」って何だと思う?
「超回復」じゃないのよ? 「蝶回復」だよ? 誤植?
ちょっと怖い。
本当に「蝶回復」だったらナンだかパピヨりそうでヤバいし、誤植だったらこの世界の適当ぶりを垣間見た気がするし。
八回目。
「盾術」「召喚魔法」「地質学+」「修理」「料理」「鋳造」「釣り」「闇耐性」「嗅覚強化」
地質学が+と言うことは、ランク2になったのだろう。
でも、この盾術の当たりっぷりはなんだ。
もう五回は来てる。盾に愛されているのだろうか?
生前、盾とは何のかかわりも無かったが……。
ああ、盾がどうこうと言うラノベもあったっけ……。
でも俺は剣でも弓でも何でもいいので他のがいい。普通が一番なんだ。
召喚魔法は気になるけど……もう一度。
九回目。
「盾術」「闇魔法」「雑学」「ry
もう盾と学問ヤメレ。
運命の十回目。
幸いと言っては何だが、ここでどんなスキルになったとしても「ああ、何度目の時の方が良かった」となりそうにないのが良かった。酷かったもんな。リアル不運ここにきて威力を発揮。そもそも選択テーブルがロクでもない事実なんて見ない見ない。
しかし、泣いても笑ってもこれで決まってしまう。
頼むぞ~。えいやっ!
バクつく心臓を深呼吸で抑え込み、祈りを込めて全身全霊のタップ。
神様お願い!
獲得できたスキルの名前が一つ一つ表示されて行く。
「銃撃」「風魔法」「記憶術+」「視覚強化」「詠唱短縮」「空気読み」「状態異常攻撃」「薬学」「鑑定魔法」
……えーと。
もしかして、成功!?
「記憶術」がランク2で、「空気読み」はレアスキル。
スキルの内容は詳しく分からないけど……。多分悪い事ではないよな。
「銃撃」ってスキルがあると言う事は、きっとマルアクティには銃が存在するのだろう。
「風魔法」と「詠唱短縮」の相性もよさそうだ。
決定!
凄い!
ここでやっと極彩色バナーも消えた。俺は勝利したのだ。
スキル選択が終わり、画面にはステータスウインドウが表示された。
同時にその説明も表示される。大事なポイントだからか、幾らか詳細な説明となっている。
「マルアクティの任意の場所で『ステータス』と念じると、他者には見る事の出来ないステータス画面が視界内に表示されます。レベルやステータスの確認、スキルの確認、キャラクターポイントの割り振りなどもこの画面にて行います」
なるほど。
本当にゲームの世界だね。
残念ながら、無双できるとかチートスキルを貰えるってのは無かったけどな。
「ん?」
キャラメイクが終わったと思ったが、まだ「進む」の文字があるのでタップした。
次の画面になると「ご希望のメインストーリーラインをお選びください」とある。
おお!
自分でストーリーを決められるっていうのは斬新じゃないか!?
「魔王を倒す勇者のように」
「辺境で過ごすスローライフ」
「転落から始まるざまあ」
「俺は海賊王になる」
等々、色々なテーマが並んでいる。十や二十ではない。中には、十八禁なのや(ちゃんと十八歳未満はお断りと書いてあるが)何だか腐りそうなのまである。女性向けのテーマだってたんとあって、男の俺でも選べるらしい。「公爵閣下に愛されて」「悪役令嬢は死にたくない」とかそんなのだ。俺がそれらを選ぶと一体どうなるのか想像もつかないけどな。
俺?
もちろんこれだ。
「ボーイミーツガール」
鉄板だろ? 美少女と巡り合ってイチャイチャしながら冒険するんだYO!
寂しくお一人様だった青春を取り戻すのさ!
はっはっは……。
「無双でハーレム」も捨てがたいけど、な。
めでたくキャラメイクが終わったと思ったら、またも「進む」となる。
まだあんの??
「アナタの口調を決めましょう」
思わず突っ込む。
「余計なお世話だよね!?」
そして画面に現れたリストを見て一気に血の気が引いた。
「本人のまま」
「語尾が『にゃあ』」
「花魁調」
「ハードボイルド調」
「一人称が『我』語尾が『ンゴ』」
「江戸っ子」
「お嬢様風」
「ぬぬぬぬ」
「怪しい外国人風」
「語尾が『ぴょん』」
「魔王風」
etc.
そして「チャレンジ」の文字。
……ストーリーは選べるのに? 冗談でしょ?
マジで余計なお世話。
数えてみると、全部で二十項目ある。「本人」はそのうち一つ。
残り十九個は全てネタ口調だ。
それってつまり、ご本人様オリジナルでいられる可能性が5%しかないのではないか?
そういう事? そういう事だよね!?
ひいい! ナニコレ!?
「にゃあ」とか「ピョン」とか断固拒否だし、「ぬぬぬぬ」ってナニ!?
えっえっえっえっ?
やだよ「ンゴ」とかそういうのもダメでしょ!?
一体どういう基準で? えっえっ!?
口調なんて普通オプションとかそういうのじゃないの?
少なくても自分で選べなきゃさ!?
画面のあちこちを触るが、どうやら「チャレンジ」以外は反応しない様だ。
ど、どうしてメインストーリー選択の後にこれ持ってくるかなあ。
ちょっとは対策と言うか適応のしようもあるのにさ。
作者さんさあ、ロールプレイって知ってる?
まさか、思いついた追加機能を面倒くさいから最後にくっ付けただけなんてことは無いだろうな?
まさか、「くじ引きした方がエキサイティングだよね!」なんて考えているんじゃないだろうな?
ボーイミーツガールなのに花魁風口調だったりしたらどうなるんだろう?
ボーイミーツガールなのに怪しい外国人風口調だったらどうなるんだろう?
ボーイミーツガールなのに「ぬぬぬぬ」だったらマジどうなるんだろう?
決めた。
やっぱ、これ作った奴見つけ出して文句言ってやる。
ここに来た人みんなが迷惑している筈だ。
俺は怒りを込めて「チャレンジ」を押した。
リストの上を、カーソルが乱舞した。
……。
「ハードボイルド調」
……。
まだマシな方か……。
コレ、何回再チャレンジできるんだろう。
……。
え?
目に飛び込んだのは、
「完了」
の文字のみ。可能試行回数の数字など見当たらない。
「ぶっ! 一発勝負かよ!?」
おのれ!
絶っっ対クレーム入れてやる!
文句じゃなくてガチクレームだ。
泣かせてやる!! 心の底から泣かせてやるぞ!!!
怒りを込めて「完了」の文字をタップすると、白い世界が溶けて何も無くなった。
第三話、了。
私ならセルフチョイスにしますね~。
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