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「こ~んにちわ~!」
「あ、ネフェリーさん。いらっしゃいませ」
私が陽だまり亭に着くと、すでに多くの人がそこにいた。
……なんか、食堂の様子が…………
「どうしたの、これ?」
「なんでも、すごろくというのはみんなで車座に座って行うのがマナーだと、ヤシロさんが」
「へぇ……奥が深いのね」
食堂のテーブルと椅子が隅に退けられ、床の上には敷物が何層も重ねて敷かれていた。
あ、なんだか温かい。
「敷物の間にワラを挟んであるんです。床は冷たいですから」
こういう一工夫が心憎いのよね、陽だまり亭って。
薪ストーブがパチパチと音を立て、空間を暖めている。
敷物の上にはたくさんの丸が書かれた大きな紙が広げられており、その下に平べったい木の板が置かれている。きっと、敷物の下に敷いたワラのせいで紙が傾かないようにだと思う。
「今は何をしているの?」
「命令を書き込んでいるんだ。お前も何か書くか?」
話を聞くと、自分のコマが止まったマスに書かれた命令には従わないといけないらしい。
じゃあ、あんまり変なことは書けないよね……
「『一番おっぱいの大きい人が水着になる』っと……」
「そういうのは無しですよ!?」
……変なことを書く気満々の人がいた…………
「ネフェリーさん。ここどうぞ! あいてますから!」
「あ、ありがとう」
四十区で砂糖工場をやってるパーシーだ。とても気が利いてちょっと変で面白い人。
獣特徴に見える目の周りの黒いのはメイクなんだって。……そんな小さいこと、気にしなきゃいいのにって、私は思うけどなぁ。
すごろくの周りにはヤシロから右回りに、ジネット、エステラ、ロレッタ、私、パーシー、ウーマロ、マグダが座っている。
「あれ、今日ナタリアは?」
「さすがに連れてこられなかったよ……メイド長だしね」
そういえば、エステラってどこかのお嬢様なのかな?
なんか、いろいろとヤシロと二人でやってるみたいだけど。……木こりギルドのイメルダとも仲いいし。
「ネフェリーさんも何か書くです?」
ロレッタが私にペンを渡してく…………筆? なんで筆?
「あぁ、その筆はあとで使うんだ。気にしないでくれ」
気にするなと言われたら、まぁ気にはしないけれど……チラッと見ると、『顔に落書きされる』って命令が目に飛び込んできた……そのための筆のようだ。
まったく。ヤシロって相変わらず変なことばかりするわね。ちょっと、私みたいな普通の思考回路では考えが及ばないわ。
……まぁ。そういうところが他の男の人と違って………………
「――っ!?」
自分で考えたことで、なんか恥ずかしくなっちゃった……
バカバカ、私……何考えてんのよ……
「ん? どうしたネフェリー?」
「へっ!?」
「トサカが赤いぞ?」
「いつものことよ!」
……もう。
人がこんなに照れてるのに、いつもヤシロは…………鈍感って、罪だと思うんだよね。
ヤシロみたいなタイプは、面と向かって想いを伝えなきゃ、いつまでたっても気付いてくれないんだろうなぁ……なんて、思う。
……想いを、伝える…………か。
「ここに書いてもいい?」
私は、『あがり』と書かれた大きなマスの一つ手前を指さして言う。
「あぁ。最後の難関に相応しいのを頼むぜ」
楽しそうに笑うヤシロ。
そんな余裕な表情をしていられるのも今のうちよ…………
私は、そのマスに命令を書き込む。
ヤシロと……自分を追い込む命令。
『好きな人に自分の想いを伝える』
私が書き込んだ文を見て、ヤシロの表情が変わる。
意識……したわね。
少し……怖い。
けど、折角の機会だから……
もしヤシロがここに止まって、私じゃない人に想いを伝えるなら……私はそれを祝福してあげる。そして、来年から綺麗さっぱり、新しい私になるんだ。
もし、私がここに止まっちゃったら……その時は、はっきりと想いを伝える。結果がどうであったとしても……
一年の終わり。
勝負をかけるには、いいタイミングだと思うの。
「こ、これは……面白くなりそうですね!」
「……ふむ、興味深い」
「へぇ…………面白いことを書いたね、ネフェリー」
「好きな人…………ですか」
ロレッタが鼻息を荒くし、マグダが微かにほくそ笑み、エステラはニヤリと笑みを浮かべ、ジネットはアゴに指を当てて小首を傾げた。
さぁ、勝負よ。
勝っても負けても……私は絶対後悔しない!
「んじゃ、始めるぞ!」
そんなヤシロの掛け声で、すごろく大会は始まった。
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