「そ、それで、みんなで何してんの? あっ、これ! あんドーナツ!?」
白々しく、ワザとらしく、パーシーがトレーの上のあんドーナツを指差す。
どうせ、そこにかかってる粉砂糖は自分が作ったとか、そんな押しつけがましい自慢がしたいんだろう。
「実は、この周りの砂糖、粉砂糖っていって、このために俺が作ったんよ、実は、ここだけの話、ぶっちゃけ!」
「うん。知ってる」
「え……っ、こんな甘くて美味しいものを……す、すごい……素敵過ぎる」
パーシーの自慢に対しても、ネフェリーとバルバラは対極な反応を見せる。
軽~い返事のネフェリーに、ガッツリ食いつくバルバラ。
けど、パーシーの意識は完全にネフェリーの方に向いてんだよな。
「つまりなんつーの? この砂糖って、オレの情熱と、努力と、あ……愛? つーの? そういうのの結晶なわけ!」
自分で言って自分で照れたらしいパーシーが「うきゅっ!」っと両手で顔を覆い隠す。
可愛くねぇぞ、アホタヌキ。
「ホント、パーシー君って砂糖に一所懸命だね」
「そりゃもちろん、砂糖とオレは一心同体みたいなもんで…………ほぉわぁああ!?」
ネフェリーの顔を見たパーシーが奇声を上げる。
何事かと見ていると、わなわなとわなないて。
「オ、オレ、オレの化身が……一心同体の砂糖が、ネフェ……ネフェリーさんのクチバシに……っ! こ、これって、もはや、完璧に間接キッ……」
言い切る前に床に倒れ込んだ。
おーい、ロレッタ。外に掃き出しといて。
「あ、砂糖がついてるのね。取ろうとしたところにパーシー君が入ってくるから驚いちゃって……もう、恥ずかしいからあんまり見ないで」
女子らしい恥じらいを見せるネフェリーに、都合のいい脳内変換がなされたのであろうパーシーが極楽浄土観光ツアーにでも出かけたかのような満たされた顔で意識を失う。
おーい、ロレッタ。埋めといて。
「……もう。ほんっと、バカ兄」
呆れきった妹の声に激しく同意する。
と、妙に大人しくなったバルバラがぷるぷると震えていた。
「い、一心同体…………って、たしか、シスターが言っていた、『それもう、本人と一緒』って意味の言葉だから……つまり、この砂糖は、パ、パーシー、さんと一緒で……じゃ、じゃあ……く、くちっ、唇についた砂糖って……キ……キッ…………キッ……っ!? ……ふぅ」
「ちょっ!? バルバラ!? 大丈夫!? ねぇ! バルバラ!」
パーシーと同じ妄想をして、バルバラが座ったまま倒れてテーブルにしこたま頭をぶつける。
おぉ……すげぇ音したな。
あぁ、ネフェリー。そんな心配しなくてもいいから。心配するだけアホくさいぞ。
「おいこら、バルバラ。気絶してないで、お前もさっさと舐めとれ」
「なっ、舐め……っ!? 変態か、英雄!」
「変な妄想してるお前に言われたくねぇわ」
「し、してねぇよ!」
「『精霊の……』……」
「悪かった! してた! 人に言えない変な妄想しててゴメン!」
「ダメです、バルバラさん! 乙女として、そこは認めてはいけない領域です!」
真っ赤な顔でごしごしと口周りの砂糖を袖で拭うバルバラ。
粉砂糖がパラパラと床に落ちると同時に、パーシーがあの世から戻ってくる。
「ん……あ、いっけね。幸せ過ぎて死ぬところだったし」
今度は、往復チケットじゃなくて片道チケットで旅立てよ☆
「あっ、そだ! ネフェリーさん! あんドーナツ、一緒に食べませんか? オレも食べたいなーとか思っちゃって、これが!」
生き返って即ちょっかいかけるとか、お前は節操がないな。モリーの目がすげぇ冷ややかになってるぞ。
「でも私、今一個食べたところだし……」
二~三個くらい食うつもりでいたのであろうネフェリーだが、異性にそう言われて「よし食べよう!」とは言いにくいらしい。
そういう恥じらいが女子力の根源なのかもしれないな。
だが、空気を読まないチャラタヌキはデリカシーの欠片もなく甘いものを勧める。
「これ、チョーうめぇから三個くらい余裕っしょ!」
「よっ、余裕! アーシ、いっぱい食べる!」
二個完食したバルバラが、さらに両手に一個ずつあんドーナツを掴んで頬張り始める。
そういえば、バルバラは教会でパーシーに「美味しそうにいっぱい食べる娘が好き」みたいなこと言われたんだっけな。
「ささ、ネフェリーさんも!」
「でも、あんまり食べると、……太っちゃうし」
「そんな! ネフェリーさんは全然大丈夫っしょ! マジで!」
「いや、そういうことじゃなくて……」
パーシー。それはダメだ。
女子は男に「平気」とか言われても一切嬉しくないんだよ。
女子のダイエットはな、自分との戦いなんだよ。
仮に敵がいるとしても、それは自分以外の『女子』だ。
男がそこに口を挟むのはマナー違反なんだぞ。
こういう時は、『沈黙』が正解だ。
もっとも、そういうのを気にしない『女子』もいるわけで……
バルバラはパーシーの肩をもって擁護にまわった。
「そうだぞ、ネフェリー! パーシーさんはな、いっぱい食べる娘が、す、好きなんだぞ! 太ったっていいんだ! むしろ太い方が……ね、ねぇ? ですよね!?」
「え? あ~……いやぁ、やっぱ太ってる娘はちょっと……」
「えぇええ!?」
バルバラが劇画タッチに変化していく。
そりゃそうなるよな。
「いっぱい食べる娘が好き」とか言いながら「痩せてる方がいい」とか、じゃあお前の理想のタイプは胃下垂かよってなるよな。
もしくはカロリー消費するために食べてる時以外ずっと走ってるような娘か? ハムスターかよ。ハムスターでも太るけどな。
「ほらぁ! 男の子って、なんだかんだ言って痩せてる娘が好きなんでしょ!?」
「いや、違っ、……まぁ、違くはないかも、だけど……」
パーシーの発言に、今度はネフェリーが頬を膨らませる。
…………頬!? え!? ニワトリに頬!?
「け、けど! ネフェリーさんは全然痩せてっし! つかむしろ、理想的なスタイルっつぅか……あぁ、いや! 下心とか抜きで! 変な意味じゃなくて!」
「パーシー君の言うことは、ちょっと信用できないかなぁ……」
「そんな……ぁ」
ネフェリーにじとっとした目で見られてパーシーの顔が真っ白になっていく。
ネフェリーは、デリケートな領域に踏み込まれたことでご機嫌斜めなようだ。
パーシー。悪いことは言わない。
もう何もしゃべるな。
挽回しようとすればするほど底なし沼にハマっちまうぞ?
「けど! マジで、ネフェリーさんは全然っ、つかむしろいいっつぅか……」
「もういいよっ、そんなに気遣わなくても」
「モッ、モリーなんて、砂糖の研究のためだって甘いものばっか食ってるから、最近マジで太ってきてんだから!」
……あ。
パーシー、お前……
俺の背後で、小さぁ~い声で「……は?」って声が聞こえた。
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