異世界詐欺師のなんちゃって経営術

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宮地拓海
宮地拓海

無添加44話 お弁当お弁当嬉しいな -1-

公開日時: 2021年4月1日(木) 20:01
文字数:2,902

「ジネットちゃ~ん! おなかすいた~!」

「はい。お弁当たくさん用意してありますよ」

 

 午前の競技が終わり、大会委員長(エステラ)が休憩宣言を行った。

 その足で、壇上からジネットのもとへと直行したエステラ。道すがら、青色の鉢巻を取り外していた。チーム関係なくお昼は一緒に食べたいという思いの表れか……いや、飯を集りたいだけだな、アレは。

 

「食いたければ金を払え!」

「なんでさ!? いいもん、『店長』に直接交渉するから」

 

 このやろう、なんて卑怯な。

 

「いいじゃないですか、ヤシロさん。みなさんに食べてもらえば」

 

 ニコニコ顔で、あまりに巨大な弁当箱を取り出してはレジャーシートの上に広げていくジネット。

 

「これはいわゆる、アレです。宣伝ですよ、ヤシロさん」

「宣伝?」

「はい。これまで陽だまり亭のお弁当に触れたことがなかった方に、お弁当はこういうものだと、こんなに美味しいんだと、外で食べる冷めたご飯も美味しいんだなと、そういうことを知ってもらえば、もしかしたらお弁当の発注が増えるかもしれないじゃないですか」

 

 驚いた。

 ジネットがそんなことを言い出すなんて……

 こいつは「必要な方が、必要な時に、必要としてくださればそれでいい」みたいなところで思考が止まっているのだとばかり思っていたが……ちょっとずつでも成長しているんだな、ジネットも。

 

「まぁ確かに。食堂や屋台での売上はそこそこいいんだが、弁当の売れ行きが伸び悩んでるんだよなぁ。うん、これはいい機会かもしれないな」

 

 そう言うと、ジネットがおかしそうにくすくすと笑った。

 何がそんなに面白いんだか。

 

「楽しみ思う、私も、友達のジネットのお弁当が」

「冷えた料理はイマイチだという私の固定概念を覆したジネぷーのお弁当だ。今日はどんな物が入っているのか非常に楽しみだな。さぁ、食べさせてもらおうか。あ~んだ、ジネぷー、あ~ん」

「ベッコさん! まだ蓋は開いていませんが、これの食品サンプルもお願いしますわ」

「この量をでござるか!?」

 

 なんか、他所のチームからわらわらと人が集まってきた。

 急に曇ったなぁと思ったら、背後にメドラが立っていた。入道雲みたいに太陽光を遮り、興味深そうに弁当を覗き込んでいる。

 

「なるほど、こいつが噂の『お弁当』だね。マグダが隠して食べているところを何度か見たが、中身を見るのは初めてだね」

「是非味も見てくださいね」

「自信に満ち溢れた表情だね。楽しみだ」

 

 ドッカと、俺の隣に腰を下ろし、弁当のご開帳を心待ちにするメドラ。……狭い。

 

「……残念ながら、ヤシロはこちらのチーム」

 

 ひょ~いと俺を抱え上げて、マグダが俺を連れ去る。

 すたすたと、ジネットの隣に。

 

「なんだい、マグダ。休憩中にチームなんて関係ないだろう?」

「ちっちっちぃ~ですよ、メドラさん」

「……ヤシロは」

「お兄ちゃんは」

「「陽だまり亭チーム」です!」

 

 というわけらしい。

 まぁ、メドラの隣より、こいつらと一緒の方が楽だな。風通りもいいし。

 

「まぁいいさ。……アタシも、ダーリンの隣じゃ、緊張して食欲が落ちちまうからね……きゃ」

 

 うはぁ……俺まさに今、食欲減退中……

 

「ささ、ヤシロさん、ジネット。早くお弁当を開けましょう。みなさん、もう待ちきれないようですよ」

 

 と、明らかに待ちきれない様子のベルティーナがジネットの隣で催促してくる。

 あぁ、あのポジションが一番取り分けしてもらいやすいもんな。さすが母親、よく分かってるわ。

 

「シラハさんもオルキオさんも、ムムお婆さんたちも是非どうぞ」

 

 ジネットが手招きをして、顔見知りたちが集まってくる。

 

「ジネットちゃん、私もお呼ばれしてもいいかしら?」

「もちろんです、マーゥルさん。シンディさんも」

「お気遣い感謝します。もぉ~ほんっと、ジネットちゃんは私の若い頃にそっくりです。気が利いて、可愛くて」

 

 あぁ、惜しい!

 シンディに『精霊の審判』が使えないのがホントに惜しい!

 絶対カエルに出来るのに!

 

「ウチのイネスが世話になっているようだからな、特別に食事の席を共にしてやろう」

「マ、マーゥ……ミズ・エーリンがいるならワシも……いや、陽だまり亭には何かと縁があるのでな。ワシも相伴に預かるとしよう」

「リベカさんと一緒にランチ……あはぁ、幸せだなぁ!」

 

 おまけに、呼んでもいない連中まで集まってきやがった。

 ゲラーシーにドニスにフィルマン……おぉ、こうして見るとまともな貴族が一人もいない。

 

「エステラ様っ、このトレーシー、当然ご一緒します!」

「ネネもおります!」

「「それはそうと店長さん、本日は何卒お手柔らかに……」」

「あ、あの。そんなに怯えないでください。何もしませんから。ね? ね?」

 

 トレーシーとネネの心には、根深い傷が刻み込まれちまったんだなぁ。

 ジネットが扱いに困る珍しい人種だ。大切にしよう。

 

「なんか、物凄い面子が揃ってない、ここ?」

「う、うん。ちょっと、近寄りがたいよね……」

「ぁの、みりぃたち、ここにぃてもいぃ……の、かな?」

 

 あまりにも濃い連中が殺到したせいで、パウラやネフェリー、ミリィが気後れしてしまっている。

 こら、美女(と鶏)が怖がってんだろうが。どけ、不良領主ども。

 

「あらぁ、結構大きなレジャーシートを作ったんですが……足りませんでしたかねぇ?」

 

 ウクリネスが大渋滞のレジャーシートを見て苦笑を漏らす。

 今回使用しているレジャーシートは、ウクリネス特製超特大ラグ(通称レジャーシート)なのだが、サイズ的にはカーペットと呼べる代物だ。

 それがぎゅうぎゅうになってやがる。

 

「うふふ~、領主にギルド長がい~っぱいだねぇ☆ ヤシロ君の功績かもね☆」

「領主とギルド長のおっぱいが俺の功績? じゃあフリーチケットでもくれよ」

「あれあれ~? 何かを誤魔化したい感じなのかなぁ~☆」

 

 ふん。マーシャめ。

 まるで俺のせいでこの濃いメンバーが集まってきたかのようなミスリードをしやがって。

 他区の領主連中が群がってくるのは、エステラがこの奇妙な連中に懐かれているせいだ。

 

「こいつら全員、ぺったんこマニアなんだよ。……あ、言い間違えた。エステラに懐いてるんだよ」

「何をどう言い間違えたらそうなるのかな!?」

「ん? 説明してやろうか? まずエステラの胸が……」

「いらないよ! いろんな要人が同席しているんだ、口を閉ざしたまえ!」

 

 マグダとロレッタが配り歩いている小皿と箸を握ってエステラが抗議してくる。

 お前が聞いてきたくせに……

 

「おい、トラの娘。俺にも小皿を寄越せ」

「……あ、リカルド…………200Rb」

「なんで俺だけ有料だ!?」

「……領主様特別価格」

「特別扱いの仕方が間違ってるぞ!」

 

 リカルドもちゃっかり混ざってやがる。

 けどまぁ……

 

「そういう制度なら仕方ない。エステラ、200Rbだそうだ」

「リカルドからもらっといて」

「おい、ふざけんなよエステラてめぇ!?」

「『BU』は一蓮托生だから……まとめてゲラーシーに」

「ふざけるなよ、オオバヤシロ!?」

 

 けち臭いこと言うんじゃねぇよ、200Rbくらいで。

 は~ぁ、まったくせせこましい領主どもだぜ。

 

「せせこましい……」

「謎の言葉で非難するな!」

 

 謎なもんか。

 見ろ、レジーナは「確かになぁ」みたいな顔してんじゃねぇか。

 

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