奇跡のネコ

みゆたろ
みゆたろ

遺品

公開日時: 2021年10月10日(日) 00:46
文字数:578

ゼェハァゼェハァ。

ゼェハァゼェハァ。


私はふと足を止め、あたりを見渡す。


建物の残骸だろうか?白いコンクリートの大きな塊。そして硝子の欠片。

その上からは、猫の掠れた鳴き声が響いてくる。


ニャー。


私はとてもこの場所には不釣り合いな服装だ。

ジーパンにTシャツ。だが、足元はこれまでに一度も履いた事のない赤いハイヒール。


ゆっくりと猫の鳴き声のする方に向かって歩いていく。

フラフラとよろけながら...。


コンクリートの塊は、私が踏みつける度に足元をふらつかせた。


私はハイヒールを脱ぎ、硝子の破片に気を付けながら、上へと歩いて行く。

そうして数分が経った頃、私はようやく建物の残骸と思われるものの頂点にたどり着いた。


頂点からこの街を見渡すと、街全体はキレイで大きな建物が立ち並び、令和の空気が漂っているのに対し、このコンクリートの塊がある部分だけが、妙な時代遅れ感を覚えさせた。


ここだけが昭和初めの頃だろうか。古くからある使い込んだ学校を思わせる建物の残骸が散らばり、昔ながらの駄菓子屋さんなどが近くには並んでいた。そしてその瓦礫の上に私は今立っている。


誰のものなのか。さっきまで私が履いていた赤いハイヒールは道の途中で、置いてきてしまったが、とりあえずミケの無事は確認できた。


ミケは大好きだった祖母の飼い猫だった。

そして、私にとってミケは、祖母が残してくれた未来への希望だ。

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