「よぉし! 一発ブチかましてやろうぜ!」
「「「「わははぁ~い!」」」」
デリアの大声に呼応する小さいガキ連中のバカデカい声が聞こえてくる。
着替えが終わったらしく、更衣室のドアが開け放たれる。
赤組もチビッ子をメインに持ってきたようだな。――と、デリアたちの方を見て、目が点になった。
「デ、デリア……その服」
「おう! いいだろう、これ!」
自信たっぷりに胸を張ったデリアが着込んでいたのは、学ランだった。
しかも、第三ボタンまで開けて大きく胸をはだけており、そのはだけた胸元に見え隠れする細く白い布は……まさしく『さらし』っ!
「ありがとう!」
「おっ、おぅ? な、なんか分かんねぇけど、どういたしましてだ」
なにこれ!?
夢?
え、俺何か知らないうちに世界のために貢献した? 誰が寄越してくれたご褒美?
「ふっふっふーっ。驚いたかヤシロ」
「いや、感動した!」
「いや、驚いただろ?」
「ううん、泣きそう!」
「な、泣くなよ。男だろ!」
「男だからこそ泣きそうなんだよ!」
「お、おぅ……?」
デリアのこんな姿が見られるなんて……いやもうカッコつけるのはやめよう!
学ラン巨乳、しかもさらし晒しちゃいましたバージョンが生で見られるなんて!
今日はなんていい日なんだ!
……でも、どこから学ランなんて発想が…………あっ!?
「気が付いたか、ヤシロ!」
「これ、もしかして……ウチの?」
そう。
デリアが着ている服装は、もともと白組でやるはずだった『農家と大工のアティチュード』で着用予定だった衣装とまったく同じなのだ。
応援合戦といえば学ラン!
学ランといえば硬派!
硬派といえばさらしとリーゼント!
というわけで、ウーマロとモーマットに学ラン&さらしを着させようと思っていたのだが……その衣装がまんまパクられている。
「ウクリネスに聞いたんだよ。『ヤシロはどんな衣装着るんだ』って」
「おい、ウクリネス!」
デリアたちの着替えを手伝っていたのであろう、赤組応援団の中に紛れていたウクリネスを引っ張ってくる。
「お前、商売人として情報漏洩は一番やっちゃダメなことだろうが!」
「えぇ、もちろん承知してますよ。……でもね?」
手の甲を口元に添えて、ウクリネスがこそっと耳打ちしてくる。
「情報を漏らした方が、ヤシロちゃんは喜んでくれると思って」
「ウクリネス……お前なぁ…………」
ウクリネスの肩を両手で掴み、真正面から顔を見つめてはっきりと告げる。
「ほんっと、天才だな!」
「ありがとうございます♪」
素晴らしいよ、ウクリネス!
この男くさい衣装は、美少女が着てこそ価値がある!
そこに気が付くなんて、こいつ元日本人なんじゃねぇのか!?
しかも、デリアのさらし! その巻き方の妙よ!
ぎゅっと締めつけておっぱいを潰すのではなく、適度に締めつけてむぎゅっと感を演出しつつもふわっと包み込み、肉感たっぷりなシルエットを美しく演出しているこの巻き方っ! 絶対ウクリネスによるものだ!
こいつ、神の申し子なんじゃないだろうか……拝んでおこう。
「お子様たちも、可愛いでしょう?」
「「「わ~い!」」」
諸手を挙げてはしゃぎまわる幼い少女たち。
デリアと同じく、学ランの第三ボタンまでをあけてさらしを露出させている。まだ『恥じらい』なんて言葉も知らないような無邪気な少女たちのこういう姿は実に微笑ましい。
こういう姿を邪な目で見るヤツは滅びればいいとさえ思ってしまうほど、こいつらは無邪気に笑っている。
「おぉーと、デビルアックスがぁ…………滑りました、わっ!」
ものっすごい助走をつけてイメルダが禍々しい斧を投擲する。
貴賓席が大パニックだ。……外交問題になるわ。まぁ、責任を全部ハビエルに押しつければいいか。
「お前ら、恥ずかしくはないか?」
「「「かっこいいー!」」」
ならよし。
いいんだいいんだ。これくらいのガキんちょは周りの目なんか気にしないで本能の赴くままに遊び回れば。
それを守ったり正したりするのは周りの大人の役目だ。
「まだ仕留められませんわね……どなたか、滑りやすい斧を持ってきてくださいまし!」
なにその物騒な斧。
親子喧嘩は他所でやってくれ。
まぁつまり、ガキはガキで好きにやればいいのさ。……俺は絶対関わらないけどな! メンドクサイから!
ガキどもを脅かす悪い大人は、怒れる木こりお嬢様みたいな人が排除してくれることだろう。うん。
「なぁ、ヤシロ。何が恥ずかしいんだ?」
「お前は何も恥ずかしくないぞ、デリア! むしろ最高だ!」
「さ、さいこう……か? あ、あたいがか!?」
「むはー! がんばるぞー!」と両腕を振り上げるデリア。
いいね!
いいよ、その動き!
すごくいい!
「あぁっ! 元気出るなぁ!」
「他所のチームの者が、我がチームの応援で元気になるな! 向こうを向いていろ、カタクチイワシ!」
ルシアにぐりんと体を強制反転させられる。
と、視線の先には学ランを身に纏った美少女と美女が。
「ぁう……ぁの…………」
「どう、でしょうか?」
ミリィとベルティーナが、ぶかぶかの学ランを着て、恥ずかしそうに胸元を押さえていた。
さらし!?
……では、なかった。
第一ボタンまでしっかりと留められている。
「ベルティーナ。第三ボタンまで開け……」
「この下は体操服ですよ」
……そうか。さらしじゃないのか。
「あの……変、ですか?」
普段は身に着けない真っ黒な衣装で、不安げにこちらを窺ってくるベルティーナ。
変かどうかなんて聞くまでもない。
「すごく似合っていて妙に可愛いぞ」
「か、可愛いだなんて……お世辞が過ぎますよ」
いやいや、ベルティーナ!
おそらくウクリネスの仕込みであろうそのぶかぶかの学ラン。袖が余りまくっているのなんかたまらなく魅力的だぞ。
「この服を着ていると、私でもデリアさんのように勇ましく見えますか?」
勇ましいだなんてとんでもない。
今のお前は、突然彼氏の部屋に泊まることになって着替えがないから男物の服を着て「ぶかぶかぁ……ふふ」って嬉し恥ずかしはにかんでいる初々しい彼女みたいに見えるぞ。
「ちょっと袖口をくんくんってしてもらっていいか?」
「袖口をですか? ……くんくん。……ふふ、嗅ぎ慣れない匂いがしますね」
「最高!」
「ふぇっ!? な、何がですか?」
その表情、その言葉のチョイス!
ベルティーナ。お前はやれば出来る娘だなぁ。うんうん。
そしてミリィは……
「もうちょっとお姉さんになると、サイズ合うようになるからな」
「みりぃ、もう大人だもん……!」
その拗ねた感じ! 狙ってやってるならお前は天才だ! なかなか出来るものじゃない!
なんつーの? こう、憧れの先輩の制服をさ、冗談で着せてもらって、「わ~い」とかはしゃぎながらも内心ドッキドキで、こっそり匂いとか嗅いじゃう妹系後輩女子、的な?
「ミリィ。『おっきぃ~』って言いながら袖口をぷらぷら揺らしてみてくれ」
「ぇ? ……ぇっと、こぅ、かな? ぉ……『ぉっき~ぃ』」
「連れて帰る!」
「ぅぇえ!? だ、だめ、だょぅ……!」
なんで!? こんなに可愛いのに!?
……あぁ、可愛いからか。
ミリィが部屋にいたら引きこもりになっちゃいそうだな。子猫を保護した時みたいな感じで。目が離せない、的な。
「うわぁ~、元気出るなぁ~!」
「だから、我がチームの応援で勝手に元気になるなと言っておるのだ! 眼球が腐れ落ちろ、カタクチイワシ!」
再び、ルシアの手によって強制的に反転させられる。
前方にさらし巨乳。後方に萌え袖。
なにここ? 極楽浄土?
「どーだヤシロ! 赤組の作戦は!」
「作戦ってのは、学ランか? 最高だ!」
「そうじゃなくて、あたいの考えたすっげぇ作戦だよ!」
デリアの考えた作戦とは……?
「その名も、『ヤシロの真似して大勝利作戦』だ!」
「俺の真似してどうすんだよ……」
「だって、ヤシロがやること真似したらうまいこといくだろ?」
それで、ウチが当初やろうとしていた学ランでの応援をパクり、かわいい隊が盛り上がったので急遽ガキどもを入れたというわけか。……ん? だとしたら、ガキどもの衣装はいつ手配したんだ?
という疑問をぶつけてみると。
「子供らは最初から参加する予定だったぞ。シスターがどうしてもって」
なるほど。
ベルティーナなら、小さいガキが参加できそうで、且つ勝敗に関係ないプログラムならそうしてほしいと言うだろうな。
チームリーダーが子供好きのデリアなら、すんなり受け入れられるだろう。
じゃあ、何がウチの真似なんだ?
学ランだけか?
「ウチも、ヤシロんとこを真似して、オッサンを全員解雇したぞ!」
チラッと赤組の方を見ると、学ランを着込んだ川漁ギルドと木こりギルドのオッサンたちが固まって体育座りをしていた。
……わぁ、バッサリだなぁ。
「……あとで、お披露目させてやれな? 折角練習したんだし」
「そうか? うん。ヤシロがそう言うなら、そうする!」
まったく。
デリアはウチと敵対関係にあるってこと忘れてんじゃないのか?
玉入れで共闘したからなぁ。
「いいか、ヤシロ! あたいたちはヤシロの真似をして、ヤシロたちに勝つ!」
「なんか違和感ないかその発言!?」
俺の真似をしてたら俺には勝てないと思うんだが……いや、デリアなら有無を言わさぬパワーで強引に勝ちをもぎ取るか……
ずるい。
「んじゃ、ヤシロ! あたいたち頑張って応援してくるから、応援しててくれよな!」
「応援のエンドレスループか!?」
「はわゎ、今、言おうと思ったのにー」
足元でハム摩呂がわなわな震えていた。
……なんだよ、言おうと思ってたって。別にいいだろうが俺が先に言っても。思いついちまったんだし。………………悪かったよ。悪かったからズボンの裾ぎゅっと掴んでうるうるした目で見上げてくるな。
「これじゃーまるで、応援の応酬だなー」
「はっ!?」
ヒントになるワードを与えてやると、ハム摩呂は「ぴこーん!」と頭上で豆電球が点灯したような顔をして、大きく息を吸い込んだ。
「応援の、往復ビンタやー!」
……うん。
俺がイメージしてたのとはちょっと違うかなぁ。こう、ラリーとか、そのまま応酬とか……いや、まぁなんでもいいんだけどよ。本人が満足そうならそれで。
そうして、デリア率いる学ラン美女軍団(大半がお子様少女)の応援が始まった。
デリア……は、きっと振り付けとか考えられないだろうから、オメロあたりが考えたのであろう、川での漁を模したダンスは観客に好評を博した。
なんか、ソーラン節を思い出したなぁ。小学校の頃踊らされたわぁ。
今度やる時は、創作ダンスとか、応援歌とか、そんなもんを取り入れても面白いかもしれないなぁ……なんてことを思った。
ん?
フォークダンス?
あんな風紀が乱れそうなもの、取り入れませんけど何か!?
……フォークダンスをきっかけに進展するカップルなんぞ、この街には必要ないのだ。あぁ、必要などないのだよ! ふん!
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