一同の水着を堪能した後は、心ゆくまで川で遊んだ。
ベルティーナやミリィは足を浸ける程度の大人しい感じで、一方パウラやデリアは飛び込んだり泳いだりと全力で遊んでいた。
俺はと言うと、泳げないというジネットに泳ぎを教えていた。
「手っ、手を離さないでくださいねっ!?」
「はいはい。大丈夫だから、顔を水に浸けてみろ」
「お、溺れませんか!?」
「大丈夫だっつうのに」
ジネットは、本当に食堂の外にあまり出たことがないんだなと実感した。
エステラはさすがというかなんというか、ナタリアと二人で競泳選手のような美しいフォームでバッシャバッシャ泳ぎ回っていた。
そして、ロレッタが気持ち悪いほど泳ぎがうまかった。
「気持ち悪っ」
「酷いです! お兄ちゃんがストレートに酷いです!」
なんか、フォームが滅茶苦茶なのにスイ~っと泳いでいくから、なんだか蛇の泳ぎみたいでちょっと「うわ~」って思っちゃったのだ。
ノーマとイメルダは岸でのんびりと過ごしている。まぁ、過ごし方は人それぞれだ。
マグダとネフェリーは「……脱ぐ?」「まだ早くない?」「……攻める?」「頃合いを見計らうのよ! イメチェンは私たち二人だけの強力な武器だから!」と、ビキニになるかどうかのタイミングを二人で相談していた。……好きにしろよ。
昼過ぎまで散々遊んで、腹が減ったところで流しそうめんをすることになった。
俺はもう、これがしたくて堪らなかったのだ。
日本でもやったことがないからな。
これは、流す方がタイミングを見計らわないといけないのでアホの子には任せられない。
消去法で俺しか適任者がいないわけだ。ここにいるヤツ、全員アホの子だしな。
「んじゃ、流すぞー!」
「がるるぅ!」
「おい、誰だ? 今獣みたいな声出したの!? マグダか? デリアか?」
「……シスター・ベルティーナ」
「お前かよ!?」
素麺にまでがっつくんじゃねぇよ。
オメロとベッコに柄杓で竹に水を流し続けてもらい、素麺を一掴みずつ流していく。
おぉ! 流れた!
「いただきっ!」
「デリア! 手掴み禁止!」
「えぇー!?」
「がるるぅ!」
「ベルティーナ、落ち着いて!」
ケモノ率が高ぇよ、ここ! 流しそうめんはもっと風流なものなんだよ!
何食分か流したところでようやく落ち着いてきた。
それぞれがある程度素麺を口に出来たようだ。
「ヤシロさん。変わります。ヤシロさんも食べてください」
「ん? そうか。悪いなジネット」
「いいえ」
ジネットの申し出を受けて、俺は竹の隣に立つ。
ベッコとオメロも交代したようだ。デリアとマグダが水を流すらしい。
「では、いきますよ~」
ジネットがのんびりとした声で言う。
箸を持ち身構える……そして素麺が竹に落とされた……瞬間っ!
――……ギュンッ!
「速ぇよ!」
水係りの二人が急流すべりみたいな速度で水を流してやがるのだ。
マグダが水を常時流し続け、デリアが素麺に合わせて柄杓をフルスウィングして水の塊を叩きつけるように打ち出してくる。
こいつら、食わせる気あんのか!?
「面白そうだな。あたいにもやらせてくれ」
「え、でも……」
明らかに危険過ぎるデリアの申し出に、ジネットが一瞬たじろぐが……
「では、お願いします」
……譲っちゃったかぁ…………
素麺の入った籠を抱え、デリアが不敵な笑みを浮かべる。
柄杓をビシッとオメロに向け、その後柄杓をくるりと回転させてバッターのように構える。
「オメロ、食えよ!」
そう言って、まるで千本ノックのように素麺を柄杓で『打った』。
「どふっ!?」
打ち出された素麺はオメロの口に見事命中し、たったの一本も零れなかった。
「す、すごいッス……」
「いや、すごいけど、やり方違うから! 普通に食わせろ!」
食べ物で遊ぶのは許しません!
そんなこんなで、わいわいと楽しい時間は過ぎていき……俺たちは真夏の暑い一日を心から堪能したのだった。
猛暑期も、こうやって楽しく過ごせばいいのだ。
暑い暑いと文句を言っているだけでは心が腐ってしまう。
クッソ暑くなってくれたおかげでみんなの水着姿が見られたのだ。
「行動が制限される時期を遊び尽くすことで楽しく過ごす……か。来年からはこの考えが街全体に定着するように働きかけてみるよ」
屈託なく笑うエステラがそんなことを言っていた。
そうだ。
地獄の猛暑も楽しんだ者勝ちなのだ。
明日からだって、きっと楽しいことが待っている。
なにせ、夏は始まったばかりなのだから!
日が暮れて、陽だまり亭に帰った俺たちは、水泳後独特の倦怠感と眠気に襲われ、早々と店を閉め倒れるように床に就いた。
泥のような睡魔に意識がのみ込まれていく中、俺は……
「次は何しようかなぁ……肝試しとか、スイカ割りとか……花火とか、出来ねぇかなぁ……」
なんて、夏休みの計画に胸を膨らませるガキみたいなことを考えていた。
やがて意識がプツリと途絶え、俺は眠りに落ちた。
目が覚めた時、あんなことが起こっているなんて考えもしないで…………
「…………嘘だろ?」
強烈な寒さに目を覚ました俺は、窓を開けて絶句した。
吐く息も、目の前の景色も、すべてが白一色に覆われていたのだ。
世界が雪に覆われていた。
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