セルフレジ、というモノが昨今増えている。
コンビニ等でセルフレジが導入されるのは、人件費の削減の為ともいえるし、そもそもそうできる技術が発達したからだ。セルフレジを使える顧客が増えたともいえる。大げさに言えば、「時代がやってきた」のであろう。
しかし、ラノベとかでお馴染みの「転生場面」すらセルフレジみたいになっているとは夢にも思わなかった。
言って見れば、セルフサービス転生?
でも普通さ、こういう時には神様が現れて、
「手違いで死なせてしまったのだ。済まぬ」
「世界が滅びかけている、どうか手を貸してほしい」
とか言ってチートアイテムやレアスキルや祝福や加護をくれる所だろ。
18禁だったら……
「ふうん、童貞? 可愛い顔してるじゃないの」
とか言われて奇麗な女神様とウフフムフフになる筈なのに。
何か寄越せよ。
どうして何もねえの?
威厳も色気もねえ端末が『種族の選択をしましょう』ですって。
もうちょっと、その、せめてハートウォームな待遇を要求したい。
それは贅沢な願いなのだろうか?
渋々画面を見てみると、選択できる種族には、人間の他に森エルフやハイエルフ、山ドワーフに竜人。ヴァンパイアや精霊、ゴーレムすらある。
よくもまあ色々並べるよなって位多くの種族の名前が並んでいる。多すぎて一画面では収まり切れていない。
ふむふむ。何だかファンタジーのゲームっぽくなってきたじゃないの。イイネ。
アレだろ?
エルフだと美男美女で寿命が長いとか、ドワーフは手先が器用で力が強いとかだよな。
俺は試しにハイエルフの文字を押した。
イケメンで長寿で魔法が得意で色々神秘的なやつだ。
……何も起こらない。
画面の反応が悪いのか?
連打。
動かない。
よく見ると……ハイエルフだけではなく、人間以外の殆どの種族の文字が薄っすらと灰色になっている。
「選択不可!?」
どうせそんなこったろうと思ってた。ワクワクして損したわ。
お、二画面目の一番下の方に「猿」と「犬」と「猫」。
これは選べるらしい。
「結構ハードモードだよね!?」
動物に転生だなんて、パーティのマスコットか予備の食料としての存在がいい所なんじゃないか?
よく見るとゴブリンやオークも選択できるらしいが、諦めて「人間」になることにした。
画面を押そうと指を伸ばすと、またも電子音がして、奇妙なポップアップが画面上に現れた。それはバナーであり、ギラギラと極彩色に光る、まるで某国のちょっと昔のサイトでよく見かけたような毒々しさだ。踏んづけると漏れなくマルウェアやウイルスがくっ付いてくるだろうし、下手すれば不正請求だってされるかもしれない。
しかも、「末野海夢様へのお勧めスーパーパック! ここ押して!!」とある。
もう、黒だろ真っ黒。うっかり踏んだら個人情報とかカード番号とか駄々洩れになるんだ。
いや、名前はバレてるんだから、もう漏れているのか?
しかもこのバナー、画面上をゴキブリの様に動き回り、うっとおしい事この上ない。
このシステム、本当に大丈夫!?
次の場面だ。
画面には棒状のスライダーが幾つか並んでいた。
上から、性別、年齢、筋力、知能、器用、俊敏、魔力、耐久、幸運と並んでいる。
例えば筋力は、一番左が1。一番右が12。つまり、12が最大値なのだろう。
全部で九本のスライダー。
上からずらっと並んでいるのだが……。
触っても反応が無い。
押してもダメ。スワイプしてもダメ。
画面のあちこちを触ったが、反応するのは三か所。
「戻る」と「チャレンジ」と「ヘルプ」だ。
「戻る」は普通に種族選択画面に戻るだけだった。
「ヘルプ」は「『チャレンジ』の文字を押してください」としか書いていない。
全然ヘルプじゃないじゃん! やっぱりやる気ねぇな!
そして「チャレンジ」は……。
押すと同時に全てのスライダー上の矢印が、右や左に動き回った。
これは。この感覚は……。
「スロット!?」
つまり、性別から年齢から、ぜーんぶランダム。
いや、スロット以下だろう。目押しも何もできず、ただボタン一つを押して止まるのを待つだけなのだから。
そしてスライダーが止まり、出来上がったキャラは……。
性別:女
年齢:85
筋力:11
知力:2
器用:4
機敏:3
耐久:1
魔力:9
幸運:2
「ババアじゃん!? ええっどうすんのコレ!?」
思わず頭を抱えてしまった。
耐久が1とか、もう死にかけなんじゃない?
しかも無駄に筋力高ぇっ。
端末を掴んで揺さぶりかけたが、留まった。
「再チャレンジしますか? 残り試行回数99回」
と出たからだ。
するに決まってるっ!
俺は「再チャレンジ」の文字を連打したのだった。
と言う訳で、俺はうんざりしながら画面を叩いている。
タッチディスプレイの感度が悪くて、強めに押さなければいけないのもストレスフルだ。
しかしまあ。
コレ、ゲームだとしたらクソげーだろ?
筋力とかのステータスはまだしも、種族も性別も年齢も任意に変えられないのはどうなの?
手抜きか。手抜きなんだな!?
キャラメイク時に選択肢が少ないゲームは感情移入しにくいじゃん。
分かってないなあ。
きっと仕様書に「あの人気アクションRPGに近いのを作れ、アクション以外はどうでもいい」って書いてあるんだ。
下請けに丸投げしたのか、設計や脚本が甘いのか。
デバッグすらまともに取ってないかもしれないぞ?
この様なシステムがあると言うことは、これを作ったいわば創造神がいるはずだ。
まさか徹夜続きのエンジニアがテキトーに組み上げた訳ではあるまい?
はっきり言って、そいつの性格が知れる。
もし出会ったらはっきりと言ってやる。
小一時間説教してやる。
「ユーザーの気持ちがわかってないし、第一やる気あるのか」と。
ここでふと我に返る。
……アレ? 俺は「ユーザー」なのかしらね?
画面では、例のポップアップがふよふよと動きながらギラついている。
少なくとも、こいつには触らないようにしないといけない。
そんな中、俺は何度もチャレンジを繰り返した……。
一体どれ程の時間を費やしただろうか?
一応納得できる数値が出たので「これで決定する」事にした。
パラメータは以下の通りになる。
性別:男
年齢:15
筋力:11
知力:4
器用:11
機敏:6
魔力:6
耐久:6
幸運:9
……もう、いい。これでいい。リアル運が低いので酷い数字ばかり出てたけれど、これでいい。某ダンジョンゲームの様に何時間もかけてやり直しをしたい所だが、キャラメイク試行の残り回数がもう五回しか残ってない。
年齢が一番のネックだった。0~100のランダムなんて、たった百回の試行ではまともに採用できる数値にならないからね。能力値が良くても還暦過ぎとか、選んでいられないもんな。乳幼児だって、転生先の状況が分からない限りダメだ。森の中に出現する子供なんて、ご都合ストーリーで誰かに拾われでもしない限り動物の餌だもんな。
ま、15歳ならオーケー。
筋力と器用さが上限近いし、幸運もそこそこ。
中の人とは違って知力が低いのは……、ま、まあ、これはキャラなんだからしょうがないよね? 中の人が聡明ならば問題ない筈だ!
かなーり若返るのは……なってみないと分からないけど、悪い事ではないと思うしな。
あーあ、疲れた。
画面は戻ってエシュグロク家の屋敷。
普段はハリが有って艶のいいパメラの頬の肉が、げっそりと落ちてしまっている。
未だ仕事は終わっていない。
「パメラ様?」
「んー? どうしたカルラ」
「あのお方は、まだこちらにいらっしゃらないのでしょうか? もう夜になってしまいましたが」
二人は夕食を終え、仕事の続きをしていたのだった。
パメラは首を振った。
「さあ。まだ向こうに居るようだが……。とっとと儂の愛情こもった『お勧めパック』を選択して来ればよいのに」
カルラが大きなため息を吐いた。
「もしかして、あの設計ノートに書いていた毒々しいデザインのポップアップにしてしまわれたのですか? 私なら絶対踏みませんけれどね」
「毒々しいって言っちゃう!? 頑張って作ったのに!」
「ですが、まるで猛毒の毛虫か何かの様ではないですか」
「そ、そうか……? ま、まあ、奴とて向こうでの名前まで入れて置かれたモノを無碍にはすまい。きっと儂の心は通じるであろうよ」
「通ジルトオモイマスヨ。さあ、パメラ様、手が止まっております。お仕事はまだ残っておりますよ」
「棒読み!? 第一、お主が話しかけたのではないかっ!?」
「そうでした。失礼いたしました。つい……。しかし、昼寝でもしているのでない限り、遅過ぎはしませんか? もしや、ランダムキャラメイク沼に嵌り込んでいるのではないでしょうか?」
「ふむ……。かつてはアレに一か月もかける戯け者もおったものよな……。まあ、最近回数制限を付けたからの、ならばそろそろ時間じゃろうて」
「だと良いのですが。ただ、日が落ちてから海上にでも出現されると、私でも回収に手間取りますので。この寒さであの服装では、行くまでに死んでしまいます」
「そうじゃの……しかし、転生者が『縁ある者ども』の近くに出現する様に手直ししてあるからのう、奴もこの街の近くからのスタートになるとは思うのじゃが。少なくとも昔みたいに転生者が辺境に出現して即溺死餓死等と言う哀れな事にはならん」
「はぁ。欠陥の放置で一体どれだけの者が転生し直しする事になったのやら……。私も大概と言う自覚はありますが、パメラ様も大したものですよね」
「そ、そうか? 照れるのう」
「蚤の鼻くそほども褒めておりません」
第二話、了。
どうも、コンビニのマルチメディア端末ってタッチパネルの反応が良くない時が多いですよね。
単に良くないならともかく、微妙に上下がズレていたりしていて、まともに数字を入力できないのとか。
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