「す、姿が変わった……?」
「ティ、ティッペ! こ、これは……?」
俺は尋ねる。ティッペは声を弾ませる。
「そうだっぺ! 正真正銘の『赤髪の勇者』だっぺ!」
「やっとか! 待たせやがって!」
「さすがは『七色の美声』、正統派の勇者を演じても違和感が無いっぺ……」
「ふっ、正統派か……」
俺は背中のマントを大げさにたなびかせ、腰の鞘から剣をサッと抜く。
「勇者……?」
ベリが首を傾げる。
「そうだっぺ! かつてこの世界の危機を救った伝説の『虹の英雄たち』の代表、『赤髪の勇者』が再び現れたっぺ! 恐れおののくが良いっぺ!」
「お前の口調の方が悪役のそれっぽいぞ!」
俺は興奮気味のティッペを落ち着かせる。
「ベ、ベリ姉さん……」
「落ち着け、セル……わたしらにはチートスキルがあるだろう?」
「う、うん……」
「その程度のスキル、問題は無い!」
「ほう、言ってくれるじゃないか……」
俺の言葉にベリは笑みを浮かべる。俺は剣を構える。
「さあ、かかってこい!」
「言われなくても!」
「!」
右手をかざしたベリがあっという間に俺の懐に潜り込んできた。ベリが笑う。
「はっ、反応が遅れているよ⁉」
「と、【時進み】のスキルを発動させたっぺ!」
「ちっ!」
俺は舌打ちする。
「もらった!」
「なんの!」
「なっ⁉」
ベリの繰り出した鋭いパンチを俺は思い切りしゃがんで避ける。
「か、かわせた!」
俺は自分でも自分の反射神経に驚く。これが勇者の身体能力か。
「と、【時戻し】!」
「む⁉」
俺の体勢が元に戻る。セルによる【時戻し】が発動したのだろう。戸惑っている隙をついて、セルも素早く接近してくる。
「これならどうだ!」
「なんの!」
「なにっ⁉」
セルが下段に向かって強烈なキックを放ってきたが、俺はカエル飛びのように飛んでかわしてみせる。ティッペが叫ぶ。
「これが赤髪の勇者の代名詞、『半身動かし』だっぺ!」
「は、半身動かし⁉」
「そう! たった半身を動かすだけで、相手の攻撃をことごとく無効化させてしまう、赤髪の勇者がもっとも得意としていた技だっぺ!」
「そうか……だが」
「ん?」
「これが正統派の勇者の姿か⁉」
飛んでいるカエルのような姿勢をしながら俺は叫ぶ。思っていた勇者像とだいぶ違う。
「細かいことを気にしている場合ではないっぺ!」
「そ、そんな……」
「今が好機だっぺ!」
「! よし!」
「はっ⁉」
「しまっ……!」
「はあっ!」
「ぐはっ!」
「がはっ!」
俺は剣をひと薙ぎする。ベリとセルが後方に派手に吹っ飛ぶ。
「ぐっ……」
「仕留めきれなかった?」
「恐らくギリギリでスキルを発動させたっぺ……」
「なるほどな……」
頷く俺の横でティッペが説明を続ける。
「しかし、その剣速はさすが歴戦の勇者! ほとんど相手のスキルを無効化させたものと同じだっぺ!」
「ふむ、とどめといくか……!」
俺はベリたちに足早に近づく。
「くっ!」
「ま、間に合わない⁉」
ベリが舌打ちし、セルが慌てる。俺は剣を振りかざす。
「今度こそ、終わりだ!」
「……」
「⁉」
俺は剣を振りかざした状態で止まる。
「ふん……」
俺の目の前に褐色のワガママボディをマイクロビキニで包んだ、黒髪に赤いメッシュを入れた大きなアフロヘアの女が現れる。
「‼」
「そらっ!」
「ごふっ!」
アフロヘアの女の強烈な頭突きを喰らい、俺は堪らず後方に倒れ込む。
「アラ姉!」
「アラ姉さん!」
「……妹たちが世話になった」
アラと呼ばれた女が自らの額をさすりながら呟く。
「あ、姉だと……?」
俺は半身を起こしながら呟く。
「ああ! 『色欲のABC』の長女、アラだっぺ!」
「さ、三姉妹なら、最初から三姉妹と言え!」
俺はティッペに対し声を荒げる。
「ベリ=B、セル=Cと、大体類推出来るっぺ……」
「出来るか! 名探偵じゃないのだぞ!」
「ダンジョンでの謎解きなども勇者には必要な能力だっぺ」
「か、勝手なことを言うな……」
「やかましい連中だな……」
アラがアフロヘアを撫でながら呟く。俺は慌てて立ち上がる。
「くっ……」
「なんの! 相手が一人増えただけだっぺ! 勇者が何を臆することがあるっぺ!」
「良いことを言うな! 行くぞ!」
俺はアラに向かって勢いよく斬りかかる。
「はあ……」
「……⁉」
アラが両手を交差させながらかざすと、俺の動きがピタッと止まる。
「私のスキルは【時止め】……貴方に勝ち目はない……」
アラから衝撃の言葉が俺の耳に入ってくる。
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