「かっ、可愛いですっ!」
案の定、ジネットがすぐ釣れた。
俺の描いたイラストを覗き込み、体をのけぞらして身悶えて、もう一度覗き込んでにへらっと笑い、視線をイラスト中にめぐらせた後で再度体をのけぞらせる。身悶えとるなぁ。
「こ、こんな感じになるんですか? このお城はウーマロさんが建てるんでしょうか!?」
「いや、これはイメージイラストだから」
さすがに、「ハロウィンやるからお城建てといて」とは言えない。まして、いろんな物理法則を無視したようなハロウィンっぽいお城なんか。
「ねぇ、ヤシロ。マグダに言って、『マグダと市場へショッピング権』を贈呈すれば、出来なくもないんじゃないかな?」
「落ち着けエステラ。ウーマロだったらマジでやりそうだから自重してくれ。城なんか建てられても扱いに困る」
「いや、ボクが住むから平気だよ!」
「お前、ノリノリだな!?」
エステラのテンションが面倒くさい感じで上がっているので一度落ち着かせることにする。
「これはかなり誇張して、ハロウィンっぽさを伝えるために描いたイラストだ。こういう雰囲気になるように、通りを飾ったり、家を飾ったり、仮装をしたりするんだよ」
「ま、街が、こんな雰囲気に染まるんですか……素敵です! 陽だまり亭も全力で協力しましょうね、ヤシロさん!」
「大通りのみんなもきっと協力してくれるよ。もともと人を持て成すのが得意な人たちだし、何より、イベントが少ないって文句を言っていたくらいだからね」
大通りにハロウィンの飾り付けがされれば、ぐっと雰囲気が出るだろう。
日本でもそうだったが、辺り一帯が一気にイベント一色に染まる様は壮観だ。ハロウィン然り、クリスマス然り。
「あの、店長さん、ヤシロさん。こういうオレンジのかぼちゃってあるんですか? 私は見たことがないんですけれど」
「わたしも見たことはありませんね……あるんですか、ヤシロさん?」
「俺の故郷にはあったんだよ」
まぁ、故郷といっても日本より外国の方にあった物だけどな。
「こいつは食用には向かないかぼちゃだから、ジネットが知らなくても仕方ないかもな」
「食べられないんですか?」
「いや、食えるけど、普通のかぼちゃの方が美味い」
日本ではあまり食用とはされない。種をローストして食ったりは出来るようだが。
日本でこのオレンジのかぼちゃを目にするのは、やっぱりハロウィンの季節と、あとは巨大かぼちゃのニュースくらいでだろう。
「大人が抱えきれないくらいに成長したりするんだ。それで、重さ当てクイズとかして賞品を出したりな」
「面白そうですね! わたしもやってみたいです」
「実際、この街にあるのかどうか、モーマットかアッスントに確認するのが先だな」
食えない野菜を行商ギルドが扱っているのかは聞いてみないと分からない。
この街に観賞用の野菜なんてジャンルがあるのかどうかも、俺は知らないしな。
観賞用なら、ミリィの方が専門かもしれないな。
「もし、かぼちゃがなかったらどうしましょうか?」
「なんでもいいと思うぞ。ちょっとお化けっぽい顔を彫って、ランタンに出来るなら」
「ランタンにするんですか?」
「あぁ。中をくりぬいて、そこにろうそくを入れるんだ。夜になると目と口が光って怖い……と、ガキどもは楽しむことだろう」
「それは、とっても怖いですね」
と、ちぃ~っとも怖がる素振りも見せずにジネットが微笑む。
もっとも、四十二区の大通りには光るレンガがあるから、ろうそくの光なんか目立ちはしないだろうけどな。
「光るレンガの何割かを消灯させよう。安全が脅かされない範囲で!」
光の祭りでも、黒い布をかぶせることでその光を遮ったりはしていた。やろうと思えば出来るのだが……エステラ、気合い入り過ぎじゃないか。まだ企画段階だぞ。
「他にはどんな飾りを作るんですか? オーナメントを作るなら、今度はわたしもお手伝いしますね」
去年のクリスマスの時期にもみの木を飾りつけたオーナメント。
実は密かにちょっと作ってみたかったらしく、ジネットは妙に張り切っている。
「クリスマスの時はわたし、お料理をしていてまったくお手伝いできませんでしたから」
そう言って、ぽんっと手を叩く。
「そう言えば、ハロウィンではどのようなお料理を食べるんですか?」
ハロウィンの定番といえば……やっぱりお菓子になるだろうか。
「料理ではないが、カボチャやリンゴを使ったデザートやお菓子が定番かな」
日本ではカボチャがメジャーだが、ヨーロッパの方ではリンゴがハロウィンの主役となることが多い。収穫時期がちょうどそのころだからな。
「カボチャのスープやカボチャのパイなんかは作るかもしれんが……」
「なんだか、物凄く甘そうな物ばかりですね」
モリーが表情を曇らせる。
今このタイミングでなければもっと興味を惹けたかもしれないが。
「では、またわたしは、あまり料理が出来ないかもしれませんね」
「大丈夫だジネット」
俺の言葉に、ジネットが微かな希望を滲ませた瞳をこちらに向ける。
「お前はヘソを出して大通りを歩かなきゃいけないんだから、どっちにしろ料理をしている暇はない」
「全然大丈夫ではないです、その状況!?」
もー! と、ジネットが頬を膨らませる。
怒っているところ悪いが、そもそもこれはお前らのために企画していることだ。
「ジネットとモリーは俺が指定する衣装を着て、ハロウィンのパレードに参加してもらう」
「えっ!? そ、それは、ちょっと……」
「あの、私も……困ります」
「ヤシロが指定すると、またビキニとかになるんじゃないのかい?」
「「無理ですからね、ヤシロさん!?」」
エステラの勝手な決めつけによって俺が非難された。酷い話だ。
「ちゃんとウクリネスと話をしてまともな衣装にしてもらうよ。どうしてもビキニが着たいというなら止めないが」
「「着ません! 着られません!」」
ま、こっちもそんな格好をさせるつもりはない。
モリーはまだ未成年だから平気かもしれないが……ジネットがあまりに際どい衣装を着て大通りを歩くなんて危険過ぎる。
あいつのことだ、うっかり攫われたりしかねない。
悪い虫に群がられるのも面白くない。
なにより、薄着でぶるんぶるん揺れる様を見るのは俺だけでいい!
「ちゃんと可愛くなるようにウクリネスに頼んでおいてやるよ」
「うぅ……でも……」
「おヘソは……」
「じゃあ、ダイエットには協力しない」
「「すみません、やります!」」
ジネットとモリーの必死さが伝わってくる。
自身のお腹がたるんでいくことと、デリアの暴走を恐れているのだろう。
「当日までに、見せびらかしたくなるくらい引き締めてやればいいんじゃないか」
「どんなに引き締まっても、自慢して見せびらかす予定はありませんもん……」
ジネットの言葉にモリーもこくこくと頷いている。
「けど……私みたいに意志の弱い者にはヤシロさんくらいの厳しさが必要なのかも……」
「そ、それは…………わたしも、一緒です」
はぁっとため息をついて、不安そうにではあるが、とりあえず了承の意を示す二人。
せめて見られても見苦しくない状態を目指しましょうと、二人で手を取り合い誓っている。
「それに、わたしなんて地味ですし、きっと誰も注目したりしませんし」
「そうですね。パレードということは、他にも大勢の方が参加されるんでしょうし、ノーマさんやデリアさん、ネフェリーさんみたいな綺麗な人が注目されて、私なんてその陰に隠れてしまうはずです!」
「では、ひっそり頑張りましょうね、モリーさん!」
「はい、店長さん! ひっそりと!」
互いを励ますように、ジネットとモリーが頷き合っているが、双方ともに笑顔が物凄く引き攣っている。
まぁ、注目されるだろうな。
つか、モリーの中でネフェリーは美人枠なのか……
「注目されるされないはともかく」
と、エステラも「ジネットちゃんは注目されると思うけどなぁ」みたいな顔で一度ジネットを見た後、俺へと向き直る。
「あまりにいかがわしいものは却下するからね?」
「だから、そういうイベントじゃねぇっつの……ったく、なんでそんな発想になるんだか」
「君が二割のおっぱいを混ぜるとか言い出したからだよ!」
そんなもんをいちいち気にするなよ。
「七割超えなきゃセーフだろう」
「一割りでもアウトにしたいところだよ」
とはいえ、今回は割と真面目に取り組むつもりでいる。
他に目的もあるしな。
なので、真面目にハロウィンの仮装について説明しておく。
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