異世界詐欺師のなんちゃって経営術

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宮地拓海
宮地拓海

34話 海漁ギルドとの取引 -4-

公開日時: 2020年11月2日(月) 20:01
文字数:1,761

 マーシャとそんな会話を交わし、俺は床に投げ出されている網を抱えて中庭へと向かう。

 中庭には、広いスペースと水、そして桶がある。

 ……ふふふ。

 

「よっしゃぁー!」

 

 思わず叫んだ。

 そりゃそうだろう。

 なんたって、ずっと欲しかったものが手に入ったのだ。その権利も手に入れた。

 ここで歓喜の声を上げずに、いつ上げるのだ。

 

「……ついに手に入れたぞ…………昆布っ! そしてワカメェェェエエッ!」

 

 そう!

 この網には海藻がびっしりと絡みついているのだ。

 ワカメに海藻、オゴノリなんてものまである。うまくやれば、オリジナルのノリだって作れるかもしれない。

 何より、昆布の存在が大きい!

 これで、出汁が取れるっ!

 

 俺の本当の狙いはここにあったのだ。

 

 海の魚も悪くはない。だが、その希少性からどうしても値が張ってしまう。

 そうなれば、陽だまり亭では売りにくい。

 海魚はあくまで客寄せ程度の役割を果たしてくれればいい。

 

 だが昆布、こいつは違う。

 スープに、煮物に、出し巻き卵にと、どんなものにでも合うのが出汁だ。

 そして、料理の味を決めるのもまた出汁なのだ。

 この街で出汁といえば肉を使ったものが主流なのだ。味が濃厚で口にしたものを虜にする力強さがある。しかし、食べ続けるとどうしても重たくなってしまう。

 だが、昆布出汁のあっさりとしながらも風味豊かな出汁は常食するのにちょうどいい。

 目立たないけれどそばにいてほしい。そんな料理にぴったりなのだ。

 それは、毎日食べたくなる料理ということであり、陽だまり亭が目指すべき味なのだ。

 

 俺はこの網を見た瞬間思ったね。「この昆布とワカメ、超欲しい!」と。

 海藻ならゴミ回収ギルドで買い取ることも可能だったろう。

 なにせ、行商ギルドが言っていたのは『魚を売るな』なのだから。海藻は範囲外だ。

 

 しかし、この世界における海藻は、価値の無い『ゴミ』なのだ。

 

 誰も買わないようなゴミをお金を出して買い取るのがゴミ回収ギルド設立時の理念ではあるが……人がいらないと捨てる物にまで金を出してやる必要はない。

 持ち主が所有権を放棄してから拾得すればいいのだ。そうすればタダだ。

 おまけに、海魚という『報酬』までついてきた。

 元手無しで、大量の海藻と海魚の両方をゲットできたのだ。

 

 叫ばずにいられるか!

 

 これで、ワカメのお味噌汁が飲めるのだ!

 炊きたての白米に続き、俺は日本人の心をまた一つ取り戻したのだ!

 

 ワカメの味噌汁こそ、日本人の魂なのだ! ワカメ最高!

 

 これはひょっとしてあれか?

 デリアの制服姿が、日本の国民的アニメのパンツ全開妹にそっくりだったからか?

 だからワカメが向こうから舞い込んできてくれたのか?

 

 で、あるならば、その功績を称えておいてやるべきだろう。

 

「デリアのパンチラ最高ー!」

「ふぁっ!?」

 

 叫んだ瞬間、背後から奇妙な声が聞こえた。

 

 ……いや~なタイミングだなぁ……絶妙のタイミングとも言えなくもないが…………

 

 恐る恐る振り返ると…………デリアがいた。

 その向こうにはジネットにエステラも……

 

「ヤ、ヤシロ……」

 

 デリアの顔が、これまで見たことがないほど真っ赤に染まっている。

 

「や……違…………これは、あの……アレだ…………いい、意味でだ」

「ヤシロの、エッチぃ!」

「『グー』っ!?」

 

 デリアの拳骨が脳天に打ち下ろされた。

 そこは、突き飛ばすとか、いっても平手とかじゃないか?

 グーはないだろう、グーは……

 

 真っ赤な顔で駆けていってしまったデリア。だが、俺は「待て!」とか「誤解だ!」とか、そんな悠長なセリフを吐いている余裕などない。口を開けば泣いてしまう……痛い。とにかく痛いのだ。…………ヤバい、泣く。

 

 そんな時、蹲る俺にスッと手が差し伸べられた。

 顔を上げると、それはやはりジネットのもので…………あぁ、お前はホントに優しいな。こういう時に優しくしてくれるのはジネットだけで……

 

「ヤシロさん。……懺悔してください」

 

 手首を掴まれ、俺はそのまま教会へと連行されていった。

 店が一段落する時間であったこともあり……俺は小一時間、教会の懺悔室に缶詰めにされたのだった。

 

「国民的アニメのパンチラは全然エロくないのでセーフだと思いました」と正直に告げたところ、ベルティーナは「よく分かりませんが……ヤシロさんは、何かの末期なのだと思います」と、残念な子を見るような目で見られてしまった。

 

 ……不服だ。実に不服だ。

 

 

 

 

 

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