「で、かまくらってなんだ?」
一人だけずば抜けて雪まみれになっているデリアがにこにこ顔で尋ねてくる。
一番頑張ったの、絶対こいつじゃん。
そして疲れ知らず。……今度、なんか『頑張ったで賞』的なものをやるよ。
「雪で出来た小屋みたいなものだ」
俺はかまくらについての説明を始める。
基本的な作り方は、雪を山のように盛り上げて、その後、中を削り空洞を作る。大きさは……2メートルくらいの物にするかな。雪も大量にあるし。
「なんだ、簡単だな!」
デリアは余裕の笑みを浮かべる。
「でっかい雪玉を作って穴を開けりゃいいんだろ?」
ふっふっふっ、そう思うだろ? だがな、雪玉を大きくすると、転がすだけでもかなりの力が必要になる。
楽な作り方は、1メートル程度の中サイズの雪玉を三角形に並べて、その上にもう一つ雪玉を載せる。このピラミッド型の雪の塊に、雪を被せ、穴を掘っては上から被せ……と繰り返していくのだ。昔学校でやったことがある。子供でも、そこそこの物が出来る作り方だ。
「んじゃ、チームに分かれて作業開始だ!」
チームは、俺、マグダ、ロレッタの陽だまり亭チームと、デリアと弟たちのチートパワーチーム、イメルダとベッコとウーマロの芸術家肌チーム。エステラとナタリアの領主チームとなった。
まずは各々で雪玉を作り三角に配置する。入り口の向きを考慮して、掘る量を減らせるように雪玉を置く。
「絶対優勝して、豪華賞品をゲットするです!」
どこで吹き込まれた情報なのか知らんが、ロレッタがやたらと意気込んでいる。
賞品ってなんだよ……
「……一番いい出来のところには、店長がいい物をくれる」
「パンツか!?」
「……それを欲しがるのはヤシロだけ」
「じゃあおっぱいか!?」
「……以下略」
なんだよ!? ジネットがくれるいい物って……もしかして、エロくない物なのか?
まぁいい。勝てば分かることだ。
どうせ、他のチームは大したものが出来ない。経験と知識に差があり過ぎるからな。
俺が優勝間違いなしだ。
……つか、他のチームは完成するかどうかも怪しいね。
「どっせい!」
腹に響く重低音に思わずそちらを向くと、デリアがあり得ないような巨大な雪玉を作っていた。直径3メートル級の、バカでかい雪玉だ。
「あとは穴を開ければ終わりだな」
「「「それはお任せー!」」」
「ははっ。なんだ、簡単だな」
……あいつら、パワーがマジでチート過ぎんだろ!?
「ではお嬢様、我が一族に代々伝わる秘伝の雪かき術、とくとご覧に入れましょう! 秘技……『雪集め』!」
体が分裂して見えるような速度で移動し、周りからどんどん雪を集めていくナタリア。
つか、雪かき術なのに雪集めってなんだよ?
「ベッコさん、ウーマロさん。やっておしまいなさい」
「……まぁ、そうなるッスよね」
「拙者も、分かっていたでござる」
あの尊大な態度の金髪お嬢様は戦闘力が五十三万くらいあるのか?
「あ~、イメルダがデザインしたかまくらなら、そりゃあ綺麗な出来栄えなんだろうなぁ」
「……わぁ、それは楽しみ」
「楽しみです!」
「あ、妨害やめてッス!」
「煽るのは勘弁願いたいでござる!」
俺たちの言葉に、イメルダの『ワタクシ、期待されていますわ』魂に火が点いた。
「よろしいですわ! ワタクシによる、ワタクシのための、素晴らしいかまくらを作ってご覧に入れますわ!」
よしよし。お前もちゃんと作れ。
ウーマロとベッコばかりにやらせるんじゃない。
「手を出さないでいてくれた方がきっと楽だったッス」
「同感でござる」
まぁ、肩を落とした二人には、ほんのちょっとだけ同情をしてやらんでもないけどな。
そんなこんなで数時間。
俺は、獣人族パワーで大活躍のマグダと、普通に手伝ってくれるロレッタの協力を得て、日没前になんとかかまくらを完成させた。
一番に完成していたデリアと弟たちは、また分散して他のチームを手伝っている。
デリアはイメルダのチームに駆り出され、弟たちはエステラのチームに助っ人に向かっていた。……なぜ、ウチには来ない。
そんな過程を経て、全部のかまくらが完成した。
みんなどれもなかなかにいい出来だ。
ウチのはオーソドックスなかまくらで、デリアのところは球体をしている。元が雪玉だからな。そしてエステラのところは入り口がハートの形をしたオシャレな感じで、イメルダのところは、なんかもう、すごかった。もうちょっとした小屋じゃん、というような外観なのだ。
各々のかまくらに七輪を設置する。
念のため、空気がこもらないように換気用の小窓を開けておく。これで、中で何かを焼いても煙が充満することはないだろう。
「みなさん。お餅とお魚です」
ジネットが食材の載った盆を持って出てくる。
「わぁ、みなさんどれも綺麗ですね!」
かまくらを見たジネットが声を漏らす。
「で、どれが優勝だ?」
「優勝?」
「優勝者にはいい物をくれるんだろ?」
何か、とてもエロいものを。
「あぁ、そうでした。わたし、すっかり賞品の説明をしていませんでしたね」
食材の載った盆をマグダに預け、ジネットは再び食堂へと入っていく。
そして、出てきたジネットの腕に抱かれていたのは…………
「賞品の、ヤシロさん蝋像です!」
「まだあったのか、それ!?」
「お祭りの時に、ベッコさんが取り扱っておられた蝋像を譲り受けたんです!」
「折角みんなで作ったかまくらだ。優劣を競うなんて真似はやめよう。よって賞品は折半。四つのかまくらの中心で明かりになってもらう」
有無を言わさず、俺はその蝋像を向かい合うかまくらの中心部に立て、頭に火を点けた。
「きゃあ!? 蝋像が!?」
溶けてしまえ、こんな忌まわしい像。
夜になり、雪はほぼやんでいた。
少しくらいかまくらで遊んだって、風邪を引いたりはしないだろう。
「この中で飯でも食おうぜ」
「「「「賛成!」」」」
どのかまくらに入るかは自由とし、食材は平等に取れるように蝋像の足元に置かれた。
……供養されてるみたいで不愉快だけどな。
「……お餅……うまうま」
マグダが頬張っているのは、ほとんど焼きおにぎりと呼べる代物だ。
お餅ってのを知らないこいつらには、もち米を蒸して形を整えたものが『お餅』として認識されてしまうのだろうか。
それは由々しき事態だ。いつかちゃんとしたものを食わせてやりたいものだ。
そんなことをボーっと考え、俺は焼けた魚を頬張る。
こんなに遊び呆けた夏と冬は久しぶりだなぁ。
……なんて。
そんなことを考えながら、今度、海漁ギルドのマーシャにハマグリをおねだりしようと、心に決めたのだった。
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