異世界詐欺師のなんちゃって経営術

分割版π(パイ)
宮地拓海
宮地拓海

233話 酔いが回ったらスキンシップも増える -2-

公開日時: 2021年3月24日(水) 20:01
文字数:3,049

 唇を噛みしめ、バーサが俯く。

 バーサ自身も獣人族であり、過去に様々な経験をしたのだろう。そんな思いをリベカやソフィーにはさせまいと、ずっと頑張ってきたのだろう。

 バーサの体が小さく震えている。

 その震えは、長きにわたる苦労が報われたことへの――世界が変わり始めたことへの喜びの表れ、なのかもしれない。

 

「領主……ドニス様………………渋いっ」

 

 ……あ、違うかも。

 なんか、すげぇ硬く拳握っちゃってるし。

 

「ぁはぁ…………大人な男性も……いいっ!」

 

 あぁ……なんか嫌な呟き聞こえちゃったなぁ……

 小指を口の端で咥えるのやめてくれるかなぁ。

 

「でも私にはヤシロ様が…………やめてっ、私のために争わないでっ!」

 

 ドニスと協力して、どこかに埋めに行こうかな。いや、マジで。

 幻覚が見え始めてるって、きっともう末期だから。

 

「…………私、二人までなら同時に愛することが出来るかもっ?」

 

 なんか最低なこと言い出したぞ!?

 

 おい、誰か止めろ――と、身内のリベカとソフィーを見ると……アイツら、揃って耳をクルクル丸めてやがった。

 あれ、完全に聞こえなくなるヤツだ。

 責任持てよ。お前らの身内だろ。

 

「……よかった、いざという時のために勝負パンツを穿いてきておいて……っ!」

 

 聞きたくなかったな、その情報!?

 

「ヤシロ様! お話が!」

「聞きたくない!」

 

 目が血走り始めたバーサを一喝して黙らせる。

 まったく、このババアは……

 

「勝負パンツは、ジネットのだけで十分だ!」

「ほにゃぁあ!? な、なにを、急に、い、言い出すんですか!?」

「あれ、今日は違うのか?」

「違っ、…………ぃ、ません……けどもっ! もう! 懺悔してください!」

 

 お玉をぎゅっと握りしめて、反対の手で俺をぽかぽか叩いてくる。

 こういう時お玉で攻撃してこないのがジネットだよなぁ。エステラなら、確実に手に持っている物を武器にしやがる。

 

「ナタリア。二本貸してくれない?」

「投げナイフにしますか、ツイスト・ダガーにしますか?」

 

 ヤツめ、手に持ってない武器を要求しやがった!?

 

「ツイスト・ダガーで」

 

 しかも殺傷能力の高い方を選びやがった!?

 

「ヤシロ。話があるんだ」

「お前にあるのは話じゃなくて殺意だろうが!」

 

 なぜ俺がそこまでの殺意を抱かれねばいけないのか……理解に苦しむ!

 

「四十二区の恥部を広めないでくれるかな?」

「エステラ、お前っ! ジネットの勝負パンツを恥部扱いするのか!?」

「恥部は君だよ、ヤシロ!」

「ジネットはそんなに恥ずかしいパンツを穿いていると、そう言いたいのか!」

「聞けぇ、ボクの話をっ!」

「ヤシロさん、懺悔してくださいっ!」

 

 わざわざお玉を置きに行って、両手でぽかぽか俺を叩くジネット。

 ジネットがこんなにもスキンシップを取ってくるなんて、やっぱり外出って開放的になるんだなぁ。

 

「ヤシロ……その『癒されるなぁ~』みたいな顔のまま棺に納めてあげようか?」

「落ち着けエステラ。そもそも悪いのは俺じゃない。バーサだ」

「あれは…………まぁ、乙女心と、いうことで…………なんとか消化したよ、ボクは」

 

 お前は外の人間に甘過ぎる!

 バーサはもっと糾弾されて然るべきなのにっ!

 

「こら、ヤシぴっぴよ」

 

 ドニスが険しい表情で俺を睨んでいる……が、『ヤシぴっぴ』のせいで威厳も迫力も八割減だ。

 

「戯れも大概にせんか」

 

 ゆっくりと立ち上がるドニス。

 一歩一歩、大地を踏みしめるように俺へと近付いてくる。

 

「ミズ・クレアモナというフィアンセがいながら、他の女に体を許すとは何事かっ!? 恥を知れ!」

「なんかいろいろ間違ってるぞ、お前!?」

 

 誰がフィアンセだ!?

 そして、体を許すってなんだ!? ただのスキンシップだっつうの!

 

「あふぅ……急に立ちくらみが……と、言いつつヤシロ様へ寄り添う私……」

「ナタリア、面白そうだからって引っかき回すな……」

「……急な立ちくらみ」

「あぁ……お兄ちゃん支えてです……」

「お前らも乗っかるな、マグダ、ロレッタ!」

「なぁヤシロ! 立ちくらみってどうやったらなれるんだ!?」

「たぶんお前には無縁のものだと思うぞ、デリア」

「私も立ちくらみした~い☆」

「いやマーシャ、お前立てないじゃん!?」

 

 あぁ、うるさい!

 遊べそうな空気を感じたらここぞと出てきやがって!

 

「こういうのに乗っからないのはベルティーナとミリィだけだな」

「ぁう……みりぃは、その……はずかしい、から……」

 

 いいんだよ、ミリィはそのままで。

 で、さっきから妙に大人しいベルティーナはというと……机に突っ伏していた。

 

 って、おい!?

 

「ベルティーナ!?」

「シスター!?」

 

 酔ってないか、あいつ!?

 ノンアルコールだぞ!?

 

 突っ伏すベルティーナに駆け寄る俺とジネット。

 ジネットがそっとベルティーナに触れる。

 

「シスター、大丈夫ですか?」

「はぃ……らいじょうぶ……いぇ、大丈夫です」

 

 酔ってるな……でもなんで?

 

「すみません……あの、なんといいますか……宴の雰囲気で、少し……」

「あぁ……雰囲気で酔っちゃうヤツってのはたまにいるからなぁ」

「でも、気分は悪くないので、楽しい気分ですよ……うふふふ」

 

 さして面白くもないこのタイミングで漏れ出す笑い。

 完全に酔ってるな。

 

「シスター、少し中座して中で休ませていただきましょう」

「そうですね……その方がよさそうですね」

 

 ジネットに言われ、ふらつく足で立ち上がるベルティーナ。

 

「きゃっ」

「危ねぇ!」

 

 椅子の脚に躓き、大きく体勢を崩す。

 間一髪体を支えることが出来たが…………柔らかいなぁ。

 

「ヤシロさん……『めっ』ですよ」

「いや、これは、ほら……不可抗力だ」

 

 ベルティーナに軽く睨まれる。が、腕を伸ばした位置が悪かっただけだ。故意ではない。

 といっても、ベルティーナも怒っているわけではない様子で、体を起こすとにっこりと微笑んでくれた。

 

「ありがとうございます。助かりました」

「いや、こちらこそありがとう」

「そういうことを言うから『めっ』なんですよ」

 

 怒られた。

 けれど、頬を薄く染めるベルティーナは可憐さを纏っていて、この顔でなら何時間でも怒られていたいもんだ。

 

「あの、ヤシロさん……」

 

 心配するジネットをよそに、ベルティーナは俺に体を寄せてくる。

 な、なんだ? 本当に結構酔っ払ってて、甘えん坊モードが発動したのか?

 周りの連中も、ベルティーナのすることなので下手に口を挟めないでいる。

 

「……一つお願いがあります」

「え?」

「私も、ジネットのために…………」

 

 そう言って、耳打ちされた言葉に思わず驚いた。

 ベルティーナがそういうことを言うのは珍しいから。

 

「……出来るのか?」

「これでも、長く母親代わりをやっていますので」

 

 自信があるようだ。

 酔いさえ覚めればなんとかなるだろう。

 

 じゃあ。

 

「ナタリア。ベルティーナを頼む。あ、デリアとミリィも手伝ってやってくれ」

「え、あの、ヤシロさん。シスターのことならわたしが……」

「ジネットは、もうちょっとここで俺を手伝ってくれ」

「そ、そう……ですか?」

 

 弱ったベルティーナを放っておけないジネット。

 だが、ベルティーナたっての希望でもあるんだ。お前はここに残っておいてくれ。

 

「とりあえず、俺とジネットが『ふしだらな関係』でないことを証明しないといけないしな」

「ふ、ふしっ……!? あ、ぁああの、あのっ、そ、そのようなことは決して! わた、わたしは、あの……アルヴィ……スタ、スタ、スタン、タンタン……あのっ!」

「いや、落ち着け。そこまで疑惑の目は向いてないから」

 

 盛大に慌て始めるジネット。

 その隙に、『仕込み』の必要なメンバーが教会の中へと入っていく。

 

 しっかり頼むぜ、みんな。

 

 

読み終わったら、ポイントを付けましょう!

ツイート