異世界詐欺師のなんちゃって経営術

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宮地拓海
宮地拓海

【π限定SS】川遊び~パウラ&デリア~

公開日時: 2020年12月31日(木) 20:01
文字数:4,036

「あ、あのあのっ、ヤシロさん!? み、水の中で目を開けるなんて、可能なんでしょうか!?」

「いや、普通に出来るから!」

 

 胸くらいの深さの場所で、ヤシロがジネットに泳ぎを教えてあげている。

 ジネットって、ホント運動できないのねぇ。見たまんまだけど。

 

「ナタリア! もう一度勝負だよ!」

「ふふん、受けて立ちましょう」

 

 一方、向こうの深いところではエステラとナタリアがすごい勢いで競争してる。

 エステラって負けず嫌いなのねぇ。見てたら分かるけど、ナタリアの方が泳ぎうまいし、絶対勝てないと思うんだけど。

 

「あ~、気持ちいい……」

 

 あたしはというと、川面に浮かんでぷかぷかと浮遊感を楽しんでいた。

 水が冷たくて気持ちいい。

 ここ最近、家の手伝いでバタバタしてたからなぁ……こうしてのんびり出来るのって貴重かも。

 

「もう少し涼んだら、ヤシロと遊ぼ~っと」

 

 折角、可愛い水着を着てるんだしね。

 正直なところ、あたしの水着が一番可愛いと思う。

 健康的だし、形も可愛いし、それに適度にセクシーだし。

 

 ロレッタやマグダのはちょっと子供っぽいし、ノーマやナタリアのはちょっとセクシー過ぎる。……ノーマとか、よくあんなの着られるよね? あたしには無理だなぁ。

 あんなに背中さらけ出してさ……恥じらいとかないのかな?

 

「なんだ、パウラ? 泳げないのか?」

 

 あ、この中で一番恥じらいがない人だ。

 

 デリアは、スタイルはいいんだけど、全然セクシーって感じしないんだよねぇ。

 なんでだろう……体は大人なのに中身が子供っぽいからかな?

 

「泳げないんじゃなくて、泳いでないだけだよ」

「なんなら、あたいが教えてやってもいいぞ?」

「だから泳げるって」

「オメロにもな、あたいが泳ぎを教えてやってるんだぞ」

「成果出てないじゃない!?」

 

 さっき見たわよ、膝くらいまでしかない場所で溺れかけてたオメロさん!

 ウーマロさんが必死に助け起こしてたわよ。

 

「デリアに教わらなくても、あたしは泳ぎ得意だから。もしかしたら、デリアよりうまいかもよ?」

「あはは! そりゃねぇーよ」

 

 むっ!?

 言っときますけどね、あたしは三歳から泳げたからね?

 そもそもイヌ人族は泳ぎが得意な人種なんだから!

 

「じゃあ、競争するか?」

 

 得意そうな顔で言うデリア。

 ふふん……そんな安い挑発に乗るのはちょっと癪だけど。

 

「面白いじゃない。じゃあ、あの飛び込み岩まで競争よ!」

 

 あたしたちがいる場所から、50メートルほど先に、高さ3メートルほどの位置に突き出した岩場がある。

 さっきからロレッタが取り憑かれたかのように飛び込みを繰り返している場所だ。

 ……何が楽しいのよ、あの娘? ホント、子供なんだから。

 

「おう、いいぞ。ハンデやろうか?」

「い・り・ま・せ・ん~!」

「でも、どーせ犬かきだろ?」

「普通の泳ぎも出来るわよ!」

 

 あたし、イヌ人族であって犬じゃないから!

 普通に泳げるし、普通に速いから!

 余裕かましてると、ぶっちぎりで勝っちゃうんだからね。

 見てなさいよ。

 

「んじゃあ、スタートの合図は……お~い、シスター! 合図もらっていいか~!?」

「は~い! では、準備してくださ~い!」

 

 川辺に腰かけて、川に足を浸けているシスターが手を振る。

 

「位置について~、よ~い、スタートです!」

 

 シスターの手が振られ、あたしとデリアは同時に泳ぎ出す。

 全力で飛ばす。けど、隣にはぴったりとデリアがついてくる。

 水の中で目が合った――

 

 ふふ、なかなかやるわね。

 

 でも、ここからが本番よ!

 

 腕に、脚に力を入れて水を掻く。

 それでもデリアはぴったりとついてくる。

 なによ、なかなかやるじゃない!

 

 ふふん、いいわ。デリアのこと、ライバルだって認めてあげる。

 けれど、最後に勝つのはあたしよ!

 

 

 最後5メートルを、あたしは全力で泳ぎ切った。

 

 

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

 いや~、パウラ速いなぁ。ウチのヤツらより全然速いかもしれないなぁ。

 すごいすごい。

 あと、泳いでる最中、チラチラこっち見てくるのがすごく面白い。

 あはは、なんでそんなこっちばっか見るんだよ? 前見とかないと頭ぶつけるぞ?

 

 あたいは、競争で勝つのも好きだけど、泳ぐならやっぱりこうやって一緒に泳ぐのが好きだなぁ。

 エステラやナタリアと泳ごうとしたんだけどさぁ、あいつらムキになるんだよなぁ。

 競争ばっかりしてたって疲れるだけなのになぁ。

 

 折角みんなで泳いでるんだから、一緒に泳げばいいのに。

 

 パウラはいいなぁ。

 あんまり遅過ぎるのも疲れるけど、速過ぎても水の中の景色が見えなくてつまらない。

 その点パウラはいい速さだ。

 

 こうやって、ゆったり泳ぐのも気持ちいいんだよなぁ~。

 

 ……っと。

 もうゴールか。

 

「ぶはぁ!」

 

 パウラが水面に顔を出して肩で息をしている。

 あはは。面白い冗談だなぁ。そんな疲れるようなスピード出してないのにな。

 

「あはは。パウラ、今の顔、もがく半魚人そっくりだったぞ」

「見たことあるの、もがく半魚人!? あと、それめっちゃ失礼だから!」

 

 見たことあるぞ?

 必死にもがく半魚人。さっきのパウラみたいな顔してた。

 

「それで、今のはどっちが勝ったの?」

「ん? さぁ。同時くらいじゃないか?」

 

 パウラに合わせて泳いでたし。勝ちたいなら、パウラの勝ちでもいいけど。

 

「もう! 決着つかないと気持ち悪いじゃない」

「そうか?」

 

 あたいはどっちでもいいけどなぁ。

 

「パウラさーん、デリアさーん!」

 

 頭上からロレッタの声がして、顔を上げた瞬間、ロレッタが3メートルの崖から飛び込んできた。

 ロレッタが川に入るのと同時に、盛大に水しぶきがあたいたちにかかる。

 

「わぷっ!? ちょっと、ロレッタ!」

「飛び込み気持ちいいですよ! パウラさんもデリアさんも一緒にやるです!」

「やらないわよ!」

「怖いですか?」

「怖いわけないでしょう!?」

 

 パウラって、エステラみたいに負けず嫌いだな。

 

「じゃあ、デリア。今度は飛び込みで勝負よ!」

 

 飛び込みで勝負?

 それ、どうやったら勝ちなんだ?

 

 まぁ、楽しそうだからいっか。

 

「おう、いいぞ!」

 

 ざぶざぶと川を泳いで、パウラとロレッタが川岸へ向かう。

 あそこから登って崖の上に行くのか……

 

「なぁ、そんなことしなくても、もっと楽に登れるぞ」

 

 回り道をしようとしている二人に教えてやる。

 もっと簡単に崖に登る方法を。

 

 まず潜る。

 深く深く潜って、そこから全速力で水面を目指し――

 

「水面から出た瞬間にジャンプ!」

「「飛んだっ!?」です!?」

 

 ザバッと川から飛び出し、崖の上に着地する。

 

「やってみろ」

「出来るわけないでしょう!?」

「飛び込みの逆をイメージするんだよ」

「イメージでどうこうできるレベル越えてるから!」

「トビウオだって、これくらいは飛ぶぞ?」

「残念でした! あたしイヌなんで!」

 

 結局、パウラとロレッタは回り道をして崖まで上がってきた。

 

「めんどくさくないか?」

「あたしたちが通ってきたところが最短ルートだから!」

 

 あたいのが、一番楽なんだけどなぁ。

 

「それじゃあ、一番水しぶきを上げられた人が勝ちにするです!」

 

 ロレッタがそんなルールを決める。

 水しぶきを上げるのかぁ……

 

「デリアがロレッタを川に叩き込めば物凄い水しぶき上がるんじゃない?」

「ん? やってみるか?」

「ダメですよ!? デリアさんに叩き込まれたら、たぶんあたし死ぬです!」

 

 あはは、大袈裟だなぁ。

 

「じゃあ、ロレッタ。まずはお手本を見せてみなさいよ」

「って、言ってる顔があくどいですよパウラさん! 絶対押すつもりですね!?」

 

 なんかパウラが楽しそうな顔をしている。

 はは、あたいも真似してみようかな。

 

「ロレッタ、押すからそこに立ってみろ」

「押すって宣言されて立つバカいないですよ!? もう、お二人は先に行ってです!」

 

 なんだよ~、面白そうだったのに。

 

「んじゃあ、あたいが最初に行くぞ! 派手に飛び込めばいいんだな」

 

 この川はあたいの遊び場だ。

 どんなことだって、ここでなら出来る!

 

 駆け出し、崖を蹴って、空中でくるくると回って、頭からざばーんっと派手に川に飛び込んだ。

 川の水があたいを出迎えてくれるように全身を撫でていく。

 いつもは反動が少ないように飛び込むけど、たまにはこうやってメチャクチャ反発されるのも気持ちいいなぁ。

 うん、新発見だ。これ、楽しいや。

 

「ぷはぁっ! お~い、これ楽しいぞ~! お前らもやってみろよ!」

「ってぇ!? デリアさん!?」

「ちょっ!? 手、上げちゃダメ!」

 

 ん?

 ロレッタとパウラがなんか焦った顔をしている。

 どうしたんだ?

 

「なんだよぉ? どーしたんだ?」

「気付いてないです!」

「あぁ、もう! ヤシロも、他の男の人もいるのに!」

「ん?」

「デリアさん、ぽろりしちゃってるですよ!?」

「バカっ、ロレッタ! 大きな声で言っちゃみんな見るでしょ!?」

「はぅっ、しまったです!」

 

 ロレッタがパウラに怒られて目を白黒させる。

 ……ぽろり?

 

「なぁ、ぽろりってなんだー?」

「あぁ、もう! あんたも声デカいのよ、バカっ!」

 

 その直後、パウラが大慌てで飛び込んできて、あたいの水着を引っ張り上げた。

 どうやら、飛び込んだ拍子にあたいの水着がズレていたらしい。

 

 あぁ、ぽろりっておっぱいのことか…………はっ!?

 

 慌てて振り返ると――

 

 

「くっ……なんなんだ、お前らのその一体感は!?」

 

 

 ヤシロが、店長とエステラとナタリアとマグダに取り押さえられていた。

 なんか、両目を物凄いいっぱいの手で塞がれている。

 

 ついでにノーマの方を見たら、ノーマの周りに両目を押さえて蹲る男たちが転がってた。

 

「ノ、ノーマ氏……気持ちは分かるでござるが……砂は、危険でござる……」

「無茶し過ぎッス……」

「オレら、親方のあぁいうのは、見ないように体に刻み込まれてるんだが…………」

「まぁ、線引きが難しかったからねぇ……仕方ないさね」

 

 なんか、向こうの方も大変だったみたいだ。

 

「デリア」

 

 肩で息をするパウラが、あたいの肩をむんずと掴む。

 

「泳ごう。今日はもう、とことん泳ぐわよ、付き合うから」

「お、おう。でも飛び込みももう一回……」

「泳・ぐ・わ・よ!」

「お、おぅ……」

 

 それから昼飯まであたいはずっとパウラと一緒に泳いだ。

 泳ぐの好きなんだなぁ、イヌ人族って。

 

 

 

 

 

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