「命令口調が気に入らないっぺねえ……」
「そんなことを言っている場合か!」
「しょうがないっぺねえ……」
「早くしろ!」
「急かすなっぺ!」
「どちらかと言えば、お前が急かしたんだろうが、妖怪!」
「妖精だっぺ!」
「ややこしいな!」
「ややこしいことはないっぺ!」
「名前とかないのか?」
「この世界のものは……オラのことをティッぺと呼ぶっぺ」
「ティッぺ?」
「ああ、皆から崇め奉られている大変ありがたい存在だっぺ」
バケモノ、もとい、ティッぺが胸を張る。
「ふむ……」
「お前さんもこの世界に来たからには、それに倣ってもいいんだっぺよ」
「いや、絶対にお断りだ……」
「冗談だっぺ! マジなトーンで言うなっぺ!」
ティッペが声を上げる。ん? この世界?
「ちょっと待て……」
「ん?」
「この世界……転移者……」
「どうかしたっぺか?」
俺は今更ながらハッとする。
「ひょっとして……俺は異世界にやってきてしまったのか⁉」
「気付くのが大分遅いっぺねえ……」
ティッペが呆れ気味な視線を向けてくる。
「な、何故だ⁉」
「さあ?」
「さあ?って、妖精なら知っているんじゃないか⁉」
「妖精だからと言って、全知全能ってわけではないっぺ……」
「役立たずだな!」
「んなっ⁉ 言うに事欠いてこのガキャ……」
「まったくなにも分からないのか⁉」
「……大方、なんらかの衝撃を受けて、この世界に来てしまったんじゃないっぺか?」
「なんらかの衝撃……はっ!」
俺はホテルに落雷のようなものが起こったことを思い出す。ティッペが笑う。
「へえ、心当たりあるっぺか……適当でも言ってみるものだっぺねえ……」
「まさか、異世界転移してしまうなんて……そんなの小説や漫画やアニメでの出来事だと思っていたのに……」
「ああ、ショックを受けているところ、大変申し訳ないんだっぺが……」
頭を抱える俺にティッペが話しかけてくる。俺はイライラしながら応える。
「なんだよ⁉」
「この状況をどうにかしないといけないっぺ」
「え? ああっ⁉」
気が付くと、トカゲのようなものたちが俺たちを取り囲んでいた。
「完全に包囲されているっぺねえ……」
「な、なんてことだ……」
「まあ、問題はないっぺ」
「いや、問題しかないだろう!」
「少し落ち着くっぺ」
「これが落ち着いていられるか!」
「手はあるっぺ」
「ど、どんな手だ⁉」
「……戦って倒す!」
「あ~なるほど……ってなるか!」
「え?」
「え?じゃない! 俺は戦えないぞ!」
「転移者なら間違いないっぺ」
「なんだ、その転移者への信頼は!」
「転移者は『スキル』を所持しているっぺ」
「スキルだと?」
首を傾げる俺にティッペが説明する。
「そう、ほとんどが戦闘向きのスキルなんだっぺ。よって、この世界では転移者は重宝されるんだっぺ。悪い方向に転がってしまうこともあるっぺが……」
「ん?」
「ああ、今はそれはいいっぺ。早速スキルを発動して、サクサクッと、こんな雑魚モンスターは片付けてしまうっぺ」
「い、いや、そうは言うが……」
「ん?」
「そのスキルとはどうやって発動するんだ⁉」
「なんとなくノリで……」
「ノリで出せるものじゃないだろう!」
「冗談だっぺ」
「こんな時に冗談はやめろ!」
俺は堪らず叫ぶ。ティッペが急に真面目な声色になる。
「まず、己のスキルを把握する必要があるっぺ……」
「ど、どうやってやるんだ⁉」
「落ち着くっぺ、それはオラたち、妖精の役目だっぺ……」
「そ、そうか……」
ティッペが羽をパタパタとさせて俺の顔の正面にくる。
「じっとしているっぺ……」
「あ、ああ……」
「スキル把握開始……」
「……」
「……結果が出たっぺ」
「ど、どんなスキルだ⁉」
「えっと……これは……【演技】?」
「はあっ⁉」
戦闘とは明らかに関係なさそうなスキルの名前が出てきて、俺は驚く。
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