三者会談から、早くも三日が経っていた。
領民への説明会、兼、王者二人の実力を領民に知らしめるイベントも無事終わり……まぁ、若干一名致命傷を負ったブタ顔の商人がいるが、あれは自分で言い出したことなので気にしないでおく……俺たちは四十二区を代表する料理を考えるために陽だまり亭に集まっていた。
なんで陽だまり亭が会場になっているのかと言えば、ウーマロが設計したこのキッチンが、広く使いやすく、機能的だからに他ならない。
なんでも、四十二区の飲食店の間では「リフォームするならトルベック工務店に!」というのがトレンドらしい。以前ケーキを教えた際に、ここのキッチンを見たシェフ連中が噂を広めたらしい。どいつもこいつも興味津々に見ていきやがる。
なんつうか、すごい宣伝効果だな。今度ウーマロから広告費を取ろっと。
んで、ここに集まったみんなというのは、四十二区に店を構える飲食店ギルドの加盟店の面々と、行商ギルドやマーケットの関係者、そして、エステラだ。
生産者たちも立ち会いたいと言っていたのだが、いくら陽だまり亭のキッチンが広くともそこまでの数は入れない。
可動式の壁をフルオープンにして、収容可能人数を最大にする。それでもちょっと狭いくらいだ。
まずはフロアで話し合い、いい案が出たらキッチンで試しに作ってみる、という算段だ。
「これが、競技で使用されるお皿だ」
エステラが直径30センチほどの大きなお皿を掲げて見せる。
デカい。
昨日一昨日と、エステラはナタリアを伴って他の領主たちと会談をしていた。そこで、皿の大きさや日程等、細かいことを決めてきたのだ。
俺が参加しなかったのは、メドラやハビエルが参加しないからだ。不公平になると追い出されてしまった。
完全に参謀扱いだもんな……俺は友人のよしみで助言してるだけなのに。
友達がオーディション受けるっていうから一緒にノリで履歴書出しちゃった、くらいの軽いノリなのに。……あ、それ俺だけ合格しちゃうフラグだな。
「でもさ、これだけお店があって、その中から四十二区の代表を選ぶなんて、そもそも不可能なんじゃないの?」
ゴールデンレトリバーのような耳を頭から垂れさせて、カンタルチカのパウラが発言する。
少し不服そうな表情だ。
「大会じゃ、一度回ってくるかどうかってところなんだよね? だったら、みんな自分の店の料理を宣伝したいに決まってんじゃない」
パウラの言葉に、多くの者が「うんうん」と頷く。
他区の人間が大勢集まる場で、自分の店の名物料理が紹介されれば、それを食べてみたいと思った客がどっと押し寄せてくることだろう。人気は集中し、一強になるかもしれない。いや、なるだろう。
まさに、『四十二区の名物』となるわけだ。
……出す料理が一品だけならな。
「その点は、ヤシロに案があるそうなんだ。ヤシロ、みんなに話してあげてくれるかい?」
「おう」
エステラに促され、俺はのそりと立ち上がる。
陽だまり亭の関係者である俺の話ってだけで聞く耳持たない者もいるかもしれんが…………と、思ったのだが。
「ヤシロが何か考えてくれてるんなら、まぁいいか」
「そうですね。彼ならいい案を出してくれるでしょう」
「ほら、みなさん。お静かに。ヤシロさんの話が始まりますよ」
……なんだ?
なんか、みんなやけに素直な気が……あぁ、アレかな? ケーキの売り上げが思いのほかよかったから、とか?
まぁ、話を聞いてくれるってんなら、それに越したことはない。下手な反発に遭うと時間と体力と精神力を浪費してしまうからな。
「え~、まず最初に。四十二区は美味い物が多い」
「おっぱいの話かしらね」
「きっとそうね」
「ヤシロさんだもんね」
「おい、そこ! 私語は慎め! そして、俺への評価を改めやがれ!」
無駄口を叩いた参加者を注意して、俺は再び話し始める。
「飲食店の数だけ名物があり、どの店も自慢の一品を競技に出したいだろうと思う」
俺の話を、参加者は「うんうん」と聞き入っている。
「どこかの店だけしか出品できないとなると、不平不満も出てくるだろう。そこで、俺からの提案なんだが……」
ここで俺は、ベッコに頼んで作ってもらった食品サンプルを取り出す。
「大人用お子様ランチ、『大人様ランチ』を提案する!」
大きな皿に、多種多様なおかずが載った、大人用のお子様ランチ。まぁ、プレート料理だな。
「わぁっ!」
「ちょっ! 立つな! 見えないだろ!」
「見せて見せて!」
「あ、ウチのフライが載ってる!」
「あれ、コレ、ウチのポテトか?」
どっと、参加者が押し寄せてくる。
……子供か!?
「じゃあ、見ながらでいいから聞いてくれ」
わいわいと賑わう参加者に向かって、俺は大人様ランチのコンセプトを発表する。
「どこか一つの店を選ぶと角が立つから、じゃあいっそ全部のっけちまえってのがコンセプトだ」
「あのぉ……ウチのメニューが無いんですけどぉ」
おっとりしたご夫人が手を上げる。
あれはオーガニック料理を扱ってる店のオーナーだな。
「エビフライにタルタルソースがついてるだろ?」
「あ、はい。ありますね」
「それがお前んとこだ。お前んとこのタルタルソースは、お世辞じゃなく絶品だ」
「まぁ~っ!」
こいつの店では、タルタルソースでスティック野菜を食べるのだが、そのタルタルソースが驚きの美味さで、是非このタルタルソースでエビフライを食ってみたいと思っていたんだ。
「とりあえず、これは各店から聞き取りをした結果考えられた第一案だ。今から実際作ってみて、適宜修正をしていきたいと思う。全員、食材は持ってきてくれてるよな?」
「は~い!」
「よっしゃじゃあ、いっちょ作るか!」
「ウチもハンバーグ出したいなぁ」
「あとで教えてもらえないかな?」
「いや、無理でしょ」
賑やかに、かしましく、各店の料理番たちが厨房へと入っていく。
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