異世界詐欺師のなんちゃって経営術

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宮地拓海
宮地拓海

無添加38話 玉入れ~スポーツマンシップに則って~ -3-

公開日時: 2021年3月31日(水) 20:01
文字数:2,189

「それでは、玉入れ――よーい!」

 

 

 ――ッカーン!

 

 

 高らかな鐘の音とともに、各チームの選手が一斉に走り出し、しゃがんで玉を拾い上げる。

 

「よぉし、狩猟ギルド四十二区支部! 俺たちの実力を見せつけてやれぇ!」

「「「おぉーっ!」」」

 

 青組の狩人どもが吼える。

 

「メドラさん、お願いね!」

「任せておきな! あんな小童どもに後れを取るアタシじゃないよ!」

「あんたら! 灼熱の炎と強靭な鋼に立ち向かっている金物ギルドの底力を見せてやる時さよ!」

「「「はぁ~い!」」」

「ほぅほぅ、金物ギルドの乙女たちは、タマタマの扱いがうまいみたいやなぁ~。手馴れとるんかなぁ~」

「や~だぁ~もう! レジーナちゃんのえっちぃ~!」

「そんなことないわよぉ~、ねぇ?」

「うんうん、ないない! も~や~だぁ~!」

「まごまご照れてんじゃないさよ、オッサンども! 玉なんか掴んでなげりゃいいんさね!」

「や~ん! ノーマちゃんのタマ使い、ら・ん・ぼ・う!」

「うっさいさよ!」

 

 黄組は……うん。メドラにだけ注意だな。

 ……レジーナ。お前、もっとまともな方面で人脈広げられねぇのかよ。変なのとばっか仲良くなりやがって。

 

「ぇい! よいしょ!」

「あはは! なんだよシスター、変な投げ方だなぁ」

 

 小さくジャンプしてはあさっての方向へ玉を飛ばすベルティーナ。

 女の子投げともまた違う、なんともへなちょこなフォームのベルティーナをデリアが笑っている。

 いやいや、しかし。フォームなんかどうでもいいんだよ。……揺れるなぁ。うんうん。

 

 ……っと!

 こうしちゃいられない!

 白組だ、白組!

 

「ぇ、え~い! あぁ……届きません」

「う~ん……っしょ☆ わはぁ~、入ったぁ~☆」

 

 懸命に腕を伸ばして玉を放り投げるジネットとマーシャ。

 玉を拾うためにしゃがめば揺れて。

 玉を拾って体を起こせば揺れて。

 少しでも高く飛ばそうとジャンプすれば揺れて。

 腕を振り抜けば揺れて。

 着地と同時にまた揺れる!

 悔しがってぴょんぴょん跳ねても揺れる!

 喜んではしゃいだって揺れまくる!

 

 すべての動作で揺~れ~る~の~だぁぁぁああああ!

 

「どぶっふ!」

 

 揺れる『たわわ』を見つめていると、俺のわき腹に青色の玉がめり込んだ。

 

「君は限度や節度というものを知らないのかい?」

「テメ……エステラ…………紳士協定どうしやがった?」

「今のは領民の身を危険から守るための正当な制裁だから、『不当な攻撃』には当たらないのさ」

「屁理屈をこねている暇があるなら少しは揺らせ!」

「君を楽しませるために努力するつもりはないよ!」

「努力ではどうにもならないことがある!」

「それは今この場で発するような言葉じゃないはずだ!」

 

 エステラの怒声に合わせて青組から『不当な攻撃』が飛んでくる。

 おい。もうあいつ反則だろ。レッドカードで退場させろよ。

 

 な~んてことをやっている間に、戦局は動いた。

 

「テメェ、何しやがる!?」

 

 青組から怒号が飛んでくる。

 声の主はウッセ。

 そして、その矛先は……マグダだ。

 

「……マグダはルールに則り、白組の勝利に貢献しているだけ」

 

 平坦な声で言って、マグダは次々と白玉を投擲する。

 鋭い球威で、青組の選手が投げた青玉に向かって。

 

 ばちん、ぼふっと音を鳴らして、白球が青玉を撃ち落していく。

 

「反則じゃねぇのか、おい!?」

「残念ながら、ルールには『他チームの選手が投げた玉に触れてはいけない』とあるだけです。我々はあなた方の投げた玉には指一本触れていません」

「イネスさんの言うとおり。我々は、誰一人としてルールを犯してはいない。これは、正当な行為」

 

 イネスとデボラがマグダに続いて相手チームの玉を撃ち落とす。

 カブリエル&マルクスも追随し、的確に敵チームの玉を撃墜していく。さすがのコントロールだ。どいつもこいつも器用なもんだ。

 白組選手の正確無比な白玉に弾かれて、青玉と黄玉が次々落下していく。

 

「そんな屁理屈がまかり通るか! 今すぐやめねぇとただじゃおかねぇぞオオバ!」

 

 ウッセが俺にいちゃもんを付けてくるが、それを受けて立ったのは新参者のリカルドだった。

 

「なぁ、ウッセよ。狩人が生温いことを言ってんじゃねぇよ」

 

 そうだな。

 こういうところできちんと役に立って、早く白組に受け入れられるよう努力をすべきだよな。よく分かってんじゃねぇか、新人。よし、俺を守れ。

 

「禁止されていない以上、それは卑怯でもなんでもねぇ。ルールをうまく活用できねぇのは、テメェの落ち度だ。狩人なら、どんな特異な状況、環境だろうと泣き言なんか言ってるヒマはねぇはずだ。狩るか狩られるか、そういう世界に生きてるはずだろ、なぁおい?」

「ぐ……、リカルド様……!」

 

 ウッセは意外とビビリで、妙に上下関係を気にするヤツだからリカルドには強く出られないのだろう。

 ぷぷぷ、ビビってやんの。

 

「ダーリンに借り受けた知恵で、随分と偉そうに吠えるじゃないか、えぇ、リカルド?」

 

 ウッセとリカルドの間に黄色い鉢巻を巻いたクマ、メドラが割って入ってきた。

 くそ。視界に入る度に死んだふりをしそうになる。

 あのレベルの怪物には効果がないって分かっているのに。

 

「さてはあんた、ダーリンのマネをしてモテようって魂胆だね?」

「違うわ!」

「アタシのような大物を釣り上げる気かい?」

「願い下げだわ!」

「ダーリンのように! ……ぽっ」

「名誉毀損やめてくんない?」

 

 誰がいつお前なんぞを釣り上げたか。キャッチする前にリリースしてやるわ! 魚影が見えた時点でな!

 

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