異世界詐欺師のなんちゃって経営術

分割版π(パイ)
宮地拓海
宮地拓海

146話 準備に大わらわ -1-

公開日時: 2021年2月23日(火) 20:01
文字数:2,710

「すべての費用はワタクシが持ちますわ! 盛大に催してくださいまし!」

 

 と、イメルダが全額負担すると言っていたのだが、その後――

 

「イメルダに内緒でボクも少し出すよ。イメルダが想像している以上に豪華なパーティーにして驚かせてやろう」

 

 と、エステラが追加予算をくれた。

 正直、バレバレの状態からスタートしたサプライズ企画に頭を悩ませていた俺にとっては渡りに船だった。

 しかもエステラは、下水関連での儲けと、大食い大会以後跳ね上がった四十二区の税収分からかなりの金額を出してくれた。予算が二倍になった。

 

 これでかなりのことが出来そうだ。

 ……なんだが…………サプライズかぁ……

 

 すげぇ準備している様だけを見せておきつつ、本番になっても開催しない!

 とかなら、きっと「えぇっ!?」ってなるとは思うんだが……そういうことじゃないだろうしなぁ……

 

 とりあえず、やれることは片っ端からやってみることにした。

 

「というわけで、お前たちに集まってもらったのは他でもない。この企画書を見てくれ」

 

 言いながら、俺は集まったメンバーに企画意図から完成予定図、寸法等、こまごまとしたものがびっしり書かれた紙を渡す。

 分担作業になるから、間違いのないように丁寧に書き込まれた紙を各人に渡すのだ。

 

「いい紙ですね、英雄様」

「予算が多いからな。重要書類は不備がないようにした」

 

 セロンが上質の紙を指で撫で、嬉しそうに目を細める。

 この街は、紙ですらもピンキリなのだ。今回の企画書は、高級紙というほどではないが、上質紙に分類される白い紙を使用している。

 

「紙もさることながら……よくもまぁ、こんなもんまで作ったねぇ……」

 

 ノーマが完成記念パーティー実行委員会館(簡素な平屋建て@ウーマロ作)の壁をコツコツ叩きながら言う。

 ウーマロを一晩レンタルして作り上げた建物だ。

 十六畳ほどの広い会議室に、その隣に六畳ほどの個室が二つ。そして、水洗トイレが男女用で各一個ずつ設けられている。

 やっつけにしては立派過ぎる会館だ。

 

 小部屋は、会議に参加しない者の控室的役割を果たす。

 

 会館が立っている場所は木こりギルド四十二区支部のすぐそばで、ここで準備したものがすぐに運べるようになっている。サプライズゲストを待機させておいたりな。

 

 きちんと施錠が出来るようになっており、秘密の企画内容を覗かれる心配はない。

 陽だまり亭でミーティングなどしていて、イメルダに見つかったりするのは避けたいからな。

 

「それでヤシロ氏。拙者はいつまでにこれを完成させればいいでござるか?」

「本番の前日には完成させておいてくれ。それを使ってやらなければいけないこともあるから」

「ふむ……心得たでござる」

 

 胸を張りベッコが了承してくれる。

 これで、サプライズその一は完了だ。

 

「新しい金型かぁ……腕が鳴るさね」

「僕も、従来品をさらに改良しておきましょう。当然、この企画に当てはまる大きさに仕上げますよ」

「拙者、意気込みはバッチリでござる! 必ずや、完成予想図をはるかに上回るものを創り上げてみせるでござる!」

 

 意気揚々と、三者は会館を出ていく。

 ここでダラダラおしゃべりをしている時間は、もはや誰にもないのだ。

 これは、四十二区……いや、俺に関わってしまった連中全部を巻き込んだ一大プロジェクトなのだ!

 

「もう入ってもよろしいんですか、ヤシロちゃん」

 

 次に入ってきたのはウクリネスだ。

 こいつは、祭りごとには欠かせない、最重要人物だ。

 

「次はどんな服を作るつもりですか?」

「これらだ!」

「まぁ、こんなにたくさん…………」

「時間がないが間に合いそうか?」

「ヤシロちゃん……見てください、私の手を…………」

 

 ウクリネスの手は、プルプルと震えていた。

 

「プレッシャーか? だったら、種類を減らしても……」

「いいえ。違いますよ、ヤシロちゃん」

 

 興奮気味に鼻の穴を広げ、頬を紅潮させて、瞳を爛々と輝かせて、もこもこのウールを一回りほど大きく膨らませて、ウクリネスは言う。

 

「楽しみなんですっ! ヤシロちゃん風に言えば……『超楽しみだぜ!』ですよ」

「俺、そんなイメージか?」

「あ、こうしちゃいられません。このデザイン画と型紙、いただいていきますね!」

 

 紙束をひったくるようにして、ウクリネスは急ぎ足で会館を飛び出していった。

 さて、完成が楽しみだ。

 

「ぁ……てんとうむしさん。入って……ぃ~い?」

「おぉ、ミリィ! 待ってたぞ」

 

 このように、この会館には次から次へと人がやって来る。

 今日は朝からずっと誰かしらとミーティングをしていた。

 が、今日はここまでだな。

 

「一緒に四十区へ行ってくれるか?」

「ぅん。四十区で何をするの?」

「アリクイ兄弟と一緒に花を集めてほしいんだ。あの広い敷地を、美しい花で彩りたい。出来れば、イメルダが歩く道の両サイドにも花を敷き詰めたい」

「ゎぁ……それ、すごくきれい……みりぃに任せてくれるの?」

「あぁ。配置や種類も全部お任せだ。アリクイ兄弟は助手として好きに使ってくれていい。……許可は取ってないが、拒否はさせない」

「ぅふふ……ぅん。じゃあ、がんばるね」

 

 そんなわけで、俺は会館の中を片付け、しっかりと施錠をして、慌ただしくも四十区へと向かった。

 

 パーティーまであと四日。やることは多い。

 

「じねっとさんたちは?」

「陽だまり亭の面々と、領主チームは、昨日丸一日を使ってあれこれ話し合ってたんだ。これから最終日までは別行動だな。料理は完全にジネットに丸投げだ」

「ぅふふ……じねっとさん、張りきってそう」

「あぁ、すごいぞ。あんなに鼻息の荒いジネットはそうそう見られるもんじゃない。今度記念に見ておくといい」

「ぅふふ…………鼻息なんて、じねっとさん吹かないよぅ」

 

 くすくすと笑うミリィ。その向こう側に広がる大きな畑の中からモーマットが大きく手を振って俺たちに声をかけてきた。

 

「ヤシロー! すげぇ甘いカボチャが出来たんだ! パーティーで是非使ってくれ!」

「今渡されても荷物になるんだよ。陽だまり亭に届けて、ジネットに言ってくれ」

「なんだ、出掛けるのか?」

「ちょっと四十区までな」

「そうか。気を付けろよ」

「ガキかよ、俺は」

「俺から見りゃまだまだガキだよ」

 

 デカい口でニッと笑い、綺麗に並んだ牙を見せつける。

 

「んじゃ、早く帰ってこいよ」

 

 ……こいつは、また。

 

「おう。すぐ戻るよ」

「ヤッ…………お、おう! じゃあ待ってるからな!」

 

 たったそれだけの言葉がよほど嬉しかったのか、モーマットは今にも泣きそうな顔で笑いながらぶんぶんと腕を振り回した。

 

 それくらい、いくらでも言ってやるよ。

 

 ……パーティーまでは、ここを離れるわけにはいかないからな。

 

 今は、寂しがりモーマットに構っている時間はないのだ。

 やることが山積みだからな。

 

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