異世界詐欺師のなんちゃって経営術

分割版π(パイ)
宮地拓海
宮地拓海

85話 引きの力 -3-

公開日時: 2020年12月21日(月) 20:01
文字数:2,395

 マグダとデリアを中心にワイワイと盛り上がり始める一同を置いて、俺は厨房に入る。

 そして、下ごしらえしておいた材料を引っ張り出してくる。

 ガキのデコに貼れそうなサイズの小さいハンバーグに、ポテトサラダ。そして、エビフライだ。

 この世界では、エビやカニ、タコやイカというものはあまり食されないらしい。一部地域の者が好んで食べる程度だと、アッスントが言っていた。それ故に漁獲量が少なく出回っていないと……

 だが、こっちにはマーシャがいる。ちょっと多めに捕ってきてと頼めば「いいよぉ~☆」と大量に捕ってきてくれるのだ。

 競り合う相手がいないから、それらはほぼ陽だまり亭へと卸される。お好み焼きとかやってるから非常に助かる。

 で、エビフライを思いついたわけだ。硬くて凶器にしかならないパンも、パン粉にしてしまえば、歯ごたえのしっかりしたいい味を醸し出してくれる。サックサク、いや、ザックザクの新食感だ。微妙に嵌る味で、俺はちょっと気に入っている。

 で、飯なのだが。

 最初はオムライスもありかなと思ったりもしたのだが……薄焼き卵は微妙に難しく、注文が殺到すればきっと重荷になる。

 そこで、まとめて作っておけるエビピラフにしたのだ。バターとコンソメがあればフライパンでささっと作れる。どうせ食うのはガキだ。本場の味を追求する必要もない。なんちゃってピラフで十分だ。

 

 それに、ピラフでないと『アレ』が映えないしな。

 

 というわけで、昨日の晩にいそいそとこしらえた、俺特製お子様プレート(屋台の形)に料理を盛りつけていく。

 屋台といえば、この四十二区ではウチの二号店と七号店なのだ。とりわけ、ポップコーンを売っている二号店は子供に大人気だ。その形を模したプレートに盛りつければ、この区のガキどもは泣いて喜ぶって寸法だ。ふふん、チョロいぜ、ガキども。

 

 肉と野菜をバランスよく、且つ、見た目に楽しく華やかに。

 もう二度と、食い残しなんてさせねぇ。

 ……ガキの食い残しを見て寂しそうな顔をしていたジネット。あいつはあんな顔しなくていいんだ。いつだって、バカみたいに笑ってれば、それでいいんだよ、あいつは。

 

「ふん……別に、だからなんだってことはねぇけどよ」

 

 俺以外誰もいない厨房でひとりごちる。

 なんで独り言なんか言ってんだかな、俺は。

 

「さぁ、出来た出来た。試食だ試食」

 

 単純な話で、独り言が嫌なら一人でいなければいいのだ。実に分かりやすい、明確な解決法ではないか。

 

 出来たお子様ランチを持って、俺は食堂へと戻る。

 と、そこには――

 

「はぁ~…………ハニーポップコーンとは違う美味しさがあって……これはこれで、幸せの味ですねぇ」

 

 ――ベルティーナがいた。

 

「……なんでここにいる?」

「こちらの方から、とてもいい香りがしましたもので」

「犬か!? いや、犬もビックリだ!」

 

 どんな嗅覚をしてんだ、こいつは!?

 

「ぽりぽりぽり……ヤシロさん。酷いですよ。私に内緒でこんな美味しいものを……ぽりぽり……」

 

 もう、こいつには何を言っても無駄なのだ。さすがに俺も学習した。

 無駄な労力を使うだけバカを見るのだ。

 ……もう、好きにしろ。

 

「くすくす」と、ジネットが嬉しそうに微笑んで俺を見ている。

 

「まるで親子のようですね」

 

 ……え、俺が親?

 このエルフ、確実に三桁生きてるんですけど?

 

「ぽりぽり……生涯扶養家族です……ぽりぽり」

 

 恐ろしい宣言をするんじゃない。このエンゲル係数アッパーめ。

 

 とりあえず、ベルティーナが座っているテーブルだけは避けて、お子様ランチのお披露目をする。

 テーブルにお子様ランチを置くと、「わぁっ」だの「おぉっ」だの「いただきますっ」だのという声が漏れた。……おいっ、誰かベルティーナを押さえつけとけ!

 

「これが、お子様ランチなんですねっ!」

 

 大きな瞳をキラキラと輝かせて、ジネットが俺とお子様ランチを交互に見る。

 

「かわいいです……っ!」

 

 後半が声になっていない。それほどまでに感激したのだろう。……ちょっとオーバーだけどな。

 

「確かに、これなら子供は大喜びしそうだよね」

「……いろいろ見るべきところがあって、飽きない」

「こ、これ、これって、全部一人で食べるですか!? こんなの、無敵ですよ!?」

「う~ん……さすがの焼き鮭も……こいつ相手では分が悪いかもなぁ……」

「デリアちゃ~ん。お子様的にはこっちの圧勝だと思うよぉ?」

 

 エステラとマグダが感心し、ロレッタがなぜか取り乱し、デリアが訳の分からない対抗心を燃やして、それをマーシャがぶった切る。

 概ね、好評なようだ。

 

「ヤシロさんっ!」

 

 そんな中、険しい顔をしたイメルダが人垣をかき分けて俺の目の前に進み出てきた。

 

「ワタクシ、もしかしたら九歳で成長が止まっているかもしれません!」

「そんなわけあるか!」

「しかし、誰にも確認を取ったことなどありませんし、その可能性を完全に否定できるものではありませんわ!」

 

 どうしてそう堂々と嘘を吐けるのかなぁ……いや、「かもしれない」だからギリセーフなのか? 確かに、可能性は否定でき…………いや、出来るだろ。

 

「ちょっといいかい、イメルダ」

 

 自信たっぷりにアホな主張をするイメルダに、エステラが呆れ顔で話しかける。

 まぁ、イメルダの暴走はエステラに任せておけばいいか。

 

「君、天才かい?」

「……マグダも、九歳で止まってる可能性が」

「あたしもです!」

「なぁ、マーシャ! あたいは?」

「可能性は否定できないねぇ~☆」

「ぽりぽり……私も……ぽりぽり……可能性くらいは……ぽりぽり」

 

 ……こいつら…………全員揃ってカエルにでもなればいい。

 

「分かった! あとで試食はさせてやる! だから、その後はガキどもから奪うようなマネはするなよ!」

「はっはっはっ。ボクたちがそんなことするわけないじゃないか、ヤシロ」

「……マグダたちは、空気が読める大人」

「ばっちり信じていいですよ、お兄ちゃん!」

 

 ……こんなにも空虚な言葉が、いまだかつてあっただろうか。

 

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