異世界詐欺師のなんちゃって経営術

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宮地拓海
宮地拓海

226話 準備は上々、そして訪れる招待客 -1-

公開日時: 2021年3月23日(火) 20:01
文字数:2,669

 ウーマロが走り回っている。

 組み立てた屋台やら遊具の点検をして回っているようだ。それぞれの班ごとにリーダーを設け、そのリーダーとあれやこれやと打ち合わせを行っている。

 

「あれ。そういやグーズーヤは?」

「あぁ、あいつなら足漕ぎ水車の修理をしてるぞ」

 

 デリアが鉄板の火を見ながら教えてくれる。

 うわぁ、あいつデリアと一緒にいたい一心で水車修理やってるのに、『宴』本番で別行動とか……可哀想に。ぷっ。

 

「『頑張れよ』って言ったら『めっちゃ頑張ります』って言ってたし、帰ったら直ってるかもな」

 

 いや、可哀想じゃないな。きっと今頃「デリアさんが帰ってきた時に驚くような、完璧な修理をしておこう!」とかって、ばりばり働いてるんだろう。

 いいなぁ、患ってる連中。単純なことで力が発揮できて。

 

「ヤシロく~ん☆ 私、何か手伝うことあるぅ~?」

「水槽でも磨いてろ」

「は~い☆」

 

 水槽の中でちゃぷちゃぷしているマーシャ。

 なんの手伝いが出来るんだよ、お前に。

 

 人魚が珍しいのか、ガキどもがマーシャのそばに群がっている。

 微妙な距離感で。

 うん。実は、マーシャはそんなに子供受けしない。あいつ自身が子供みたいな感性だからか、バディが大人向けだからか……ま、たぶん、マーシャ自身が子供をそんなに好きじゃないんだろうな。

 ガキどもはそういうところ、敏感に察知するからなぁ………………じゃあ、なぜ俺に懐く!?

 

 まったく。理解不能だ。

 

「ヤシロさん。こちらの食材なんですが、ジネットさんは覚えがないとか」

「あぁ、それはこっちで使うもんだ」

 

 タケノコを持って教会から出てきたアッスント。

 そいつは俺がこっそり発注表に追加しておいたものだ。……くそ、ジネットに見られたか。あらかじめアッスントに言っておけばよかった。

 

「もしかして、店長さんが『少し多い』とおっしゃっていた物も、ヤシロさんが原因ですか?」

「原因とはなんだ。まぁ、その通りだが」

 

 こっそりくすねて別の料理を作ろうとしていたんだが……なかなか体があかなくてなぁ。

 とか思ってると、ミリィがとてて~っと俺のもとへと駆けてきた。何か用事がありそうな顔で。

 

「ぁの、てんとうむしさん。ぉ花ね、こっちにまとめて大きい飾りにしてみたぃ……ん、だけど、どぅ、かな?」

「ミリィの好きにしていいぞ。全権を委ねるから」

「ぁの…………ちょっと、不安だから、……意見、聞きたい、な」

 

 確かに、丸投げは逆にやりにくいか…………ふむ。

 ミリィの提案したレイアウトを脳内で想像してみる。

 まんべんなく同じ量を飾るよりも、メリハリが出て面白い仕上がりになりそうだ。

 

「よし、その感じで進めてくれ。きっとうまくいく」

「ぅん。ありがと、てんとうむしさん!」

 

 ぱたぱたと駆けていくミリィ。

 花は、ルシアの勅令を受けた三十五区生花ギルドからの多大なる好意によって十分な量をそろえることが出来た。

 花園からも少しもらってきている。

 会場入り口の、すごく目に付くところに飾られるそうだ。

 

 と、こっちが真面目に打ち合わせをしている背後では――

 

「アッスントさぁ、さっきのはダメだぞ。マネするならちゃんとマネしないと」

「マネ……ですか?」

「店長のマネしてたろ?」

「いえ、あれはマネではなく、伝聞と言いますか……」

「あぁいう時は、もっとこう、店長っぽさを出してだな……『ちょっと多いですぅ』」

「それジネットさんのマネですか!? 鳥肌が立つほど似てないですね!?」

 

 デリアとアッスントがなんか遊んでいる。準備しろよ、お前ら。

 

 俺たちから遅れて、ぱらぱらと集まってきた面々。

 こちらが用意したメンバーは勢揃いだ。急ピッチで準備を進める。

 

 俺も厨房を使いたいんだが……ジネットがいるからなぁ。

 とか思っていると、ジネットが教会から出てきた。

 

「ヤシロさん、お疲れ様です。こちらの準備はどうですか?」

「ん、あぁ。ウーマロが張り切ってるから大丈夫だろう」

 

 などとしゃべりながら、タケノコを背中に隠す。

 もうバレてるから意味はないんだが、なんとなく。後ろめたいというか……

 

「あの、そのタケノコなんですが」

 

 バレテーラ。

 つか、モロ見えか。ジネットの視線が俺の背後に向かったのが一発で分かった。

 ……はっ!?

 

「もしかして、俺が谷間をチラ見してるのって、こんな感じでバレてるのか!?」

「な、なんですか急に!?」

 

 なんてこった。

 相手が視線を動かすと、こんなにはっきり分かるのか。

 自分が動かす時は全然動いてないつもりなんだけど、眼球って意外と動いてるもんなんだな。

 

「俺はまた一歩、巨乳の真理に近付いたようだ」

「近付かないでください、そんなものに」

 

 などとくだらない話をしつつ、タケノコから意識を反らせる。

 タケノコのことは忘れてしまえ。……ほれ、アッスント。パスだ。こいつを持って厨房へ行ってこい。

 

「こちらは、どなたに?」

「マグダに頼む」

 

 耳打ちしてきたアッスントに小声で返す。

 去り際に「承りました。ヤシロさんには、麹工場で助けていただきましたからね」などと言葉を残すアッスント。

 おまっ……あの大恩とこんな些細な親切を秤に掛ける気か?

 なんてヤツだ。

 

「ヤシロさん。あのタケノコなんですが、一体何に……」

「お前の苦手な竹はもういない。もう気にするな」

「いえ、別に竹が嫌いというわけでは…………まぁ、最近苦手意識が芽生えてきましたけれど……」

 

 思わぬトラウマがジネットに芽生えていたらしい。

「でも、タケノコは好きですからね」と、どこ向けだか分からないフォローを入れてくる。

 とにかく、タケノコのことは忘れろ。

 

「あっ! お兄ちゃん、見つけたです!」

 

 両手と頬に白い粉を付けて、ロレッタが教会から出てきて、こちらに駆けてくる。

 ……うん。やらかしそうな予感しかしない。

 

「片栗粉と豚挽肉の割合なんですが……って、店長さんもいたです!? なんでもないです!」

 

 俺目掛けて走ってきたロレッタは、ジネットを見つけるや否やくるりと踵を返しそのまま教会へと逃げ込んでいった。

 ……まったく、アホの娘め。

 

「片栗粉と豚挽肉……? 麻婆茄子でも作るつもりなのでしょうか?」

「いやぁ、どーかなー、あはは」

 

 誤魔化そう。

 ジネットにいろいろ情報を与えると、独自に解答へたどり着いてしまうかもしれない。

 とにかく、ジネットの意識を料理から離すんだ。

 

「あれ、ジネット。髪切った?」

「へ!? い、いえ……あの、切った方が、いいでしょうか?」

「いやいや。今のままで十分………………じゃね?」

 

 危ない!

 誤魔化そう誤魔化そうという意識が先走って、うっかり「今のままで十分可愛いぞ」とか言いかけたじゃねぇか! どんなトラップだ。ジネット、パネェわぁ……

 

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